SCOの実務協力モデル:青島TIRルートと天津の役割
上海協力機構(SCO)が、物流・投資・人材育成を通じて「実務協力のモデル」を形にしつつあります。青島と天津で進む取り組みは、地域協力の今を映す分かりやすいケーススタディと言えます。
青島からタシュケントへ:TIRがつなぐ新ルート
2024年8月、中国東部の青島にある中国―上海協力機構地方経済貿易協力示範区(SCODA)から、医療用品を積んだ4台のトラックが出発しました。行き先はウズベキスタンの首都タシュケント。約1週間の旅は、SCODAとウズベキスタンを結ぶ初のTIR国際道路輸送ルートの開通を意味していました。
TIRとは、フランス語の略称で国際道路輸送を指し、各国の税関手続き簡素化を目的とした国際的な通関システムです。専用の通関証を用いることで、国境を越えるたびに貨物検査や保証金のやり取りを繰り返さずに済み、物流企業は時間とコストを削減でき、税関当局の負担も軽くなります。
現在、SCODAは4本のTIR国際道路輸送ルートを整備し、中国とロシア、キルギス・ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシを結んでいます。2025年7月末までに、これらのルートを通過したTIR車両は500台に達し、輸送された貨物の総額は約3億4100万元(約4750万ドル)、品目数は40種類を超えました。数字だけを見ると小さく見えるかもしれませんが、制度を活用した実務的な協力の「回路」が着実に動き始めていることを示しています。
5000億ドル規模に拡大するSCO経済圏
物流だけでなく、SCO加盟国との貿易全体もじわじわと拡大しています。中国税関総署によると、2024年の中国とSCO加盟国の貿易額は5125億4000万ドルに達し、前年から2.7%増加しました。
さらに、2025年1〜5月の5カ月間だけで、貿易額は2049億2000万ドルとなり、前年同期比で0.8%増となりました。世界経済の先行きが不透明な中で、プラス成長を維持している点は、SCO圏のつながりが着実に深まっていることを示していると言えます。
SCO議長国としての中国:SCO in Action
こうした動きの背景には、中国が2024年にSCOの輪番議長国を務めたことがあります。この時のモットーがSCO in Actionで、その名の通り、会議やプロジェクトを具体的に動かすことに力点が置かれました。
議長国期間中、中国はSCOの枠組みで100を超える会議やイベントを実施しました。主なものだけでも、環境・エネルギー転換をテーマにしたSCOグリーン開発フォーラム、テロ対策の地域機構による第42回会合、専門家の対話の場である2024年SCOシンクタンクフォーラム、SCO女性フォーラム、さらには2024年SCOアイスホッケー選手権など、多岐にわたります。
安全保障、経済、ジェンダー、スポーツと分野はさまざまですが、共通しているのは、政治的な理念よりも、実務的な信頼醸成や協力の仕組みづくりに重心を置いている点です。青島のTIRルートも、その一つの具体例と位置づけられます。
天津で進むサミット準備:キーワードは実務性
2025年、SCOサミットの開催地となる天津でも、「実務協力」をキーワードにした動きが進みました。4月10日、天津では中国―SCO持続可能な発展産業投資促進イベントが開かれ、同市で開かれるSCOサミットに向けた最初の大型イベントとなりました。
このイベントには、SCO加盟国の主要な機関や企業が参加し、エネルギー、石油化学、鉱業、インフラなど、持続可能な発展にかかわるプロジェクトや投資機会が紹介されました。会期中に、8カ国にまたがる18件のプロジェクト契約が締結され、その規模は総額47億9500万元(約7億ドル)に上りました。
天津市外弁公室の欒建章主任は、2025年SCOサミットに向けた準備のキーワードは実務性だと強調しています。サミットを、政治的なメッセージの場にとどめるのではなく、加盟国間の実務的な協力を一段と深める「実務的サミット」にしたいという狙いです。
ルーバン工坊と姉妹都市:人材と都市をつなぐ
天津は、SCOとの関係を築く上で、港湾都市としての地理的優位と、教育・産業基盤を組み合わせてきました。その象徴的な取り組みがルーバン工坊です。
ルーバン工坊は、職業教育や技能訓練を行う拠点で、天津を中心に蓄積された技術教育のノウハウを海外で共有することを目的としています。天津は2016年以降、アジア、アフリカ、ヨーロッパの23カ国に24のルーバン工坊を設立し、そのうち10カ所はカザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、ロシア、パキスタン、インド、カンボジア、エジプトなどSCO加盟国を含む国々に置かれています。
貿易面でも、2024年の天津とSCO加盟国との貿易額は473億9000万元となり、2023年比で15.6%増と高い伸びを示しました。2018〜2024年の期間で見ると、SCO加盟国から天津への実際の投資額は1億3681万ドルに達し、新たに設立された企業は213社に上ります。
都市間連携も進んでおり、天津は11カ国のSCO加盟国の都市と20の友好・姉妹都市関係を築いています。これにより、首都レベルの外交だけでなく、地方政府や企業、教育機関どうしの往来が頻繁になり、実務的な協力が積み上がりやすい土台が作られています。
SCOの実務協力モデルから見えるもの
青島のTIRルート、天津の投資促進イベント、ルーバン工坊、そして各種フォーラム。これらを合わせて見ると、SCOが目指す「実務協力モデル」の輪郭が浮かび上がります。
- 物流ルートや通関制度を整え、モノの流れを止めないこと
- 投資プロジェクトを通じて、エネルギーやインフラなど実体経済に資金を流し込むこと
- 職業教育や姉妹都市交流で、人材と都市どうしのネットワークを太くすること
- 環境、安全保障、スポーツなど多様な分野の対話で、政治的信頼を下支えすること
特徴的なのは、壮大な理念や数十年先のビジョンよりも、「今動かせる具体的なプロジェクト」に焦点を当てている点です。TIRルートを走る一台一台のトラックや、一つ一つのルーバン工坊、数十件規模の投資契約といった粒度で、地域協力を積み上げていくアプローチだと言えるでしょう。
日本を含む周辺国にとっても、ユーラシア大陸内部で進むこうした動きは、サプライチェーンやエネルギー、安全保障環境を考える上で無視できない要素になりつつあります。SCOの実務協力モデルを観察することは、これからの地域協力のあり方を考えるうえで、一つの参考事例となりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








