中国の気候行動は世界の青写真に?2025年サミット後の国際ニュース解説
2025年の気候サミットで、中国は新たな気候目標と具体策を示し、「約束」から「実行」へと踏み出した国として注目を集めました。本記事では、その中国の気候行動を国際ニュースの視点から整理し、世界にとってどんな青写真になりうるのかを解説します。
2025年気候サミットで浮かび上がった「実行力」
2025年の気候サミットでは、各国首脳が気候危機への危機感を共有する一方で、「実際に何を、どの規模で実行できるのか」が大きな論点となりました。その中で中国は、気候変動対策を単なる演説や約束にとどめず、国内外での実行計画として積み上げてきたことを前面に押し出しました。
中国の習近平国家主席はサミットで「壮大なビジョンには、具体的な行動が必要だ」と強調し、実施を重視する姿勢を改めて示しました。世界的に「目標はあるが実行が追いつかない」状況が続く中、行動の積み上げを重視するアプローチが注目されています。
2035年目標と「1+N」政策フレームワーク
中国の現在の気候戦略の出発点は、2020年に打ち出した「2030年までに二酸化炭素排出ピークアウト」「2060年までにカーボンニュートラル(実質ゼロ)」という長期目標です。この二つの目標は、中国の気候関連政策全体を方向づける「北極星」の役割を果たしています。
特徴的なのは、目標がスローガンで終わらず、「1+N」と呼ばれる政策フレームワークとして制度化されている点です。これは、
- 「1」=国家全体の長期戦略
- 「N」=エネルギー、産業、交通など各分野の具体的な実行計画
という構造で、中央のビジョンをセクター別・地域別の政策に落とし込む仕組みです。
今年の気候サミットでは、2035年を見据えた新たな削減目標(NDC:国ごとに定める温室効果ガス削減目標)が公表されました。その主な柱は次の通りです。
- エネルギー消費全体に占める非化石エネルギーの比率を30%超に引き上げる
- 風力・太陽光発電の設備容量を合計3,600ギガワット超に拡大する
- 新車販売において、新エネルギー車(電気自動車など)を主流とする
これらの数値目標によって、抽象的なビジョンが電力、輸送、産業といった現場レベルのアクションに翻訳されつつあります。
排出量取引制度(ETS)という「カーボンプライス」の実験場
中国は、国内政策の中で市場メカニズムと行政的なガバナンスを組み合わせたハイブリッド型のアプローチをとっています。その象徴が、2021年に始動した全国排出量取引制度(ETS)です。
このETSは現在、発電部門などを対象とする世界最大級のカーボンマーケットの一つとされ、排出枠(排出できる量の割り当て)の配分、取引、監督のルールが整備されています。企業にとっては「排出に価格がつく」ことで、省エネ投資や再エネへの転換を進める強いインセンティブとなります。
先進国でも排出量取引は導入されていますが、人口や産業規模の大きな国でここまでの規模で運用されているケースは限られます。中国のETSは、特に新興国が自国の事情に合ったカーボンプライス(炭素に価格をつける仕組み)を設計するうえで、具体的な参考事例になりつつあります。
再エネとEVを変えた「チャイナ・プライス」
もう一つの大きな特徴は、エネルギーと技術の転換スピードです。中国は意図的な産業政策を通じて、太陽光パネル、風力タービン、電気自動車(EV)用電池といったクリーンエネルギーのサプライチェーン全体で技術革新とコストダウンを加速させてきました。
かつては家電や電子機器で語られていた「チャイナ・プライス(中国価格)」が、今や太陽光・風力・EVなどのグリーン技術にも広がっています。その結果、世界各地で再エネ発電や電動モビリティの導入コストが大きく下がり、気候変動対策の選択肢が広がりました。
習近平国家主席は、環境技術と産業に関する国際協調を強め、高品質なグリーン製品の自由な流通を促すべきだと呼びかけています。中国の生産能力は、各国が自国のエネルギー転換を加速させる際の重要な「供給基盤」となりつつあります。
南南協力とグリーンな一帯一路
国際協力と気候ファイナンス(気候対策に向けた資金支援)の面でも、中国の立場はこの10〜20年で大きく変化しました。かつては支援を受ける側だった中国は、今や多くの途上国にとって重要なパートナーとなっています。
その具体的な枠組みとしては、
- 途上国同士の連携を強める「南南協力」
- インフラ構想である一帯一路のグリーン化
- 二国間の技術協力・資金協力の合意
などが挙げられます。こうした取り組みを通じて、中国は再エネ発電や省エネ設備の導入支援などを行い、パートナー国の緩和(排出削減)と適応(被害への備え)の能力向上に貢献しています。
その背景には、「共通だが差異ある責任」という考え方があります。これは、すべての国が気候変動対策に責任を持つ一方で、歴史的な排出量が多い先進国は、より大きな削減義務と資金・技術支援の責任を負うべきだとするものです。中国はこの原則を強調しつつ、途上国への協力を進めています。
世界にもたらす三つの影響
1. 制度モデルとしての影響
中国のETSやカーボンプライスの試行、エネルギー転換政策は、とりわけ新興国や開発途上国にとって「自国の条件の中でどう脱炭素に取り組むか」を考えるうえでの制度モデルとなりつつあります。必ずしも一国一様ではないものの、「どのセクターから始めるか」「どのように企業のデータを集めるか」といった実務面のノウハウは共有可能です。
2. 技術とコストのグローバルな拡散
太陽光・風力・EVなどの分野で、中国企業が担う生産規模は世界的に大きく、スケールメリットによってコストを押し下げてきました。その結果、再エネと電動化は「高価な選択肢」から、多くの国で「現実的な選択肢」へと変わりつつあります。
技術と製品のコストダウンは、各国の気候政策の野心度を高める土台となります。中国の産業発展は、結果として世界全体の脱炭素化ペースを押し上げる役割を果たしています。
3. 規範づくりにおける発言力
パリ協定以降、中国は国際交渉の場で、途上国のニーズを重視した協力メカニズムを提案するなど、気候ガバナンスの「ルールづくり」にも深く関わるようになりました。資金支援や技術協力のあり方を巡る議論においても、開発途上国の立場を代弁する存在として注目されています。
日本と各国が学べる視点
中国の気候行動は、各国にとってさまざまな示唆を与えています。日本を含む各国が参考にしうるポイントを整理すると、次のようになります。
- 長期目標を政策に落とし込む仕組み
2030年・2060年の長期目標を、2035年のNDCやセクター別政策につなげる「1+N」の構造は、長期戦略と短期行動のギャップを埋める一つのモデルです。 - 市場メカニズムと行政の組み合わせ
ETSなどの市場メカニズムに加え、明確な政府方針を示すことで、企業の投資判断を後押しするスタイルは、他国でも応用可能です。 - 気候行動と国際協力の一体設計
国内の脱炭素と、南南協力や一帯一路のグリーン化を連動させることで、気候政策を外交・開発政策と一体的に進める発想は、今後の国際関係を考えるうえでも重要です。
2025年以降の気候ガバナンスに向けて
中国の気候ストーリーは、中央の方針、地方・企業レベルの実験、国際協力を組み合わせた、大規模な「ガバナンスの実験場」とも言えます。そこから得られる教訓は、一国だけでなく世界全体にとって貴重なものです。
習近平国家主席は、気候変動への取り組みについて「正しい方向からぶれず、自信を失わず、行動を緩めず、強度を落とさない」ことの重要性を呼びかけています。2025年も終わりに近づく今、問われているのは、各国が自らの約束を具体的な実行計画に落とし込み、中国を含む他国との協力をどう深めていくかという点です。
途上国にとって中国の経験は、政策選択の一つの参考例となり得ます。一方、先進国にとっては、制度設計や技術移転で連携を深めるためのパートナーとして、中国をどう位置づけるかが問われています。気候危機への時間的猶予が限られる中、「約束」から「実行」へと踏み出すための具体的な青写真を共有できるかどうかが、2025年以降の国際社会にとって重要なテーマになっています。
Reference(s):
Beyond pledges: China's climate action is a blueprint for the world
cgtn.com








