中国のAI核融合制御、「人工太陽」実用化へ一歩前進
リード:AIが核融合プラズマ制御に挑む
国際ニュースとして注目されつつも、日本語ニュースではなかなか伝わりにくい核融合エネルギーの分野で、中国の研究チームがトカマク装置のプラズマをAIで制御するデータ駆動モデルを開発しました。持続可能な核融合発電の実現に向けて、一歩前進といえる成果です。
核融合エネルギーとは何か
核融合エネルギーは、太陽と同じ仕組みで軽い原子核を融合させ、大量のエネルギーを取り出す技術です。二酸化炭素を排出せず、事故リスクや放射性廃棄物の量も比較的少ないとされ、「究極のクリーン電源」とも呼ばれています。
なかでも世界の研究機関が主に採用している方式が「トカマク」と呼ばれる方式です。ドーナツ状の容器の中に、数千万度以上の超高温プラズマを強力な磁場で閉じ込め、「人工太陽」をつくるイメージです。
最大の課題は「プラズマ制御」
核融合炉が実用化するためには、プラズマの形と位置を長時間、安定して保つ必要があります。しかしプラズマは非常に不安定で、少しでも条件が変わると崩れたり、装置にダメージを与えたりしてしまいます。
従来のプラズマ制御は、物理法則に基づく詳細なシミュレーションと複雑なモデルに頼ってきました。これらは精度が高い一方で、計算量が膨大になり、強化学習のような高度なAI制御アルゴリズムを効率よく訓練するには時間と計算資源がかかりすぎるという課題がありました。
中国のHL-3で開発されたデータ駆動モデル
こうした課題に対し、中国の南西物理研究院のチームは、浙江大学や浙江省の研究機関と協力して、トカマクのプラズマを高速かつ高精度に予測できるデータ駆動型モデルを構築しました。
このモデルは、中国で最先端の磁場閉じ込め核融合装置とされる「環流三号(HL-3)」で蓄積された過去の実験データのみを使って訓練されています。つまり、複雑な理論モデルではなく、実際の運転データからプラズマの振る舞いを学習しているのが特徴です。
この研究成果は、ネイチャー・ポートフォリオに属する物理学専門誌「Communications Physics」に掲載された論文として報告されています。
LSTMや自己注意機構などのAI技術を活用
研究チームが開発したモデルは、いくつかの近年のAI技術を組み合わせたものです。
- 長期的な時間変化を捉えるLSTM(長短期記憶)ネットワーク
- 重要な情報に重みづけして処理する自己注意機構
- 予測誤差の蓄積を抑えるためのスケジュールドサンプリングと呼ばれる手法
これらを組み合わせることで、プラズマ電流や形状などの主要なパラメーターの時間変化を、従来のシミュレーションよりも効率よく、しかも安定して予測できるようにしたとされています。
実機の制御システムに導入、「ゼロショット」性能も
研究チームは、このAIモデルをHL-3の実際のプラズマ制御システムに組み込み、実機での検証も行いました。その結果、未知の条件下でも制御が安定しており、環境の変化に柔軟に対応できるロバスト性が確認されたと報告されています。
特に注目されるのが「ゼロショット一般化」と呼ばれる性質です。これは、学習時には経験していないパターンや条件に対しても、追加学習なしで一定の性能を発揮できることを意味します。核融合炉のように、試せる条件が限られている装置にとって、この性質は大きな武器になります。
なぜこの成果が重要なのか
今回の成果は、次のような点で核融合研究のスピードアップにつながると期待されています。
- 計算コストの高い物理モデルに全面的に依存せずに、高速にプラズマ挙動を予測できる
- AIによる高度な制御アルゴリズムの訓練を、より短時間かつ低コストで行える
- 将来の大型装置や商用炉での制御戦略を、シミュレーション上で柔軟に試せる
論文の査読者らは、このアプローチが国際協力で進む大型トカマクITERや、今後の商用核融合炉向けのインテリジェント制御システムの開発に弾みをつけると評価しています。
AIとエネルギーの未来をどう見るか
2025年現在、世界各地で核融合エネルギーの研究開発が加速するなか、AIを使って実験効率や制御性能を高めようとする動きは、今後さらに広がっていくとみられます。今回の中国の取り組みは、その一つの方向性を具体的に示す事例と言えるでしょう。
もちろん、核融合発電が実際に商用化され、私たちの家庭や産業で使われる電力になるまでには、材料開発やコスト、安全性など、まだ多くの課題が残っています。それでも、プラズマ制御というボトルネックをAIで乗り越えようとする試みは、クリーンエネルギーの未来像に新しい可能性を与えています。
エネルギー安全保障と脱炭素を同時に達成する手段として、核融合とAIの組み合わせが今後どこまで進化するのか。国際ニュースとして動向を追いつつ、自分たちのエネルギーの選択肢について考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








