四肢まひからの一歩:リウ・ボーチーさんを救った脊髄電極手術 video poster
四肢まひと診断された人が、わずか1年足らずで再び自分の足で立ち、歩き出す――。中国東北部の病院で行われた脊髄電極の埋め込み手術が、世界中のまひ患者に新たな希望を投げかけています。
クリスマス直前の事故から始まった物語
主人公は、35歳の交通警察官リウ・ボーチー(Liu Boqi)さんです。2024年のクリスマスの2日前の夜、勤務中の交通事故で生死の境をさまよい、中国東北部・吉林大学のSecond Norman Bethune Hospitalに緊急搬送されました。
MRI検査の結果、首の第3頸椎(C3)が骨折しずれており、その影響で高位頸髄(首のあたりの脊髄)が完全に損傷。腕も脚も全く動かない四肢まひの状態でした。
このような高位頸髄損傷では、そもそも命が助かる患者は1割未満とされています。同院の整形外科医で副院長のウー・ミンフェイ(Wu Minfei)医師によれば、リウさんも例外ではなく、予後は極めて厳しいと見られていました。
それでもリウさんは、軍隊勤務時代に身につけた規則正しい生活とトレーニングのおかげで、最初の救命手術を乗り越えます。まずは「生き延びること」が、最初の奇跡でした。
従来治療の限界──「立つ」「歩く」は遠い目標
手術後、リハビリテーションが始まりましたが、現実は厳しいものでした。首の高い位置で脊髄が完全に傷ついた場合、従来の手術とリハビリだけで、再び自力で立ち上がり歩けるようになる可能性はごくわずかです。
1カ月ほどリハビリを続けた段階で、医療チームはある結論に達します。命を守ることと、再び「自分の脚で歩くこと」は別のハードルであり、後者をめざすには従来とは違うアプローチが必要だということです。
脊髄に電極を直接埋め込む大胆な選択
そこでチームが選んだのが、脊髄に電極を埋め込み、電気刺激で体の動きを補助する最新の治療法です。吉林大学のSecond Norman Bethune Hospitalの医師らが開発した電極を、リウさんの頸髄に直接取り付けるという決断が下されました。
重大な手術だけに、家族の不安は大きかったといいます。それでも「もう一度自分の足で立ってほしい」という思いから、家族は医師たちの提案を全面的に受け入れました。
手術からわずか6時間後、奇跡の瞬間が訪れます。リウさんの右手の人差し指と中指が、かすかに動いたのです。医師たちは、脳からの信号が電極を通じて脊髄に届き、指先に動きとして表れたと考えています。
脊髄コンピューターインターフェースとは
こうした治療の背景にあるのが、「脊髄コンピューターインターフェース」と呼ばれる技術です。脊髄の表面に設置した電極が、コンピューターで制御された電気刺激を送り、損傷で途切れかけた神経のサインを助けることで、筋肉の動きを引き出します。
脳と体のあいだで情報をやり取りする「通訳」を機械が担うイメージに近く、まひのリハビリへの応用が期待されている分野です。
- 脊髄に直接電極を設置し、微弱な電気信号を送る
- コンピューターで刺激の強さやタイミングを調整する
- 残っている神経の働きを最大限に引き出し、動きを補助する
ロボット脚とリハビリで「自分の足」で立つ
電極の埋め込みに成功した後も、道のりは平坦ではありません。リウさんは、徹底したリハビリに加え、未来的な見た目のロボット脚「外骨格(エクソスケルトン)」を装着して歩行訓練を続けました。
電極からの刺激で筋肉の動きを引き出しつつ、ロボット脚が姿勢を支え、少しずつ「自分の足で立つ」感覚を取り戻していきます。現在、リウさんはこの組み合わせにより、再び立ち上がり、歩けるようになっています。
後に続く「Trailblazers」たち
リウさんの物語は、他の患者にも勇気を与えています。ジャオ・イエンチュン(Zhao Yanchun)さんは雑誌でリウさんの記事を読み、自らも電極の埋め込み手術を受ける決断をしました。
ジャオさんは、自分とリウさんを指して、英語で「Trailblazers(道を切り開く人たち)」と表現しています。リスクの高い新しい治療に挑戦することで、後に続く患者たちの道筋をつくりたいという思いが込められているのでしょう。
まひ患者にとっての「一筋の光」になれるか
もちろん、この治療がすべてのまひ患者にすぐ適用できる「魔法の解決策」というわけではありません。高度な設備と専門チームが必要で、長期にわたるリハビリも欠かせません。
それでも、四肢が完全にまひしたと告げられた人が、再び立ち上がる可能性がある――。そのことを実際の症例で示した点で、リウさんの経験は大きな意味を持ちます。
中国の国際メディアCGTNの医療番組「Health Talk」も、この症例と脊髄電極手術の意義を特集し、世界の医療現場への影響を探っています。まひを抱える多くの人にとって、こうした挑戦は「自分ももう一度歩けるかもしれない」という、一筋の光になりつつあります。
これからも、医学の最前線で生まれる物語が、世界中の患者や家族の希望の地図を少しずつ塗り替えていきそうです。
Reference(s):
Trailer: Paralysis patients might be looking at a glimmer of hope
cgtn.com








