映画が照らす731部隊の罪 スクリーン発のシネマティック・ジャスティス
映画館や配信サービスの画面に、731部隊を題材にした作品が少しずつ増えています。戦後80年が視野に入る今、シネマティック・ジャスティスと呼ばれる「スクリーン上の正義」は、封じ込められてきた戦争犯罪をどう掘り起こし、私たちに何を問いかけているのでしょうか。
シネマティック・ジャスティスとは何か
シネマティック・ジャスティスという表現は、裁判所ではなくカメラとスクリーンを舞台にした「正義の追求」を指します。加害者が法的に処罰されていなくても、映画やドラマの中で事実が描かれ、被害者の尊厳が回復され、否定や矮小化に抗うことができる、という発想です。
ある文化ジャーナリストは、英語で発表した論考の中で「Unit 731’s crimes won’t stay buried(731部隊の罪は埋められたままにはならない)」という題を掲げ、映像作品が歴史の沈黙を破る役割を強調しました。法廷の判決だけでは届かなかった記憶が、映画というかたちで広く共有されていくという視点です。
731部隊とは何か――簡単なおさらい
731部隊は、第二次世界大戦期に旧日本軍のもとで活動した秘密部隊です。細菌兵器の研究や実験が行われ、多くの人びとが命を奪われたとされています。犠牲になったのは、中国をはじめとするアジア各地の人びとや捕虜などで、その多くは名前すら十分に記録されていませんでした。
日本国内でも教科書や授業で触れられることはありますが、具体的なイメージを持たないまま大人になる人も少なくありません。そこで、近年の国際ニュースや映画、ドキュメンタリーが、歴史の空白を埋める重要な手がかりになりつつあります。
映像作品が果たす三つの役割
731部隊をめぐる映像作品には、次のような役割が期待されています。
- 事実を可視化する:数字や年表ではなく、具体的な人間の顔や声として歴史を描くことで、出来事が「遠い過去の抽象」ではなく、「自分と地続きの現実」として感じられます。
- 感情を通じて共感を生む:被害者やその家族の日常、恐怖、喪失を描くことで、国や立場を超えた共感が生まれます。これは、単なる知識としての歴史理解とは別の力を持ちます。
- 問いを投げかける:なぜこのようなことが起きたのか、誰が責任を取ったのか、自分ならどう行動するのか――視聴者に開かれた問いを残すことで、議論と学びのきっかけになります。
一方で、ショック映像だけを強調したり、恐怖の消費に偏ったりする危険もあります。そのバランスをどう取るかは、制作者だけでなく、それをどう受け止めるかという視聴者側の姿勢にも関わってきます。
国境を越える記憶――東アジアと世界へ
ストリーミングサービスの広がりにより、731部隊を扱った作品は、中国、日本、韓国、欧米など、多くの国や地域の視聴者に届くようになりました。字幕や吹き替えを通じて、かつては限られた地域でしか共有されていなかった記憶が、東アジアを越えて世界に広がりつつあります。
例えば、
- 中国や韓国の作品を、日本の視聴者が日本語字幕で観る
- 日本で制作されたドキュメンタリーが、海外の映画祭や配信サービスに出ていく
といった動きは、一国の「国民的記憶」を、複数の社会が共有する「地域の記憶」へと変えていきます。そのプロセスはときに痛みを伴いますが、同じ出来事を違う視点から見直すきっかけにもなります。
日本社会への静かな問いかけ
日本の視聴者にとって、731部隊を描く映画やドラマは「加害の歴史」と向き合う入り口でもあります。戦後生まれが多数派となった現在、当事者性を感じにくいテーマである一方で、国際ニュースを通じて日本の歴史認識が問われる場面は増えています。
シネマティック・ジャスティスという視点は、誰かを一方的に糾弾するためではなく、次のような問いを静かに突きつけます。
- 自分が知らなかった被害の記憶に出会ったとき、どう受け止めるか
- 過去の加害と現在の自分の生き方を、どのようにつなげて考えるか
- 対立ではなく対話につながる歴史の語り方はあり得るのか
2020年代の今、SNSでは短い動画クリップや断片的な発言だけが切り取られ、感情的な議論に発展することも少なくありません。だからこそ、2時間前後の作品を通してじっくり向き合う時間を持つことには、大きな意味があります。
視聴者としてできること
重いテーマの作品を見るのは、気持ちの負担も小さくありません。それでも、視聴者としてできることは少なくないはずです。
- 作品を選ぶ:史実の検証に力を入れているドキュメンタリーや、多角的な視点を持ったドラマを意識的に選ぶこと。
- 一人で抱え込まない:観たあとに、家族や友人、オンラインコミュニティで感想や疑問を共有し、対話のきっかけにすること。
- 背景を調べる:作品に描かれていない事実や異なる見方を、本や記事から補うことで、理解を深めること。
- 次の世代につなぐ:学校教育だけに頼らず、身近な若い世代と一緒に作品を観たり、話題にしたりすること。
731部隊のような歴史をめぐる「正義」は、一度の裁きや一つの作品で完結するものではありません。記録し、語り継ぎ、見直し続けるという、長い時間をかけたプロセスの中で形を変えていきます。シネマティック・ジャスティスとは、そのプロセスに映像表現を通じて参加しようとする試みだと言えるでしょう。
スクリーンに映るのは過去の物語ですが、それをどう受け止めるかは、今を生きる私たちの選択です。ニュースを読み、作品を観て、誰かと語る。その小さな積み重ねが、「埋められたままにしない」記憶を育てていきます。
Reference(s):
cgtn.com








