中国の地域医療改革 県レベル医療共同体で15分医療圏へ
中国で進む地域医療改革が、地方に暮らす人々の受診行動を大きく変えつつあります。安徽省の農村部で血液透析を受ける高齢患者の事例から、県レベル医療共同体を軸とした基層医療の強化策を読み解きます。
農村の患者が近くで透析を受けられるようになるまで
東部の安徽省六安市金寨県・燕子河鎮に住む64歳の胡徳田さんは、過去3年間、地元の鎮病院で命を支える血液透析を受け続けています。以前は遠く離れた都市部の病院まで通っていたため、交通費や宿泊費に加え、医療保険の償還率も低く、経済的な負担は小さくなかったといいます。
数年前まで、この鎮の病院では血液透析はおろか、基本的な外科手術もできませんでした。住民は軽い症状なら自宅で様子を見て、重い病気やけがの際は市や省の病院まで長距離の移動を強いられていました。
こうした状況を変えたのが、県レベルの医療共同体づくりです。医師や設備が都市部に集中しがちな中で、地方にも一定水準の医療を届ける仕組みづくりが進んでいます。
地域医療を変える県レベル医療共同体とは
転機となったのは2019年に始まった県レベル医療共同体のパイロット改革です。中国はこの年から、県域を単位に医療と公衆衛生の資源を一体的に運用する改革に着手し、金寨県も全国の先行地域の一つに選ばれました。
国家衛生健康委員会によると、この取り組みの狙いは、県レベル病院が中心となる診療の振り分け体制を整え、郷鎮や村レベルの医療機関の能力を底上げすることにあります。最終的には、よくある病気は市や県で、日常的な健康問題は基層の医療機関で対応できる体制を目指しています。
金寨県では、患者の受診ニーズに合わせて、人員・資金・医療機器を再配置し、郷鎮レベルの医療機関を七つのサブセンターとして機能強化しました。それぞれのサブセンターには県病院の幹部が責任者として入り、運営をリードしています。
あわせて、段階的な紹介・逆紹介の仕組みが導入されました。サブセンター側に患者を引き留められるようにするため、県病院からは副主任医師3人と看護師長1人のチームがそれぞれに派遣され、診療と人材育成の両面を支えています。
改革の結果、県病院では外来と入院の患者数がともに1割以上減少する一方で、基層医療機関の利用は2割以上増えたとされます。重症例は県病院へ、軽症や慢性疾患は身近な診療所へと、患者の流れに変化が生まれています。
数字で見る基層医療の底上げ
こうした県レベル医療共同体のパイロットは、現在、中国全土で2188の県・区に広がっています。そのうち約8割の地域では、医薬品や検査設備などを共有できる資源共有拠点が整備されました。また、郷鎮の衛生院や都市部の社区衛生サービスセンターの約9割で、小児診療に対応できる体制が整っているとされます。
より長いスパンで見ても、基層医療のインフラ整備は着実に進んできました。2009年の医療改革以降、中国の基層医療機関の数は88万2000から104万へと増え、17.9パーセントの伸びとなっています。これは診療所や郷鎮衛生院、社区のヘルスセンターなど、最前線の医療機関の裾野が広がってきたことを示しています。
中国は2027年末までに、すべての県レベル地域で医療共同体のカバーを実現し、住民が最寄りの医療機関に15分以内で到達できる体制を整えることを目標に掲げています。
2025年の新方針 基層のハードとソフトを強化
今年4月には、13の中央部門が合同で基層医療のインフラ最適化に関する指針を公表しました。国際ニュースとしても注目されるこの文書では、施設や機器といったハード面と、人材や運営体制、デジタル技術といったソフト面の両方を強化することが中核目標とされています。
国家衛生健康委員会・基層衛生健康司の運行評価処の責任者である胡同宇氏は、中国メディアに対し、関係部門と連携しながら、基層医療サービスの弱点や空白を重点的に補う取り組みを進めてきたと説明しています。単に施設数を増やすだけでなく、実際に住民が頼れる医療機関にすることが重視されています。
この指針によれば、2030年までに基層医療機関の配置は、よりバランスが取れ、アクセスしやすい形になると見込まれています。その際には、遠隔医療や人工知能などを活用した知能化サービスが広く利用可能になっていることも想定されています。
四川の事例 救急医療体制を一気に底上げ
基層医療の強化は、日常診療だけでなく救急医療にも及んでいます。西南部の四川省仁寿県では、胸痛、脳卒中、外傷、ハイリスク妊産婦、重症小児・新生児の五つの救急センターの整備を加速させています。
2024年には、県政府がインフラや医療機器の整備に1億9600万元、ドル換算で約2744万ドルを投じました。MRIやCTといった画像診断装置に加え、心臓や脳血管のカテーテル治療に用いる血管造影装置などが導入されています。
こうした設備と専門体制の整備により、心筋梗塞や脳卒中など時間との闘いとなる疾患についても、県レベルで初期対応から専門治療までを完結させやすくなります。都市部の大型病院に患者が集中する構図を和らげる効果も期待されます。
2027年と2030年に向けた地域医療のゆくえ
中国は2027年末までに、県レベル医療共同体の全国的なカバーと15分圏内の受診体制の構築を掲げ、その先の2030年には遠隔医療や知能化サービスが広く普及した基層医療ネットワークを構想しています。
高齢化の進行や慢性疾患の増加が続く中で、身近な医療機関の質と量をどう確保するかは、多くの国と地域に共通する課題です。県を単位とした医療共同体づくりや、救急から慢性疾患までを視野に入れた投資のあり方は、他地域の政策議論にも示唆を与えるといえます。
安徽省や四川省で進む取り組みはまだ途上ですが、患者の行動変化や医療機関の役割分担の変化が数字として表れ始めていることも事実です。今後、中国が掲げる15分医療圏とデジタル技術を活用した地域医療ネットワークがどこまで実現するのか。その進捗を追うことは、国際ニュースとしてだけでなく、各地の医療政策を考える手がかりにもなりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








