王文氏が語るグローバル・ガバナンス:中国の10年と新イニシアチブ video poster
過去10年で、中国は国際社会における「ルールの受け手」から「ルールづくりの担い手」へと役割を変えつつあります。今年9月上旬、天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議では、その流れを象徴する「グローバル・ガバナンス・イニシアチブ」が中国から提示されました。
この新たなイニシアチブは、より公正で公平なグローバル・ガバナンス(世界のルールと制度の枠組み)を構築することを掲げています。中国人民大学重陽金融研究院の院長を務める王文(Wang Wen)氏は、自身のこの10年の経験を振り返りながら、中国の歩みをどう見ているのでしょうか。
中国は「参加者」から「提案するリーダー」へ
王文氏が強調するのは、この10年で中国の立ち位置が大きく変化したという点です。かつては既存の国際ルールに「適応する」ことが中心でしたが、今では自ら提案し、枠組みづくりに関わる機会が格段に増えています。
グローバル・ガバナンスとは、気候変動、エネルギー、安全保障、デジタル経済など、国境を越える課題について各国が話し合い、ルールや制度を整えていくプロセスを指します。この分野で、中国は参加者の一国にとどまらず、議題の設定や新たな仕組みの提案を行う役割を担うようになってきました。
天津SCOサミットで打ち出されたグローバル・ガバナンス・イニシアチブ
今年9月、天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議で、中国は「グローバル・ガバナンス・イニシアチブ」を発表しました。このイニシアチブの核心にあるのは、次のような考え方です。
- 国や地域の大きさにかかわらず、各国が対等な立場で意見を述べられる仕組みをめざすこと
- 発展途上国を含む幅広い国々が、国際ルールづくりの段階から参加できるようにすること
- 経済・安全保障だけでなく、開発、貧困削減、人と人の交流なども重視した、総合的なガバナンスを進めること
王文氏は、このイニシアチブを通じて、中国が「より公正で、機会の分かち合いを重視する国際秩序」をめざしていると説明します。単に自国の利益を追求するのではなく、ルールや制度を通じて各国の発展を後押しする構想だと位置づけているのです。
なぜ中国のアプローチは支持を広げているのか
では、なぜ中国のグローバル・ガバナンスへのアプローチは、世界各地で支持を広げつつあるのでしょうか。王文氏は、その背景にいくつかのポイントがあると見ています。
- 一貫したメッセージと長期視点
短期的な利害よりも、長期的な安定と発展を重視する姿勢を打ち出していること。10年単位で構想を示し、継続して実行しようとする点が、各国にとって予測可能性を高めています。 - 発展と公平さを両立させようとする姿勢
経済成長だけでなく、貧困削減やインフラ整備、人材育成などに焦点を当て、「ともに発展する」ことを前面に出していること。これが、多くの新興国や途上国の関心と重なっています。 - 多様な道を認める発想
各国の歴史や文化、発展段階の違いを踏まえ、単一のモデルを押しつけないこと。異なる制度や価値観を持つ国々が共存しながら協力する枠組みをめざす姿勢は、多様性を重んじる国々から受け入れられています。
こうした要素が重なり、中国の提案は「特定のブロックの利益」ではなく、「より多くの国が参加しやすいルールづくり」として受け止められつつあると王文氏は分析しています。
研究者の現場感覚から見たこの10年
中国人民大学重陽金融研究院の院長として、王文氏はグローバル・ガバナンスに関する議論の「現場」に長年立ち会ってきました。各国の研究者や政策担当者との対話を通じて感じてきたのは、「中国を見る視線が、慎重さを残しながらも、より対話志向に変わっている」という点だといいます。
その背景には、中国が国際会議や地域協力の場で、自らの立場を説明しつつ、相手の懸念を聞き取ろうとする姿勢を強めてきたことがある、と王氏は指摘します。グローバル・ガバナンス・イニシアチブも、そうした継続的な対話の積み重ねの上に位置づけられる取り組みだといえるでしょう。
日本の読者にとっての意味
グローバル・ガバナンスという言葉は、やや抽象的に聞こえるかもしれません。しかし、その中身は私たちの日常とも無関係ではありません。サプライチェーンの安定、デジタル空間のルール、気候変動対策のコスト負担、安全保障環境など、どれも企業や個人の生活に直結するテーマです。
そのルールづくりのプロセスで、中国がどのような役割を果たそうとしているのか。天津SCOサミットで打ち出されたグローバル・ガバナンス・イニシアチブと、王文氏のこの10年の経験は、その変化を読み解く一つの手掛かりになります。
国際ニュースをフォローする日本の読者にとって、中国のグローバル・ガバナンスへのアプローチを理解することは、これからの世界秩序を考えるうえで避けて通れない視点になりつつあります。今後、このイニシアチブが具体的にどのような枠組みや協力プロジェクトとして形をとっていくのか、引き続き注目していく必要がありそうです。
Reference(s):
Wang Wen: A decade of personal experience in global governance
cgtn.com








