オーストラリア、コアラを守る世界初のクラミジアワクチンを承認
オーストラリアで、絶滅の危機にあるコアラを守るための世界初のクラミジアワクチンが承認されました。野生コアラの最大級の脅威に対して、有力な新しい手段が加わったことになります。
世界初の「コアラ用クラミジアワクチン」とは
今回承認されたのは、オーストラリアのサンシャインコースト大学(UniSC)が10年以上かけて開発してきたコアラ用のクラミジアワクチンです。承認を行ったのは、同国の農薬・動物用医薬品を管轄する規制当局であるオーストラリア農薬・獣医医薬品庁です。
UniSCによると、この承認は、クラミジア感染とその合併症からコアラを守るための大きな節目だと位置づけられています。ワクチンは単回接種で効果が期待できる設計で、追加のブースター接種は不要とされています。
ワクチンは次のような場面で使うことが認められました。
- 野生動物病院
- 一般の動物病院・動物クリニック
- 野外での保全活動の現場
開発を率いたUniSCのピーター・ティムズ教授は、単回接種で済むワクチンこそが、コアラの間で急速かつ壊滅的に広がるこの病気を抑える鍵だと説明しています。
なぜコアラのクラミジアがそれほど深刻なのか
クラミジアは交尾などの繁殖行動を通じて広がる感染症で、オーストラリアの野生コアラの間で大きな問題となってきました。UniSCの説明によると、一部の地域では感染率が70%に達するケースもあるとされます。
この病気がコアラにもたらす影響は深刻です。
- 痛みを伴う尿路感染症
- 不妊などの生殖機能の障害
- 失明
- 重症化した場合の死亡
研究者らは、クラミジアがオーストラリア全土の野生コアラの死因のうち、およそ半分を占める場合もあると指摘しています。すでに生息数の減少が懸念されている動物にとって、これは種全体の存続にも関わるレベルの脅威だと言えます。
これまでコアラのクラミジアに対して利用できた治療手段は、主に抗生物質でした。しかし、抗生物質は副作用として、コアラが唯一の餌としているユーカリの葉を消化する能力を損なわせるおそれがあります。その結果、治療中に栄養不良や飢餓状態に陥り、命を落とすケースも指摘されてきました。また、抗生物質では将来の再感染を確実に防ぐことができないという限界もあります。
こうした背景から、そもそも感染を防ぐことを目指したワクチンの登場は、国際ニュースとしても大きな注目を集めています。
10年以上の臨床データが示した安全性と効果
UniSCが公表した内容によると、このワクチンの安全性と有効性は、10年にわたる複数の臨床試験と野外での接種データによって裏づけられました。
UniSCが主導した研究では、ワクチンを接種したコアラについて次のような効果が確認されたとしています。
- 繁殖年齢に達したコアラがクラミジアの症状を発症する可能性を低減
- 野生のコアラ集団におけるクラミジア関連の死亡率を、少なくとも65%減少
- 単回接種で追加のブースター接種が不要という実用性
単回接種で済むという点は、保全の現場にとって特に重要です。野生コアラを何度も捕獲して処置することは、動物に大きなストレスを与えるうえ、現場の負担も大きくなります。一度の保護や治療のタイミングでワクチン接種まで行えることで、現場の作業効率とコアラの負担軽減の両方につながると期待されています。
保全政策にとっての意味とこれから
コアラのクラミジア感染症に対するワクチンが規制当局に正式承認されたことで、これまで研究段階にとどまりがちだった対策が、日常的な保全や診療のツールとして広く使える道が開かれました。
もちろん、ワクチンだけですべての問題が解決するわけではありません。コアラを取り巻く環境の変化やその他の病気など、多くの要因が生息数に影響を与えています。それでも、これまで死亡要因の大きな割合を占めてきた病気について、予防の手段が現場で使えるようになる意義は小さくありません。
今回の動きは、特定の野生動物の病気に対して、長期的な研究とワクチン開発を通じて対抗しようとするアプローチが、実際の政策や現場に結びつき始めた一例だと見ることもできます。
この国際ニュースから私たちが考えられること
オーストラリアのコアラについてのニュースは、一見すると日本からは遠い話に思えるかもしれません。しかし、絶滅の危機にある野生動物をどう守るのか、科学技術を保全にどう生かすのかという問いは、国や地域を超えて共通するテーマです。
今回のワクチン承認は、次のような問いを私たちに投げかけています。
- 野生動物の感染症は、種の存続や生物多様性にどのような影響を与えるのか
- 医療技術の導入と、動物福祉や生態系への配慮をどのように両立させるべきか
- 各国・各地域が、危機にある生物種を守るためにどのような支援や協力を進めていくべきか
スマートフォンで世界のニュースにすぐアクセスできる今、遠くの野生動物の話題も、私たち自身の社会のあり方を見直すヒントになり得ます。コアラを守るために生まれたこのワクチンが、今後どのように現場で活用され、どのような成果をもたらすのか。引き続き注目していきたい国際ニュースです。
Reference(s):
Australia approves world-first vaccine to save koalas from chlamydia
cgtn.com








