中国の医療テック最前線:BCI臨床試験が切り開く新たな医療の可能性
リード:中国の医療テクノロジーが、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)や手術ロボットといった最先端技術を、実際の医療現場での治療に結びつけつつあります。2025年の侵襲型BCI臨床試験と政策支援の動きを手がかりに、この国際ニュースの意味を整理します。
世界最大級の医療体制とテック志向
中国は、人口の95%以上を基礎医療保険でカバーする世界最大級の医療体制を整えています。過去5年間で、医療分野の技術イノベーションに力を入れてきたこともあり、医療テックは国家的な重点分野になりつつあります。
その中核にあるのが、脳とコンピューターを直接つなぐブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)や、手術ロボットなどの先端医療機器です。かつては研究室レベルの技術だったものが、いま臨床現場へと一気に近づいています。
侵襲型BCI臨床試験という節目
四肢を失った男性が「考えるだけ」で操作
今年前半、中国は侵襲型BCI(脳内に装置を埋め込むタイプ)の前向き臨床試験を初めて成功させ、神経技術における歴史的な段階を一つ超えました。
この試験では、高電圧の感電事故で両腕と両脚を失った男性の脳内にBCIデバイスが埋め込まれました。わずか2〜3週間の適応トレーニングの後、この参加者は文字を入力し、メッセージを送り、さらにコンピューターゲームをすることができるようになりました。その速度と正確さは、健常者がノートパソコンのタッチパッドを使って操作するのに匹敵するとされています。
身体の自由を大きく損なった人が、再びコミュニケーションや余暇活動にアクセスできるようになるという意味で、この成果は象徴的です。
米国に続く2カ国目としての存在感
侵襲型BCIシステムを臨床試験段階まで進めたのは、これまで米国だけでした。今回の成功により、中国は2カ国目としてこの領域に名を連ねることになります。単に「追いついた」というだけでなく、独自のオリジナルなイノベーションを生み出す拠点としての存在感を示した形です。
中国科学院・脳科学と知能技術卓越センターの研究員である趙正拓氏は、「この臨床試験は、世界に対して明確なメッセージを発した。中国のチームは、コアとなる研究開発から臨床応用まで、一連の能力を備えている」と語っています。
政策面からの後押し:2025年8月の新ガイドライン
こうした技術的な勢いをさらに加速させるために、2025年8月には工業・情報化部(MIIT)、国家発展改革委員会(NDRC)など7つの中央部門が共同で、BCI産業のイノベーションを推進するためのガイドラインを発表しました。
この文書では、2027年と2030年をそれぞれの節目とする段階的な目標が示されています。狙いは、BCI産業のバリューチェーン全体でのブレークスルーを促すことです。
- 上流:センサーや電極、信号処理チップなどのハードウェア技術
- 中流:脳波などの信号を読み取り、解読し、出力につなげるBCIシステム
- 下流:医療リハビリ、コミュニケーション支援、エンターテインメントなどの応用シナリオ
産業アナリストの予測では、適用できる疾患や用途が広がるにつれて、中国のBCI市場規模は2028年までに60億元(約8億3,500万ドル)を超えると見込まれています。これは研究開発だけでなく、製造やサービスを含めた新しい産業としての成長期待を示しています。
広がる医療応用の可能性
BCI技術は、単に「ハイテクガジェット」としてではなく、患者の生活を変える医療ツールとして期待されています。華中科技大学同済医学院・協和病院の脳神経外科主任である姜小兵氏は、BCIが視覚障害や失語症の患者に部分的な身体機能を回復させる可能性に触れたうえで、次のような疾患にも言及しています。
- パーキンソン病
- てんかん
- アルツハイマー病
- うつ病
- 自閉スペクトラム症
ひとつひとつのブレークスルーが、こうした患者に新たな希望をもたらすと姜氏は説明しています。薬物療法やリハビリだけでは限界があった領域で、脳と機械をつなぐアプローチが補完的な選択肢になり得るという見方です。
日本の読者にとっての意味とこれからの視点
BCIや手術ロボットなど、中国の医療テックの動きは、医療が単に病院の中だけで完結しない時代に入っていることを示しています。遠隔医療、リハビリ、介護、そして患者本人の生活の質(QOL)とどう結びつけていくかが、今後の重要なテーマになります。
一方で、脳情報を扱う技術であるがゆえに、データの扱い、プライバシー、倫理といった論点も避けて通ることはできません。技術のスピードが速いからこそ、社会としてどのようなルールと信頼の枠組みを作るのかが問われていきます。
2025年の時点で、中国は侵襲型BCIの臨床試験と政策支援の両面で存在感を高めています。日本を含む他の国や地域の医療関係者や政策担当者にとっても、今後の医療イノベーションを考えるうえで、注視すべき動きと言えるでしょう。
Reference(s):
How China's medical tech innovations unlock new possibilities for life
cgtn.com








