暮れゆく水郷Tongliで出会う「静けさの哲学」
2025年の忙しい都市生活に少し疲れたとき、ふと訪れたくなるのが、水と静けさに包まれた小さな町です。中国の水郷の一つ、Tongliで夕暮れ時に出会った「静けさの哲学」を、現地の空気とともにお伝えします。
ポストカードではなく「暮らし」の風景
Tongliの魅力は、観光用に整えられた大きな水郷の町とは違い、その「近さ」と「素顔」にあります。水面にせり出すように建つ古い家々は、絵葉書用のセットではありません。白く塗られた壁には何十年もの時間が刻まれ、雨に打たれた筋や、太陽に焼けた色ムラがそのまま残っています。
運河沿いには細い石畳の小道が続きます。長い年月をかけて無数の足に踏まれてきたその道は、角が取れ、ところどころは磨かれたように滑らかでした。人びとの暮らしと歴史が、足元から静かに伝わってくるような感覚です。
18時、日が静かに息を吐くとき
Tongliに着いたのは午後6時を少し回ったころ。ちょうど、1日の終わりが夕暮れの静けさに溶けていく時間帯でした。大都市の喧騒から来た身にとって、その静けさは、深く息を吸い込める「予備の肺」をひとつ与えられたような感覚でした。
空の明るさはまだ残っているのに、町全体のテンポがふっとゆるむ。店先の声も、往来の足音も、どこか一段階ボリュームが下がったように感じられます。その変化をきっかけに、自分自身のスピードも自然と落ちていきました。
人と水がつくるゆっくりしたリズム
運河沿いでは、地元の人たちがいくつかのグループに分かれて象棋(シャンチー、中国のボードゲーム)を指していました。盤面を囲む視線は真剣ですが、時間の流れそのものはどこまでも穏やかです。
石橋の下を、小さな舟がときどき通り過ぎていきます。ゆっくりと水をかくオールの音が、一定のリズムで水面を打つたびに、町の静けさがいっそう深まっていくようでした。急ぐ必要のない動きが、風景そのものの一部になっています。
- 景色の静けさ:白壁の家々と水面、石畳の小道がつくる、派手さのない落ち着いた風景。
- 音の静けさ:オールが水を叩く音や、静かに交わされる会話だけが聞こえる、やわらかな音の世界。
- 時間の静けさ:急かされることなく進む象棋の対局や舟の動きが示す、「急がなくてもいい」時間の流れ。
都市生活者にとっての「静けさの哲学」
大都市で暮らしていると、効率やスピードを意識せずに1日を過ごすことは難しくなりがちです。スマートフォンの通知、満員電車、締め切り…。そうした日常から少し離れてTongliの夕暮れに身を置くと、「静けさ」は単に音が少ない状態ではなく、生き方そのもののテンポのことなのだと気づかされます。
足取りをゆるめ、周囲の人びとのペースに合わせてみる。舟の速度やオールの動きと自分の呼吸を重ねてみる。そんなささやかな行為の積み重ねが、心の中に余白を生み出していきます。
2025年の今も、世界の多くの都市ではスピードアップが続いています。その一方で、Tongliのように「ゆっくり生きる」という選択肢を静かに示してくれる場所も確かに存在します。次に旅先を考えるとき、観光名所の数ではなく、その土地の「静けさの哲学」に耳を澄ませてみるのも、一つのヒントになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








