中国の地域協調発展 第14次五カ年計画で何が進んだのか
第14次五カ年計画(2021〜2025年)が最終年を迎える2025年、広大な中国各地では、地域間のつながりがこれまで以上に密接になっています。出張で朝は上海、昼は南京、夜は杭州に戻るといった移動が「通勤の延長」のように感じられるほど、都市間のアクセスが向上し、経済圏同士の連携も加速しています。
「一枚の盤」で進む地域協調
中国では、第14次五カ年計画のもとで、地域協調発展が国家戦略として位置づけられています。国家発展改革委員会(NDRC)の鄭栄進(ジェン・シャンジエ)主任は、国づくりの発想を「全国を一枚の盤として見る」と表現し、地域ごとの条件に応じて政策を調整していると説明しています。
鄭主任によれば、第14次五カ年計画期に入ってから、地域協調発展は次のような変化を見せています。
- 地域ごとの機能分担がより明確になった
- 産業や技術の補完関係が強まり、相互依存が深化した
- 環境保護や交通インフラなどで共同ガバナンスが進展した
- 各地域の発展活力が高まり、全国全体の成長を支えている
その具体像は、首都圏の京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、広東・香港・マカオ大湾区といった主要経済圏に加え、中部・西部・東北部に広がる産業転移や新産業集積の動きから見えてきます。
京津冀:新エネルギー車でつながる協調イノベーション
中国北部では、北京市密雲区にある自動車メーカーBAICの新エネルギー車「スーパー工場」が、地域協調の象徴的な事例になっています。ここでは、アルミホイールが河北省秦皇島市から、デジタルキーが天津市から供給され、それらが北京の生産ラインで組み合わさって先進的な電気自動車が完成します。
部品の供給地と組立工場が異なる都市に分かれながら、物流・デジタル技術・サプライチェーン管理が一体となることで、三地域が一つの工場のように機能していると言えます。
京津冀の協調発展戦略は2014年に始まりました。それから約10年の間に、首都圏は高品質な成長で大きな成果を上げています。
- 2024年時点で、北京・天津・河北の域内総生産(GDP)の合計は9兆人民元を超えた
- 技術契約の取引額は年平均12%超の伸びを示し、知識や技術の移転が進展
- 100を超える共同イノベーション・プラットフォームが、大学・研究機関・企業をまたいで設置
これらのプラットフォームを通じて、人工知能(AI)、集積回路(半導体)、新エネルギー車といった先端分野での共同研究や事業化が進み、首都圏全体での付加価値創出につながっています。
長江デルタ:川沿いで進むグリーン成長
中国経済の中核の一つである長江沿いの地域では、環境保護を優先しながら成長を図る「グリーン発展」がキーワードになっています。長江流域では、湿地の回復や生態系保全が進み、長江に生息するスナメリなどの水生生物が回復傾向を見せています。化学工場の排水規制や設備更新によって水質が改善し、港湾・物流拠点でもクリーンエネルギーの導入が進んでいます。
中でも象徴的なのが、2019年に設立された「長江デルタエコグリーン一体化発展示範区」です。上海市青浦区、江蘇省呉江区、浙江省嘉善県にまたがるこの区域では、生態優先・グリーン発展を軸に、都市計画や産業誘致が進められています。
展示区では、次のようなプロジェクトが推進されています。
- 環境保護や水資源管理に関する共同プロジェクト
- 鉄道・道路などインフラの広域連結
- グリーン技術や新産業を育成するイノベーション施策
- 教育・医療・公共サービスの共通化や相互利用
2019年から2023年にかけて、展示区では180件の重点プロジェクトが動き出しました。2023年の展示区のGDPは4725億人民元に達し、2019年比で約5.94%の成長を記録しています。また、一定規模以上の工業企業による工業総生産は8729億人民元と、2019年比で8.19%増加しました。
長江デルタ全体として、環境保護と産業成長を両立させるモデルづくりが進んでおり、その取り組みは長江経済ベルト全体への波及が期待されています。
広東・香港・マカオ大湾区:貿易とイノベーションのハブ
中国南部の広東・香港・マカオ大湾区(Greater Bay Area、GBA)は、世界経済との接点となる重要な拠点です。高度な製造業と外向きの貿易機能を兼ね備え、国際金融やテクノロジー企業が集積するこの地域は、第14次五カ年計画期に入っても活力を維持しています。
米国による関税措置など外部環境の変化が続く中でも、2025年1〜5月の大湾区の中国本土側9都市の輸出入総額は3.61兆人民元となり、前年同期比4.4%増加しました。伸び率は全国平均を1.9ポイント上回り、中国全体の対外貿易のうち20.1%を占めています。
貿易構造を見ると、民間企業が引き続き主力となっています。
- 民間企業の輸出入額は2.32兆人民元で、前年同期比4.8%増
- 海外資本企業(外商投資企業)は最も速い伸びを示し、貿易額は1.12兆人民元と4.9%増
企業集積の面でも、大湾区は存在感を強めています。2024年時点で、大湾区にはフォーチュン・グローバル500企業が22社、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)が70社、国家レベルのハイテク企業が7万社以上集まっています。
製造業、貿易、金融、テクノロジーが相互に補完し合うことで、大湾区は中国の開放とイノベーションを牽引する重要なゲートウェイとなっています。
西部・東北・中部へ広がる産業転移と共同繁栄
地域協調発展は、沿海部の先進地域だけでなく、西部や東北、中部の省にも波及しています。キーワードは、産業の「梯度転移」と新たな産業クラスターの形成です。
雲南・昭通:豊富な資源を生かすシリコン産業
2024年12月、雲南省昭通市では巨大なシリコン炉に火が入れられ、「合盛シリコン水電シリコン循環経済プロジェクト」が始動しました。浙江省から同地に投資したホシンシリコン工業の羅立国会長は、「昭通はシリコン資源が豊富で、安定したグリーン電力もある。製品はより低炭素になり、生産もよりグリーンになる」と語り、持続可能な発展への期待を示しています。
これまで十分に活用されてこなかった昭通のシリコン資源が、新たな産業の原動力になりつつあります。地方政府は、長江デルタや広東・香港・マカオ大湾区からの投資を積極的に呼び込みつつ、インフラや産業支援体制の整備を進めています。
国家レベルの産業転移政策も追い風となり、東部から西部への「梯度的な移転」が加速しています。雲南省では、2024年に新たに契約された工業プロジェクトのうち7割以上が実際に着工し、その多くがシリコン太陽光産業、新エネルギー電池などの新興分野に集中しています。
黒竜江・中部地域:新産業クラスターの形成
東北部の黒竜江省でも、産業誘致が進んでいます。同省では2024年に172件のプロジェクトが契約され、そのうち約7割が戦略的新興産業に関連しています。
また、中国中部地域は、東西・南北を結ぶ地理的な優位性を生かし、次のような産業集積を形成しています。
- 18の戦略的新興産業クラスター
- 13の高度製造業クラスター
量子技術、メモリ半導体、建設機械といった分野で成長が続いており、中部が東部と西部をつなぐ「成長のハブ」としての役割を強めています。
鄭主任は、「地域間の発展格差を客観的に認識しつつ、それぞれの潜在力を引き出すことで、すべての地域・すべての人々が発展の成果を分かち合えるようにする」と述べています。
日本の読者への示唆:広域連携で何が変わるか
第14次五カ年計画の最終段階に入った今、中国の地域協調発展は、単なる成長の数字以上の意味を持ち始めています。全国を一つの「経済圏のネットワーク」として捉え、役割分担と補完関係を明確にしながら、交通インフラとデジタル技術でそれを支える――。そうした発想は、日本を含む他の国・地域にとっても示唆に富んでいます。
今回紹介した事例からは、次のようなポイントが見えてきます。
- 首都圏や湾岸経済圏などの「核」と周辺地域が、サプライチェーンとイノベーションで連結されていること
- 環境保護を重視しつつ、産業の高度化やグリーン技術の導入を進めていること
- 西部や東北、中部など、これまで相対的に遅れていた地域にも新産業を呼び込み、バランスの取れた成長をめざしていること
2025年12月時点で、第14次五カ年計画は残りわずかとなりました。中国が掲げる「地域がともに発展し、成果を広く分かち合う」という方向性が、この先どこまで具体的な形になるのか。日本やアジアの読者にとっても、引き続き注視していきたいテーマです。
Reference(s):
How China's regions develop together during the 14th Five-Year Plan
cgtn.com








