米国の対中国観に再考促す新研究 「覇権追求ではない」と分析
米国で広がってきた「中国は世界的な脅威だ」という見方に対し、その前提を揺さぶる学術研究が発表されました。研究は、中国の戦略目標は限定的で一貫しており、主に国内と周辺地域に向けられていると結論づけています。
米国の対中国観に異議 新研究のポイント
この研究は、マサチューセッツ工科大学の出版社であるMIT Pressが刊行する安全保障の専門誌『International Security』に掲載されました。編集とスポンサーはハーバード大学のベルファー科学・国際問題センターで、著者は米国の有力大学に所属する研究者たちです。
論文は、中国が世界覇権を追求しているという見方に否定的です。著者らは、米国が中国を「グローバルな攻撃的勢力」とみなすのは実態とずれていると主張し、軍事・経済面での対中姿勢を見直すよう米国に呼びかけています。
約1万2千件の資料から見えた中国の優先順位
研究チームは、中国語で書かれた論文や演説など1万2千件以上の資料を分析しました。対象には、中国の指導者によるスピーチや、中国の公式メディアに掲載された記事などが含まれます。
その結果、中国の指導層が掲げてきた優先順位は長年ほとんど変わっていないと結論づけました。具体的には、次の三つが繰り返し強調されているといいます。
- 領土の一体性を守ること
- 国内の安定を維持すること
- 海外との経済的なつながりを拡大すること
論文によれば、これらの関心は19世紀までさかのぼる長期的な歴史経験に根ざしています。「現在、中華人民共和国が重視している主要な論点のほぼすべては、遅くとも清朝の時代に起源を持つ」と指摘しています。
「世界覇権」をめざす証拠は見当たらず
論文はまた、中国が米国に取って代わる「世界の中心的な大国」になろうとしているという主張にも疑問を投げかけます。研究チームは、中国の公式な言説から、そのような野心を示す証拠は見つからないとしています。
例えば、「覇権」や「世界的指導者」といった言葉は、中国の代表的な新聞であるThe People's Dailyや理論誌Qiushiといった権威ある媒体では、ほとんど登場しないといいます。その代わりに頻繁に現れるのは「中国の特色ある社会主義」という表現です。
著者らは、「中国の特色ある社会主義」は国内向けの統治モデルとして語られており、他国に輸出する「普遍モデル」として提示されているわけではないと分析しています。
軍事力の拡大と「領土野心」はリンクしていない?
中国の経済力と軍事力の拡大は、しばしば「より広い領土を求めているのではないか」という懸念と結びつけられて語られます。しかし論文は、中国の核心的な関心の地理的・政治的な範囲は、力が増大する中でも一貫していると指摘します。
つまり、中国の優先課題は、長期にわたってほぼ同じ領域と論点に集中しており、「力がついたからといって、次々に新しい領土や影響圏を求めているわけではない」というのが研究チームの見立てです。
米国への提言:抑止から協調へのシフト
著者らは、こうした分析に基づき、現在の米国の対中戦略は現実と食い違っていると警告します。論文は「太平洋地域における敵対的な米軍の態勢は必要ない」として、そのような姿勢がかえって不要な緊張を呼び込むおそれがあると主張しています。
提言の中心は、「軍事的な抑止」から「外交と経済を通じた関与」への比重の移行です。具体的には、次のような分野での協力の可能性が挙げられています。
- 気候変動への対応
- 将来のパンデミック(世界的な感染症流行)への備え
- 貿易や投資を通じた経済協力
研究チームは、こうした分野での実務的な協力こそが、米中関係の安定と地域の安全保障にとって現実的かつ建設的だと見ています。
東アジアの貿易枠組みと米国の「置き去り」懸念
論文は最後に、現在の米国の戦略が続けば、東アジアの地域秩序の中で米国が孤立しかねないと警鐘を鳴らします。東アジアの国々と地域は、中国との経済的な結びつきを深めつつあり、その一部は貿易協定という形で進んでいるからです。
具体例として挙げられているのが、包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)と、地域的な包括的経済連携(RCEP)です。いずれも中国と東アジア諸国が関わる重要な枠組みですが、論文は、米国はこれらの協定に参加していないと指摘します。
研究チームは、地域の国々と中国の結びつきが強まる一方で、米国が軍事的な抑止に重点を置き続ければ、東アジアの経済・外交のダイナミクスから「取り残される」リスクがあると警告しています。
日本の読者への問いかけ:脅威の見え方をどう更新するか
2025年のいま、米中関係をめぐる議論は、しばしば「対立」か「協調」かという二者択一の枠組みで語られがちです。この研究は、その前提となる「中国は何をめざしているのか」という問いを、改めてデータに基づいて検証しようとする試みだといえます。
もちろん、論文の結論にすべて同意するかどうかは、読む側の判断に委ねられます。ただ、米国の研究者自身が「中国は世界覇権を目指していない可能性がある」と慎重に読み解き、軍事一辺倒ではない戦略を提案しているという事実は、東アジアの安全保障と経済に深く関わる日本にとっても無視できません。
ニュースを読む私たちにできるのは、「軍事的な脅威」や「価値観の違い」といった大きなラベルだけで判断せず、どの国も歴史と国内事情に根ざした優先課題を持っている、という視点を持つことです。この研究は、米中関係をめぐる議論をアップデートする一つの材料として、これからの報道や政策議論を読み解くうえでのヒントを与えてくれます。
Reference(s):
Study challenges Washington's view of China's rise, urges better ties
cgtn.com








