キルギス叙事詩「マナス」と新疆トヘナリがつなぐ世代の物語 video poster
リード:キルギス叙事詩「マナス」が語り継がれる理由
中国の三大口承伝統のひとつとされるキルギス叙事詩「マナス」は、単なる物語ではなく、世代を超えて響き続ける生きた文化遺産です。新疆アクチ県の語り手トヘナリは、その膨大な叙事詩を現代に伝えようと日々語り続けています。
2025年のいま、ニュースもエンタメもスマートフォンの画面を通じて出会うことが多い私たちにとって、「声で語り、耳で受け継ぐ物語」はどんな意味を持つのでしょうか。
キルギス叙事詩「マナス」とは何か
「マナス」は、キルギスの人びとに伝わる英雄叙事詩です。その特徴はスケールの大きさと、物語が抱える情報量にあります。
- 全8章、23万行以上におよぶ長大な作品
- キルギスの歴史・文化・日常生活を映し出す「百科事典」のような内容
- 英雄マナスと、その7代にわたる子孫の歩みを描く世代記
- 団結、不屈の精神、悪とのたたかいをたたえる価値観
つまり「マナス」は、一つの物語でありながら、キルギスの人びとの世界観や暮らしの知恵を丸ごと伝える、口承による巨大なアーカイブだといえます。
中国の三大口承伝統のひとつとして
この「マナス」は、中国の三大口承伝統のひとつにも数えられています。中国本土には多様な民族と文化が共存しており、その中で受け継がれてきた口承の物語は、地域ごとの歴史と記憶を宿しています。
紙の本でも、動画でもなく、「人が人に語りかける」という最も古いかたちで物語が伝わることは、それ自体が重要な文化のあり方です。「マナス」が今も語り継がれているという事実は、多様な物語を抱える社会の豊かさを物語っています。
トヘナリが継ぐ、曽祖父からの「声」
その伝統を現在進行形で支えている一人が、新疆アクチ県出身のトヘナリです。彼は地域レベルで認定された「マナス」の伝承者であり、幼いころから叙事詩とともに育ってきました。
トヘナリが「マナス」と出会ったのは、わずか3歳のとき。そこから28年間にわたり、語りの技を磨き続けてきました。いまもなお、彼の学びは終わっていません。
伝説的語り手ジュスプ・ママイのひ孫として
トヘナリは、伝説的な「マナス」の語り手として知られるジュスプ・ママイのひ孫でもあります。曽祖父の存在は、幼い頃から彼を叙事詩の世界へと自然に導いたと言えるでしょう。
彼は、曽祖父の力強い声が「風のように、すべての人の心に届いてほしい」と願いながら、「マナス」の一節一節を口にしています。その語りは、単なる暗唱ではなく、世代をつなぐ行為そのものです。
デジタル時代に生きる口承文化
録音や動画で「マナス」を保存することはできますが、トヘナリのような語り手の存在は、それとは少し違う意味を持っています。語り手と聴き手が同じ時間と空間を共有しながら物語を行き交わせることが、口承文化の核だからです。
スマートフォンでニュースを追う私たちにとっても、誰かの声に耳を傾け、自分の中に物語を育てていく経験は決して過去のものではありません。むしろ情報があふれる時代だからこそ、一つの物語をじっくり聞き、記憶し、語り継ぐ行為には新しい意味が生まれています。
「マナス」が投げかける問い
「マナス」が大切にしてきたのは、次のような価値観です。
- 仲間と力をあわせる「団結」の心
- 困難の中でもあきらめない「不屈」の姿勢
- 不正や悪に立ち向かおうとする意志
国や地域、世代を超えて共有できるこれらのテーマは、2025年を生きる私たちにもそのまま響きます。トヘナリの語りを通じて続いてきた「マナス」の声は、遠い土地の物語でありながら、働き方や人間関係、社会のあり方を考え直すヒントにもなりうるでしょう。
画面越しのニュースのその先で、どんな物語を次の世代に渡したいのか。キルギス叙事詩「マナス」の歩みは、私たち一人ひとりにも静かに問いかけています。
Reference(s):
cgtn.com








