千年棚田はこうしてよみがえった 中国・ハニ族の貧困脱却ストーリー
中国南西部・雲南省元陽県のハニ族の千年棚田が、かつての「美しいのに貧しい」風景から、地域の人びとの暮らしを支える貧困脱却の舞台へと生まれ変わりつつあります。
雲海の上に幾重にも重なる棚田は「大地の彫刻」とも呼ばれ、長く人びとを魅了してきました。一方で、急斜面と標高差に囲まれたこの土地は、交通やインフラの面で不利であり、ハニ族の多くは長年、農業だけに頼る厳しい生活を強いられてきました。
雲南省・元陽の「大地の彫刻」とは
元陽県は、雲南省の山間部に位置する地域で、ハニ族の人びとが代々暮らしてきました。山の斜面一面に広がる棚田は、千年以上かけて少しずつ築かれてきたと言われ、雲海と朝焼けの中で刻々と色を変える景観が特徴です。
この棚田は、単なる絶景ではなく、雨水と山の湧き水を巧みに蓄え、稲作に利用する知恵の結晶でもあります。限られた土地を最大限に生かすために、先人たちは土を削り、石を積み、何世代にもわたって田を守り続けてきました。
美しさと貧しさが同居していた時代
しかし、こうした美しい棚田の風景は、長いあいだ貧困と切り離せませんでした。傾斜地での農作業は重労働のわりに収量が限られ、現金収入も少ないため、多くの若者は出稼ぎのためにふるさとを離れざるを得ませんでした。
観光客が棚田の写真を撮り、短い滞在を楽しむ一方で、地元の家庭は教育費や医療費の工面に苦労し続ける――。そんな「絶景の裏側」の現実が、少し前まで日常の風景でもあったのです。
棚田が貧困脱却のエンジンに変わるまで
近年、元陽県では、棚田の価値を「見て楽しむ景色」から「暮らしを支える資産」へと転換しようとする動きが加速しています。棚田を守りながら、ハニ族の人びとが安定した収入を得られるようにすることが、地域の大きな目標になっています。
取り組みの柱は、おおまかに次の三つに整理できます。
- 棚田米など農産品のブランド化
- 景観と文化を生かした観光・体験ビジネス
- インターネットを使った販路拡大と情報発信
棚田米のブランド化で「作って終わり」から脱却
段々畑で育つ稲は、昼夜の寒暖差や清らかな水に育まれ、香り高い米になると言われます。元陽県では、この特徴を前面に出し、産地や栽培方法を明確にした「棚田米」として売り出す動きが広がっています。
パッケージや物語性を工夫し、「誰が、どんな棚田で育てた米なのか」が見えるようにすることで、これまでより高い付加価値を得られるようになりました。収穫した米を中間業者に安く売るのではなく、自ら販売まで手がける農家も増えています。
観光と文化体験で「滞在してもらう」地域へ
元陽の棚田は、朝夕の光や季節ごとの色合いが大きく変わるため、写真撮影やトレッキングを目的に訪れる人が少なくありません。地元では、こうした観光客に一泊してもらい、ハニ族の生活文化も体験してもらう取り組みが進んでいます。
民宿や小さなゲストハウスでは、棚田の見える部屋だけでなく、伝統料理や民族衣装、田植えや収穫の手伝いなどを組み合わせたプログラムを用意し、観光収入が村全体に行き渡るよう工夫しています。
インターネットが広げる「山間地域の可能性」
山間部にある元陽県にとって、インターネットは市場と世界をつなぐ重要なインフラになりつつあります。オンラインショップやライブ配信を通じて、棚田米や茶葉、手工芸品を直接消費者に届ける事例も増えています。
観光面でも、ドローン映像や短い動画を通じて棚田の日常風景を発信することで、元陽という地名を知らなかった人びとにまで存在を知ってもらうきっかけが生まれています。
それでも残る課題は「持続可能な発展」
棚田が貧困脱却のエンジンとして注目される一方で、2025年の今、地域には新たな課題も見えてきています。観光客が増えればゴミや水資源への負荷が高まり、過度な開発は景観そのものを損なうおそれがあるからです。
棚田は、水路や森林、村落が互いに支え合うことで維持されてきた繊細なシステムでもあります。短期的な利益を追いすぎれば、そのバランスが崩れ、長い目で見て地域の魅力を失うことになりかねません。
だからこそ、地域内でルールをつくり、収益の分配や環境保全の方法を話し合うことが重要になっています。ハニ族の伝統的な知恵と、外からの知見や技術をどう組み合わせ、次の世代につないでいくかが問われています。
日本の読者へのヒント 「景色×生活×経済」で考える
都市から離れた山間地域が、自らの風景と文化を生かして貧困脱却をめざすという意味で、元陽の試みは、日本各地の地方創生とも通じるところがあります。
元陽の棚田から学べるポイントを、あえて三つに絞ると次のようになります。
- 美しい景色を「写真映え」で終わらせず、暮らしや歴史とセットで伝えること
- 一次産業と観光、デジタル技術を組み合わせ、収入源を多様化すること
- 地域の内外の人びとが対話しながら、環境と経済のバランスを探り続けること
雲海に浮かぶ千年棚田は、2025年の今も形を変えながら刻々と姿を変えています。その変化を追うことは、「豊かさ」とは何か、「地域の強み」とは何かを、私たち自身に問い返すきっかけにもなりそうです。
Reference(s):
Millennial terraces reborn: Hani people's path to poverty alleviation
cgtn.com








