嫦娥6号が持ち帰った月の裏側サンプル 中国科学者が「より冷たいマントル」を報告
中国国家航天局と中国原子能機構が、嫦娥(チェンイー)6号ミッションで月の裏側から持ち帰ったサンプルの分析結果を公表し、月の裏側のマントルは表側より冷たい可能性があると示しました。月の内部構造や進化を考えるうえで重要なニュースです。
嫦娥6号が運んだ「月の裏側の岩石」
中国国家航天局(China National Space Administration)と中国原子能機構(China Atomic Energy Authority)は共同で、嫦娥6号ミッションによって地球に持ち帰られた月の裏側の岩石サンプルについて、新たな科学的知見を発表しました。
今回分析されたのは、月の裏側で採取された玄武岩(げんぶがん)と呼ばれる火山岩の小片です。これらの岩石は、かつて月の内部からマグマが噴き出して固まったもので、月の内部、とくにマントルと呼ばれる層の状態を知る手がかりになります。
岩石学・地球化学から読み解く「温度」
研究チームは、この月の裏側サンプルについて、岩石学(ペトロロジー)と地球化学の手法を用いて詳しく調べました。岩石学は、鉱物の種類や結晶の並び方から岩石の成り立ちを読み解く分野で、地球化学は、岩石に含まれる元素や同位体の比率を分析することで、温度や圧力、形成時期を推定する分野です。
分析の結果、嫦娥6号の玄武岩は、およそ28億年前に形成されたとされる年代を持つことが示されました。そしてこのとき、月の裏側のマントルの「ポテンシャル温度」は、月の表側のマントルよりも低かった可能性が高いと結論づけられています。
発表された主なポイント
- 対象となったサンプル:月の裏側から回収された玄武岩片
- 形成された年代:およそ28億年前
- 推定されたマントルのポテンシャル温度:
アポロ計画および嫦娥5号が回収した月の表側の玄武岩に比べて、およそ100℃低い - 比較対象:
・アメリカのアポロ計画が回収した月の表側サンプル
・嫦娥5号ミッションが回収した月の表側サンプル
「裏側のマントルはより冷たい」とはどういう意味か
発表によると、嫦娥6号サンプルから推定された月の裏側マントルのポテンシャル温度は、アポロと嫦娥5号の月の表側サンプルと比べて約100℃低いとされています。
ここでいう「マントルのポテンシャル温度」とは、マントル物質がどのくらい熱かったかを示す指標の一つで、実際の温度そのものというより、「どの程度の熱エネルギーをもっていたか」を比較するための概念です。岩石に残された化学組成や鉱物の情報から、形成当時のマグマの状態を逆算することで推定されます。
約100℃という差は、日常感覚では「大きいような、小さいような」数字ですが、惑星や衛星の内部を扱う研究では意味のある違いになりえます。マントルの温度は、マグマがどのくらい発生するか、どのタイミングで噴き出すかといった火山活動にも関係すると考えられているからです。
月の表側と裏側、その違いをどう見るか
今回の結果は、「月の表側と裏側では、内部のマントルの状態が少なくとも一時期、違っていた可能性がある」という見方を後押しするものです。裏側のマントルが比較的冷たかったという推定は、月全体の熱の動きや、内部の進化を考えるうえで、重要な条件になります。
これまで月探査では、表側のサンプルが多く回収・分析されてきましたが、今回のように月の裏側の岩石のデータが加わることで、月を「片面だけでなく、立体的に」理解するための材料が増えていきます。
アポロと嫦娥のデータをどう活かすか
今回の研究の特徴は、嫦娥6号のサンプルだけでなく、アポロ計画や嫦娥5号ミッションで回収された月の表側サンプルと直接比較している点です。異なる時期・異なる地域で採取されたサンプルを同じ土俵で比較することで、月全体の姿をより精密に描き出そうとする試みだと言えます。
月探査は国や機関ごとに別々に進められてきましたが、サンプルの比較というレベルでは、今回のようにデータが相互に補い合う形で使われています。2025年現在、こうした「サンプル間の比較」は、月や惑星の科学において重要なアプローチの一つになりつつあります。
これから私たちが注目したいポイント
今回の発表は、月の裏側のマントルが表側より冷たかった可能性を示したという点で、月の内部構造をめぐる議論に新しい視点を提供します。今後、次のような点に注目が集まりそうです。
- 別の地域や別の年代のサンプルでも、同じような温度差が見られるのか
- マントル温度の違いが、月の地形や火山活動の違いとどのように関連するのか
- 地球や他の天体のマントル進化と比較したとき、月がどのような位置づけになるのか
私たちの身近な夜空にある月も、内部では長い時間をかけて冷え、変化してきた天体です。嫦娥6号がもたらした新しいデータは、月を「ただの明るい天体」ではなく、過去の歴史を刻んだ惑星科学の研究対象として捉え直すきっかけにもなります。
今後、嫦娥6号サンプルのさらなる分析結果が公表されれば、月の裏側の素顔が、少しずつ明らかになっていくかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








