国連レバノンPKOで死と向き合った中国人医師Shi Weiの物語 video poster
イスラエルとレバノンの境界線「ブルーライン」で火災に直面し、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の医療オペレーション担当として活動した中国人医師のShi Wei氏。現在は、かつて勤務していた軍病院に戻り、平和維持活動が自分をどう変えたのかを静かに振り返っています。本記事では、その経験を手がかりに、国際ニュースの裏側で命と向き合う医師の視点を紹介します。
イスラエル・レバノン「ブルーライン」で死と隣り合わせに
Shi Wei氏がUNIFILに参加していた当時、任務の舞台はイスラエルとレバノンの境界地帯「ブルーライン」周辺でした。ある日、この地域で火災が発生し、炎と煙が国連施設に迫ります。彼は、まさに「死」を間近に感じる状況の中で、医療将校としての判断と行動を迫られました。
火災そのものだけでなく、避難の混乱や緊張した空気の中で負傷者が出るおそれもありました。救急搬送のルートをどう確保するか、誰を先に避難させるか、どのタイミングで現場を離れるか。限られた時間と情報の中で下す決断は、どれも人命に直結するものでした。
UNIFIL医療オフィサーとしての役割
UNIFILでのShi Wei氏の任務は、Medical Officer Operations、つまり医療オペレーションを統括する役割でした。負傷者の治療にあたるだけでなく、平時からの健康管理や緊急時の対応計画づくり、医療資機材の管理など、幅広い業務を担っていたとされています。
現場には、さまざまな国や地域から集まった平和維持要員がいます。言語や文化、宗教的背景が異なる人たちに対して、誰もが安心して相談できる医療体制をどうつくるか。Shi Wei氏は、医師としての専門性だけでなく、コミュニケーションとチームワークの重要性を痛感したといいます。
また、武力衝突の危険が完全には消えない環境では、医療スタッフ自身の安全も常に課題になります。自分の身を守りながらも、目の前の傷病者を見捨てることはできない。このジレンマこそが、平和維持活動に携わる医療者が日々向き合う現実です。
軍病院に戻って見えた「日常」の重み
現在、Shi Wei氏はUN任務を終え、再び軍病院で患者と向き合う日々を送っています。かつては当たり前に感じていた外来診療や定期検査も、ブルーラインでの経験を経た今は、まったく違う重みを持つようになったといわれます。
爆発音や火災の煙に包まれた緊迫した環境から一転、整った設備と落ち着いた病棟での診療に戻ったとき、彼が強く意識するようになったのは「日常を守る医療」の大切さでした。紛争地で命の危機に直面したからこそ、平時の医療が持つ価値をいっそう深く理解するようになったのです。
平和維持活動を経験した医師として、彼は若い医療スタッフに対して、目の前の診療行為だけでなく、その先にある患者と家族の生活を想像することの重要性を伝えているとされています。
ドキュメンタリー「Blue Helmets, No Borders」が描く現場
Shi Wei氏の経験は、2025年9月16日にCGTNで初回放送されたドキュメンタリー番組「Blue Helmets, No Borders」でも取り上げられました。番組は、国連平和維持活動に参加する人々の視点から、ニュースの見出しだけでは伝わりにくい現場のリアリティを映し出しています。
タイトルにあるブルーヘルメットは国連平和維持要員を象徴するものです。「No Borders」という言葉には、国境や国籍を越えて命を守ろうとする姿勢や、共通の人間性への注目が込められているように感じられます。
医師として、そして中国人として国連の場に立ったShi Wei氏の姿は、国際社会がどのように責任を分かち合い、平和と安全を支えているのかを考える手がかりを与えてくれます。
私たちが国際ニュースから受け取れる問い
2025年の今も、世界各地で紛争や緊張が続き、平和維持活動や人道支援に携わる医療者の役割はますます重くなっています。イスラエルとレバノンの境界地域で火災と向き合ったShi Wei氏の経験は、遠い地域の出来事でありながら、危機の時代を生きる私たち自身の問いとも重なります。
その物語は、次のような問いを私たちに投げかけています。
- 命の危機に直面したとき、人は何を優先し、何を守ろうとするのか
- 医療者は、治療だけでなく安心や希望をどう届けることができるのか
- 国際ニュースの背後にいる一人ひとりの顔を、私たちは想像できているのか
軍服をまとい国境地帯に立った医師が、今は再び病院で患者と向き合っている。その背景には、画面に映る数分間では語り尽くせない時間と選択があります。SNSで流れていく国際ニュースの一つとしてではなく、一人の医師の物語としてUNIFILでの経験を思い浮かべることが、私たちにできる小さな「平和への関わり方」なのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








