なぜ中国は長江デルタ一体化を加速させるのか
中国東部の長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)は、国土のわずか4%で人口の約17%、経済規模は中国全体のほぼ4分の1を占めます。習近平国家主席が2018年に「国家戦略」と位置づけたこの地域一体化は、2024年には世界有数のメガエリアへと成長しました。なぜ今、中国は長江デルタの統合をこれほど重視しているのでしょうか。
長江デルタとは何か:4%の国土で約4分の1の経済
長江デルタ(Yangtze River Delta、YRD)は、上海市とその周辺の江蘇省・浙江省・安徽省からなる中国屈指の経済圏です。中国の国土面積の約4%にすぎませんが、人口は全国の約17%を抱え、経済生産はほぼ4分の1に達しています。
このポテンシャルに着目し、習近平国家主席は2018年11月、上海で開かれた第1回中国国際輸入博覧会の開幕式で、長江デルタの一体的発展を「国家戦略」として推進する方針を表明しました。「新発展理念を本格的に実行し、現代的な経済システムを構築し、改革と対外開放の水準を一段と高める」と述べ、地域一体化を中国の長期的な成長戦略の中核に据えたのです。
その後、習主席は何度も長江デルタ各地を視察し、関連会議を主宰して、統合プロセスの節目ごとに方向性を示してきました。
「なぜデルタなのか」を問う:2020年の合肥シンポジウム
2020年8月、安徽省合肥市で開かれた長江デルタ一体化に関するシンポジウムは、この戦略が国家優先事項に引き上げられてから初めての本格的な会合となりました。
習主席はここで、国内外で「深刻かつ複雑な課題」が続く中で、長江デルタの位置づけをより深く理解し、全国の経済・社会発展を牽引する役割を十分に発揮させる必要があると強調しました。単なる地域開発ではなく、中国全体の成長モデルをどう転換するかという文脈の中で、一体化が語られているのが特徴です。
電気自動車1台で見える「一体化」のメリット
長江デルタの一体化が現実の経済活動にもたらしている効果は、電気自動車(新エネルギー車)1台の生産を見ればよく分かります。
ある新エネルギー車の製造では、半導体チップやソフトウェアは上海、バッテリーは江蘇省常州、統合ダイカスト(鋳造)機は浙江省寧波から供給されます。自動車メーカーから見れば、これらの拠点は車で4時間圏内に収まっており、必要な部品・技術がすべて地域内で完結します。
こうした地理的な近さと産業分業が組み合わさることで、長江デルタには高度に統合されたサプライチェーンと「現代的な産業システム」が形づくられています。調達コストや輸送時間の削減に加え、企業同士が連携して研究開発を進めやすいことも、一体化がもたらす大きな利点です。
2024年、世界2位のメガ経済圏に
一体化の成果は数字にも表れています。2024年、長江デルタの域内総生産(GDP)は4.65兆ドルに達し、世界の都市圏クラスターの中で、米国のボストン〜ワシントン回廊に次ぐ第2位となりました。
貿易面でも、2024年の長江デルタの輸出入総額は過去最高を更新し、中国全体の36.5%を占めました。国土の4%の地域が、約3分の1を超える貿易を担っていることになり、長江デルタが中国の対外経済の「玄関口」として重要性を増していることが分かります。
現在(2025年時点)も、一体化の取り組みは継続しており、この巨大な経済圏が中国経済全体の安定と成長を下支えする構図は、今後もしばらく続きそうです。
イノベーションをエンジンに:科学技術・産業の統合
習主席が長江デルタの発展で繰り返し強調しているのが「イノベーション」です。2023年11月30日に上海で開かれたシンポジウムでも、地域をまたいだ科学技術と産業の協力を一段と強化する必要性を訴えました。
こうした方針のもとで、上海・江蘇・浙江・安徽の科学技術部門は共同で「長江デルタ科学技術イノベーション共同体」のオフィスを設置しました。その後、この共同体の行動計画が打ち出され、科学技術イノベーションに関する協調的な法制度の枠組みづくり、共同基金の設置、そして29件の共同研究プロジェクトの実施が掲げられています。その中には、ミリ秒単位のリアルタイム制御を目指すインテリジェント6G無線技術など、次世代通信をにらんだテーマも含まれます。
さらに、長江デルタでは国家レベルの先進製造クラスターが26カ所形成されており、これは中国全体の32.5%を占めます。大型航空機、バイオ医薬、新素材、高度な設備製造といった分野で、地域を越えた産業集積が進んでいます。
研究開発への投資も増えました。長江デルタのR&D投資比率(GDPに対する研究開発費の割合)は、2018年の2.81%から2023年には3.34%へと上昇しています。こうした取り組みは国際的にも評価されており、2024年の「グローバル・イノベーション・インデックス」では、上海〜蘇州のクラスターが世界5位、南京が9位にランクインしました。
なぜ今、一体化なのか:3つのポイント
中国が長江デルタの一体化を国家戦略として推し進める背景には、少なくとも次のようなポイントがあります。
- 高密度な経済集積を最大化するため
国土の4%に人口と産業が集中する長江デルタは、インフラや制度をそろえることで、少ない資源で大きな経済効果を生み出せる地域です。 - サプライチェーンを強靭にするため
部品・技術・人材が地域内で循環することで、生産の効率化だけでなく、リスク分散や迅速な復旧がしやすくなります。電気自動車産業の例はその象徴です。 - イノベーションと産業高度化を同時に進めるため
共同研究や共同基金、法律・制度の整備を通じて、研究開発と産業化を一体的に進める「イノベーションのエコシステム」をつくる狙いがあります。
日本とアジアにとっての意味
長江デルタの一体化は、中国国内の話にとどまりません。世界貿易の一大ハブであるこの地域の動きは、日本を含むアジアのサプライチェーンや投資の流れにも影響を与えます。
例えば、自動車やバイオ医薬、次世代通信といった分野で、長江デルタ発の技術やビジネスモデルが今後さらに存在感を高める可能性があります。日本企業やアジアのスタートアップにとっても、協力と競争の両面で意識すべき地域と言えるでしょう。
中国東部の一角で進む「一体化」の試みは、都市と都市、地域と地域がどう連携すれば新しい成長の形を生み出せるのか、という問いを私たちに投げかけています。ニュースを追いながら、自分たちの足元の地域づくりと重ねて考えてみる価値がありそうです。
Reference(s):
Why China is advancing integrated development of Yangtze River Delta
cgtn.com








