国連80周年と中国のグローバル・ガバナンス・イニシアチブ なぜいま必要か
2025年、創設80周年を迎えた国連は、大国間競争や地球規模課題への対応をめぐり大きな岐路に立っています。その中で、中国の習近平国家主席が打ち出したグローバル・ガバナンス・イニシアチブ(GGI)が、なぜ各国から「タイムリーで必要だ」と注目されているのでしょうか。
2025年、国連80周年と揺らぐ国際秩序
第二次世界大戦を含む二度の世界大戦の惨禍を経て、80年前に発足した国連は、平和、発展、協力という理念を掲げてきました。理念自体は今も変わっていませんが、現実の国際社会は複雑さを増し、一国主義や力による政治が多国間の枠組みを揺るがし、ガバナンスの「赤字」が広がっていると指摘されています。
こうした分岐点で打ち出されたのが、習近平国家主席によるグローバル・ガバナンス・イニシアチブです。多くの首脳や専門家が、この構想は国連創設時の精神を再確認し、グローバル・サウスの声を強め、現在進行中の課題に対する現実的な解決策を提示していると評価しています。
天津で提起された5つの原則
習主席は、2025年に中国北部の天津市で開催された上海協力機構サミットでGGIを提案しました。その中核には、次の5つの原則が掲げられています。
- 主権平等の堅持
- 国際法の順守
- 多国間主義の実践
- 人を中心に据えたアプローチ
- 実際の行動に重きを置くこと
国連創設80周年にあわせてインタビューに応じた国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は、「人間中心」で国際協力を強化することが重要だと強調し、GGIを多国間主義にもとづく取り組みとして歓迎しました。グテーレス氏は、この構想が国連システムを補強し、国際法に基づく国際秩序を支えるものだと評価しています。
第79回国連総会議長を務めるフィレモン・ヤン氏も、GGIは国連を中心とする国際システムを守ろうとする中国の姿勢をさらに明確に示したものだと述べました。中国は国連の創設メンバーであり、安全保障理事会の常任理事国として、国際ガバナンスの改善に責任を負う立場にあります。
グローバル・サウスの声を強める構想
GGIの特徴として、多くの専門家が指摘するのがグローバル・サウスへの視点です。中国外交学院の李海東教授は、現在の国際秩序には鮮明なコントラストがあると述べます。一部の西側諸国が既存の枠組みを揺るがしたり傍観したりする傾向がある一方で、グローバル・サウスの国々は、より均衡が取れ持続可能なシステムを作ろうとする意欲を強めているという見方です。
そのためGGIは、多くのグローバル・サウス諸国にとって共感しやすい構想となっています。ロシアのプーチン大統領は、国際関係で一部の国が頑なに「圧力」を用いようとする中で、GGIは前向きな変化をもたらそうとするタイムリーな提案だと支持を表明しました。
セルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領は、この構想が次の三つの切実なニーズに応えていると指摘しています。
- グローバル・サウス諸国の代表性を高めること
- 第二次世界大戦後に築かれた国際ルールと秩序を守ること
- 気候変動のような地球規模課題に対処するメカニズムを強化すること
ブチッチ氏によれば、中国の狙いは「すべての国と人々の平等を確保し、議論されることが本当に皆の利益となるようにすること」です。
キューバのミゲル・ディアスカネル国家主席も、ソーシャルメディアへの投稿で、GGIはグローバル・ガバナンス体制の改革に貢献し、人類が共に未来を分かち合うコミュニティづくりを後押しすると評価しました。キューバのブルーノ・ロドリゲス外相は、この取り組みの意義として、「国際関係の民主化を促進し、グローバル・サウスの共通の願いを体現している」と説明しています。
パキスタンのシャーハバズ・シャリフ首相は、GGIが途上国のニーズにより応えるようグローバル・ガバナンスを変えていくと述べています。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、現在のガバナンス体制の問題を解決する鍵だと支持を表明し、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相も、多国間システムが揺らぐ中で深く共鳴するアイデアだとして強く支持する考えを示しました。
理念を行動に変えるための「行動志向」
一方でアンワル首相は、国際秩序には深刻な「信頼の赤字」があると警鐘を鳴らしています。貿易、金融、気候変動への対応などで十分な成果が出ず、そのコストを最終的に負わされているのは各国の市民です。その上で同首相は、GGIを正義、人道、協力といった理念を具体的な行動に変えるための道筋だと位置づけています。
李海東教授も、GGIの強みは問題解決に重心を置いている点にあると分析します。構想は行動志向と公平・正義を強調し、複雑に絡み合う危機の根本原因に段階的に対処しながら、世界を「高熱状態」から落ち着きと安定へ導くことを目指していると述べています。
李氏によれば、GGIは世界の将来に対する信頼感を高め、共通の安全、共同繁栄、持続可能なグリーンな発展を通じてウィンウィンの成果を実現する方向性を示しています。
中国現代国際関係研究院の丁暁星研究員は、GGIを、中国が掲げてきた「広範な協議・共同貢献・共有」を特徴とするグローバル・ガバナンス観の重要な発展・深化形態だと評します。現在のグローバル・ガバナンスが直面する現実的な課題に対し、具体的な解決策を提示しているという位置づけです。
また、ケニアの国際関係研究者カヴィンス・アディア氏は、GGIは壊れつつある国際ガバナンスの枠組みを修復するための、現実的で合意形成を重視した道筋を示していると述べています。この枠組みは、開発の遅れ、抑えられない覇権主義、気候危機、一方的な行動といった緊急の課題に持続的な解決を与えられていないと指摘しています。
読者が考えたい三つの視点
GGIをめぐる議論は、国際政治だけでなく、私たちの日常の視野も広げてくれます。newstomo.comの読者として、次のような問いを自分なりに考えてみることができそうです。
- 国連創設80年を迎えた今、多国間主義を実質的に強めるには、どのようなルールや仕組みが必要なのでしょうか。
- 人を中心に据えたグローバル・ガバナンスとは、気候変動、パンデミック、経済危機などで具体的に何を意味するのでしょうか。
- グローバル・サウスの声を国際社会にどう反映させるかに、日本やアジアの国々はどのように関わりうるのでしょうか。
中国のグローバル・ガバナンス・イニシアチブは、国連を軸とした国際秩序をどう再構築していくかという、これから数十年を左右する大きなテーマの一つになりつつあります。各国首脳や専門家の評価を手がかりに、その背景にある問題意識と目指す方向性を丁寧に読み解くことが、私たち自身の視点をアップデートする一歩になりそうです。
Reference(s):
Why the Global Governance Initiative is timely and necessary
cgtn.com








