デジタル敦煌とVR没入体験 莫高窟が語り直すシルクロードの物語 video poster
リード:VRがひらく新しい「シルクロード」
中国北西部・敦煌の莫高窟が、最先端のデジタル技術によって新しい姿を見せ始めています。VR(仮想現実)の没入型ツアー、バーチャルライブラリー、360度ドームシアターといった「デジタル敦煌」の取り組みが、シルクロードの記憶を現代の物語として世界に伝えようとしているのです。
莫高窟の壁画をめぐる「デジタル敦煌」とは
莫高窟は、長い歴史をもつ石窟群と色鮮やかな壁画で知られています。デジタル敦煌では、この空間をデジタル技術でもう一度「つくり直す」ことで、新しい鑑賞体験を生み出しています。
現在、紹介されている主な体験は次のようなものです。
- 壁画の細部までを歩いて巡るように感じられるVR没入ツアー
- 膨大な資料や画像にオンラインでアクセスできるバーチャルライブラリー
- 天井一面に映像が広がる360度ドームシアターでの映像体験
これらは単なる「見せ方の工夫」ではなく、莫高窟に刻まれた哲学や美意識を、デジタルの物語として再構成する試みでもあります。
「西洋中心の見方」をどう変えるのか
デジタル敦煌のもう一つのポイントは、「誰の言葉で敦煌が語られるのか」という視点です。北京国際研究大学のジェン・チェンジュン(Zheng Chengjun)教授(副学長)は、デジタル敦煌ライブラリーの意義について次のように語っています。
デジタル敦煌ライブラリーは、西洋の一方的な敦煌理解を変えてきました。敦煌本来の姿を取り戻すためには、私たち自身の言説体系で解釈する必要があります。
ここで言われているのは、「どの文化が正しいか」という対立ではありません。重要なのは、ある文化が他者の視点だけで語られるのではなく、その土地の研究者や人びとの視点からも語られることです。
「自分たちの言葉」で世界と対話する
デジタル敦煌のようなプロジェクトは、次の二つを同時に進めようとしていると言えます。
- 世界中の人がアクセスしやすい形で、敦煌の文化を開くこと
- その際の物語を、現地の研究者や専門家の視点から編み直すこと
つまり、オープンさと主体性を両立させる試みです。デジタル技術は、そのための新しい「言語」として使われ始めています。
世界に開かれた文化遺産という発想
VRやバーチャルライブラリー、ドームシアターといったデジタル技術は、文化遺産を次のように変えつつあります。
- 現地に行けない人でも、距離や時間を越えて体験できる
- 高精細なデータの蓄積によって、保存や研究の新しい方法が生まれる
- 映像や音楽、インタラクティブな演出を通じて、物語として理解しやすくなる
デジタル敦煌は、その象徴的なケースの一つです。古代の壁画に込められた思想や美意識が、デジタル空間のストーリーとして再編集されることで、新しい世代の観客にも届きやすくなっています。
2020年代の「文化とテクノロジー」を考えるヒント
デジタル技術が急速に進化する2020年代、文化遺産の世界でも「どこまでデジタル化すべきか」「何を守り、何を変えていくのか」という問いが生まれています。デジタル敦煌は、その問いに対する一つの具体的な答えを提示しているとも言えます。
文化をデジタル化することは、単にデータにすることではありません。どのような視点で整理し、どのような物語として世界に伝えるのか。その設計次第で、受け取る側の理解やイメージは大きく変わります。
日本の読者への問いかけ
今回のデジタル敦煌の取り組みは、中国北西部の一地域の話でありながら、「自分たちの文化を、どのような言葉と技術で世界に伝えるのか」という、より普遍的なテーマを投げかけています。
日本にも多様な文化や歴史があり、その価値をどのように未来へ、そして世界へと手渡していくかは、私たち自身の課題でもあります。敦煌のデジタル化の試みをきっかけに、文化とテクノロジーの関係、自分たちの物語をどう語るかという問いを、あらためて考えてみるタイミングと言えるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








