毒草から生まれたチベット紙 カビも虫も寄せつけない知恵とは video poster
「この紙は毒入りです」と聞くと身構えてしまいますが、チベットには、あえて毒のある植物の根を使って紙をつくるという、少し不思議で、とても合理的な伝統があります。毒性を逆手に取ることで、カビや虫から大切な文書を守ってきたのです。
毒草「狼毒」とチベットの紙づくり
チベットの紙職人たちは、長いあいだ「狼毒」と呼ばれる毒草の根を紙の原料として使ってきました。名前からして近寄りがたい印象のこの植物ですが、その強い毒性こそが、紙を特別なものに変えてきました。
根を材料にしてつくられた紙は、普通の紙に比べてカビが生えにくく、虫にも食べられにくいとされています。高地での生活や寺院文化のなかで、大切な経典や文書を長く守るために、身近な植物の性質を見抜き、利用してきた知恵だと言えます。
なぜ「毒の紙」はカビと虫に強いのか
狼毒の紙が「カビや虫に強い紙」として機能する理由はシンプルです。植物に含まれる毒が、カビの繁殖や虫の食害を妨げる働きをするからです。
- カビに対して: 紙自体に毒性成分が含まれていることで、湿気があってもカビが繁殖しにくい環境になります。
- 虫に対して: 紙を食べる虫にとって有害なため、そもそも近づきにくくなります。
保存剤や防虫剤をあとから塗るのではなく、原料の段階から「長持ちする紙」にしてしまうという発想は、現代の素材開発にも通じる考え方です。
毒性が守った古いチベットの写本
この毒草の力を借りた紙のおかげで、多くの古いチベットの写本が、今も残されています。紙がカビや虫に侵されにくかったことで、長い時間がたっても文字が読み取れる状態で保たれてきたのです。
もし普通の紙だったら、湿気や虫で傷み、すでに失われていたかもしれない文書も少なくないでしょう。狼毒を使った紙は、単なる生活の道具を超えて、歴史や文化、宗教的な知識を未来に運ぶ「タイムカプセル」の役割を果たしてきたとも言えます。
身近な「保存テクノロジー」として見る
現代の私たちは、保存といえば冷蔵庫や防カビ剤、防虫剤などを思い浮かべますが、チベットの紙づくりは、自然の性質を利用したローテクでありながら、非常に洗練された保存テクノロジーです。
ポイントは次の三つです。
- 身近な素材を観察し、性質を見極めること
- 短期ではなく長期の保存を前提にした設計をすること
- 「危険なもの」も、使い方次第で資源になると捉え直すこと
これはデジタル時代の情報管理にも通じます。どんなデータを、どんな形で残せば、何十年後、何百年後にも読めるのか。チベットの紙づくりは、その問いに対する古くて新しいヒントを与えてくれます。
「毒」から見える、ものの見方の転換
狼毒という名前からは恐ろしいイメージが先行しますが、チベットの人々は、その毒性を恐れるだけでなく、観察し、理解し、紙という形で暮らしの役に立ててきました。
危険そうに見えるものを遠ざけるだけでなく、「どうすれば安全に活かせるか」と考える姿勢は、社会問題やテクノロジーに向き合うときにも応用できるかもしれません。
毒草から生まれた一枚の紙。その裏側には、自然と共に生きながら、知識を未来へと手渡してきた人々の静かな工夫と、しなやかな発想が息づいています。
Reference(s):
cgtn.com








