世界心臓デー「Don’t miss a beat」心臓専門医が語る守るべき生活習慣
毎年9月29日は「世界心臓デー」。2025年に第26回を迎えた今年のテーマは「Don’t miss a beat(鼓動を見逃すな)」でした。心血管疾患が世界的に増えるなか、中国・北京のChuiyangliu Hospital affiliated with Tsinghua University 心内科主任医師、Xu Shiying 氏は、20年以上の臨床経験を振り返りながら「日々の予防こそが命を救う希望になる」と語っています。
心筋梗塞からマラソンへ:42歳男性の逆転ストーリー
Xu 氏が印象に残っているのが、2019年に急性心筋梗塞で搬送された42歳の男性患者です。長年の喫煙と不眠が続いていたこの男性は、突然の胸の痛みで病院に運ばれました。
カテーテルを使って詰まった冠動脈を広げ、ステント(血管の内側に入れる筒状の医療器具)を留置する緊急の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)により、血流は無事に再開。手術は成功しましたが、Xu 氏は「ここからが本当のスタートだ」と感じたといいます。
退院後、この男性は処方された薬をきちんと服用するだけでなく、喫煙や睡眠、食事、運動などを含めた生活習慣を医師の指導のもとで徹底的に見直しました。その結果、1年後には心機能が大きく改善し、マラソンを走り切ることができるまでに回復しました。
この症例は、体系的な心臓リハビリテーションと生活習慣の改善が、薬物療法と同じくらい大きな力を持つことを示しています。
心血管疾患とは?世界と中国で広がるリスク
心血管疾患(Cardiovascular Diseases, CVD)は、世界保健機関(WHO)によると年間およそ1,790万人の命を奪う、世界最大の死因です。心臓や血管の病気の総称であり、代表的なものとして次のような疾患が含まれます。
- 冠動脈性心疾患(CHD):心筋梗塞や狭心症など
- 脳血管疾患:脳梗塞や脳出血など
- リウマチ性心疾患
- その他の心臓・血管の病気
「Report on Cardiovascular Health and Diseases in China 2023」によると、中国では心血管疾患の有病率が年々上昇しており、現在およそ3億3,000万人が何らかの心血管疾患を抱えていると推計されています。このうち冠動脈性心疾患の患者は約1,139万人に上ります。
Xu 氏が専門とする冠動脈性心疾患は、男性での有病率が女性より高く、都市部より農村部で多い傾向があり、年齢とともに発症率が急速に上昇するとされています。
多くの人は、心臓の病気というと「薬や手術で治すもの」というイメージを持ちがちです。しかし、科学的なデータが示すのは、生活習慣の改善が薬物療法と同じくらい重要であり、予防の土台になるという事実です。
「高齢者の病気」だけではない:見落とされがちなサイン
それでもなお、心血管疾患については、一般の人の間にいくつもの誤解が残っています。
まず、「心臓病は高齢者だけの問題」と考えてしまうことです。実際には、動脈硬化(血管の老化や詰まり)は、不健康な生活習慣が重なることで若い世代から静かに進行していきます。
冠動脈性心疾患は、初期にはほとんど自覚症状がない場合もあります。見た目が健康そうで、運動能力が高い人でも、必ずしも心血管の状態が良好とは限りません。このため、定期的な検診を通じて、隠れたリスクを早めに把握することが重要だとXu 氏は指摘します。
また、薬は治療の中心的な柱ですが、喫煙や偏った食事などの不健康な習慣がそのまま続けば、薬の効果は十分に発揮されません。薬だけに頼るのではなく、生活全体を見直すことが求められます。
日常で心臓を守るには:まず「食べ方」を整える
心臓を守ることは、特別なときだけに意識するものではなく、毎日の生活のなかに溶け込んでいるべきだとXu 氏は言います。なかでも、誰もが今日から取り組めるのが「食事」の工夫です。記事では、科学的な根拠に基づく具体的なポイントが紹介されています。
1. 体重管理を意識した食事
心臓への負担を減らす最も分かりやすい方法の一つが、適正な体重を保つことです。そのために、次のような食事が推奨されています。
- 高脂肪・高糖質・高塩分の食品を減らす
- 野菜や果物、食物繊維を多く含む食品を増やす
全体としては、「エネルギーをとりすぎないバランスのよい食事」が基本です。目安として、1日の総エネルギー摂取量は次のように示されています。
- 男性:1,200〜1,500キロカロリー/日
- 女性:1,000〜1,200キロカロリー/日
また、朝・昼・夕のエネルギー配分は「3:4:3」の比率で分けることが勧められています。朝食と夕食を控えめにし、昼食をやや多めにするイメージです。
2. 三大栄養素のバランスを整える
脂質・たんぱく質・炭水化物という三大栄養素のバランスも、心臓の健康に直結します。Xu 氏は、次のような比率を目安として挙げています。
- 脂質:総エネルギーの20〜30%
- たんぱく質:15〜20%
- 炭水化物:50〜60%
特定の栄養素だけに偏らず、バランスよく摂ることがポイントです。
3. 食材は「種類」を増やす
何をどれだけ食べるかに加えて、「食材の多様性」も意識したいところです。記事では、次のような目安が示されています。
- 1日に少なくとも12種類以上の食品をとる
- 1週間では25種類以上の食品をとる
同じものばかりではなく、さまざまな食材を組み合わせることで、必要な栄養素を偏りなく取り入れやすくなります。
4. 塩分と砂糖を控えめに
味付けについては、「薄味に慣れる」ことが推奨されています。具体的には、次の点に注意します。
- 1日の塩分摂取量を5グラム未満に抑える
- しょうゆやみそ、加工食品など「隠れた塩分」にも気をつける
- 砂糖や甘いお菓子などの単純糖質を控えめにする
記事では、1日の総エネルギーに占める「添加された糖分」が10%未満になるよう心がけるべきだとしています。清涼飲料水やスイーツの量を意識して減らすことが、心臓の負担軽減につながります。
「鼓動を見逃さない」ために、できることから始める
世界心臓デーのテーマ「Don’t miss a beat」には、突然の発作だけでなく、日々の小さなサインや生活習慣の乱れを見逃さないでほしい、というメッセージが込められています。
Xu Shiying 氏が語る症例やデータは、「心臓の健康は、病院に行くその日だけで決まるわけではない」ことを教えてくれます。日々の食事、喫煙や睡眠、ストレスとの付き合い方など、一つひとつの選択が将来の心臓の状態を左右します。
完璧を目指す必要はありませんが、
- まずは飲み物から砂糖を減らしてみる
- 外食のときに塩分ひかえめのメニューを選ぶ
- 定期的な検診やチェックの予定を確認する
といった小さな一歩からでも、心臓を守る行動は始められます。今日の選択が、数年後の「鼓動」の力強さを変えていくかもしれません。
Reference(s):
Guard the beat: Key takeaways from a cardiologist for heart health
cgtn.com








