カーボンシンクで「緑」を「稼ぐ力」に 内モンゴルの森林CCER最前線
森林や草地、湿地が生み出すカーボンシンクをどう経済価値に変えるか――中国・内モンゴル自治区で進む取り組みが、2025年のいま、脱炭素と地域振興を両立させる新しいモデルとして注目されています。
内モンゴルが挑むカーボンシンク経済
8月1日、内モンゴル自治区アルシャン市のドルアルト林場で進められてきた造林カーボンシンクCCER(中国認証排出削減量)プロジェクトが、公示手続きを終えました。これは国家のカーボン市場に参加し、検証段階に入ったことを意味し、森林・草地・湿地のカーボンシンクを巡る内モンゴルの先行事例といえます。
同自治区は、中国北部で最大かつ多様な生態機能を持つ地域とされ、グリーンカーボン(自然由来のカーボン吸収源)の潜在力が極めて高いとされています。森林面積は3億5700万ムー(約2380万ヘクタール)で全国1位、草地は8億1500万ムー(約5433万ヘクタール)で2位、湿地は7300万ムー(約487万ヘクタール)で4位に位置します。
「グリーンカーボン」の実力
これら森林・草地・湿地に蓄えられているカーボン量は合計で10億5380万トンを超え、年間のカーボンシンク能力は二酸化炭素換算で1億1900万トンに達し、いずれも中国トップレベルとされています。
内モンゴル林草局の専門家によると、緑のカーボンシンクの中核をなすのが造林カーボンシンクです。これは、植林によって新たに育つ森林が大気中の二酸化炭素を吸収・固定する仕組みを、プロジェクトとして定量化し、カーボンクレジットとして取引できるようにするものです。草地や湿地のカーボンシンクも組み合わせることで、陸上生態系全体がひとつのカーボン吸収ネットワークを構成します。
造林CCERプロジェクトでは、適切な土地と樹種の選定、排出削減量の計算、国家による認証と登録といった厳格な手順が求められます。企業はそこで生まれたクレジットを購入し、自社の排出を相殺します。内モンゴルは長年進めてきた三北防護林などの緑化成果を、こうしたカーボンクレジットとして「資産化」することで、生態と経済の両面の利益を得ようとしています。
プロジェクト化のハードルと突破口
しかし、すべての森林がそのままカーボンシンクプロジェクトになるわけではありません。内モンゴル草原生態カーボンシンク技術有限公司の劉偉氏は、対象地がどのような土地なのか、所有権が誰にあるのかを明確にし、一定以上の面積要件(新規案件では400平方メートル以上、2019年以前の案件では667平方メートル以上)を満たす必要があると指摘します。そのためには、膨大な現地調査とデータ整理が欠かせません。
こうしたボトルネックに対し、内モンゴルでは自治体と企業が連携し、データの標準化、作業手順のマニュアル化、技術の高度化など、複数の手段を組み合わせて対応しています。
衛星・ドローン・契約書で「三次元検証」
土地の属性確認では、アルシャン市のカーボンシンク弁公室が、衛星画像、専門家による現地踏査、土地請負契約などの資料を組み合わせた三次元的な検証システムを構築しました。ドルアルト林場のプロジェクトでは、複数回の現地調査とリモートセンシングを通じて、8万ムー(約5333ヘクタール)の対象地を精度高く特定しています。
技術面では、従来の人力中心の調査から、ドローンやレーダーを活用した計測へと移行しました。興安盟では、立木直径・樹高・樹冠幅の三つの指標を組み合わせたカーボン計算モデルを開発し、測定にかかる時間をおよそ7割削減しつつ、精度は95パーセントに向上、コストも半減させたとされています。地理情報システムを使った「一枚地図」プラットフォームにより、カーボンシンクの状況を可視化できるようになりました。
段階的な利益配分でリスクを抑える
収益配分の仕組みも工夫されています。興安盟では、カーボンクレジットの取引価格に応じて、政府と企業の取り分を変える段階的なモデルを導入しました。価格が1トン当たり100元以下の場合は政府7・企業3、100~200元では8対2、200~300元では9対1とし、300元を超える部分については企業取り分をゼロとする設計です。
価格が上がるほど政府側の比率を高めることで、企業には一定の収益を確保しつつ、投機的な価格高騰や大きな価格変動のリスクを抑えようという狙いがあります。
「カーボン×林業」人材をどう育てるか
もうひとつの課題は、人材です。カーボンシンクの実務には、林業・生態の知識と、カーボン市場や金融の知識の両方を理解する「カーボン林業」人材が求められますが、現場では専門人材が不足しています。
内モンゴル自治区は北京林業大学と連携し、国内有数の研究機関からなる11人の専門家諮問委員会を設置しました。この委員会は、2025~2035年森林・草地カーボンシンク計画など、中長期的な政策づくりを支えています。
現場レベルでは、興安盟が内モンゴル森林工業集団などと組み、カーボンシンクの方法論や取引実務をテーマにした研修を8回開催し、延べ750人以上が参加しました。企業側でも、内モンゴル大興安嶺カーボンシンク技術有限公司などが、専門家の短期派遣や現場指導、ベテランと若手によるメンタリング、大学との共同カリキュラム開発など、柔軟な形で人材育成に取り組んでいます。
広がる「カーボンシンク+」の試み
中国では2024年に自発的排出削減市場が再開されましたが、これまでのところ造林CCERプロジェクトはまだ上場していません。そのなかで内モンゴルは、カーボンシンクの価値を高めるために、さまざまな分野との掛け合わせに挑んでいます。
カーボンシンク+研究・教育
アルシャン市では、清華大学と協力した「カーボン探索の旅」というプログラムを実施し、学生たちが実際に森林で樹木を測定しながらカーボンシンクの仕組みを学びます。参加費や講座料が、自然資本の新たな収入源になっています。
カーボンシンク+観光
同じくアルシャン市では、観光客のカーボンフットプリント(移動などで排出される二酸化炭素量)を計算できるミニアプリを導入し、排出量を抑えた「低炭素旅行者」には割引などの特典を提供しています。フルンボイル市では、鉄道移動に伴う40.27トンの排出をカーボンシンク購入で相殺する「ゼロカーボン列車」を運行しました。
カーボンシンク+司法
さらに、内モンゴル森林工業集団は検察機関と連携し、2025年までに120件を超えるカーボン補償案件を処理し、合計120万元以上の資金を確保しました。これらの収入は森林保護に再投資され、「保護するほど価値が生まれ、その価値がさらに保護を支える」という循環を形づくっています。
「緑の資本」を地域の未来へ
内モンゴルで進む一連の試みは、生態系の価値を見える化し、市場のルールに乗せることで、地域の新たな成長エンジンに変えていくプロセスでもあります。デジタル技術や金融スキーム、人材育成を組み合わせた内モンゴルの経験は、「緑の山河」を「金山銀山」へと変えていくモデルのひとつとして、今後も注目されそうです。
Reference(s):
Turning ecological value into economic benefits via carbon sinks
cgtn.com








