中国の防災テクノロジー最前線 第36回国際防災の日に見る変化
地震や豪雨などの自然災害が頻発するなか、中国が防災・減災をテクノロジーで強化する取り組みを加速させています。今年、第36回「国際防災の日」のテーマは、資金の使い方を問い直すFund Resilience, Not Disasters(災害ではなくレジリエンスに資金を)でした。この文脈の中で、中国の動きは、アジアや世界の安全保障、そして持続可能な成長の観点から注目されています。
国際防災の日が映し出す課題
国連が定める国際防災の日は、災害リスクの軽減と、被害を小さくするための投資を呼びかける日です。自然災害は今も世界最大級のリスクの一つであり、人命だけでなく、インフラや経済成長にも長期的な影響を与えます。
2025年現在、気候変動の影響も重なり、豪雨や台風、熱波などの極端な現象が増える中で、単なる復旧ではなく、事前の予測と備え=レジリエンス(しなやかな回復力)にどう投資するかが世界共通のテーマになっています。
2035年を見据えたスマート防災への転換
中国は、第14次五カ年計画(2021〜2025年)の一環として、緊急管理システムの現代化を進めています。計画では、2035年までにデジタル技術と科学的な意思決定、市民参加を組み合わせた「現代的でインテリジェントかつ協調された」防災・減災の枠組みを構築することを目標に掲げています。
この枠組みは、システム全体を次のようにアップデートすることを想定しています。
- 膨大な観測データをリアルタイムで集約するデジタル基盤
- 人工知能(AI)やシミュレーションに基づく科学的な意思決定
- 住民参加型の避難・通報・訓練の仕組み
- 中央と地方、関係機関が連携する統合的なガバナンス
2025年はこの計画の最終年にあたり、各種制度改革や技術開発の成果が具体的な形で現れつつあります。
Diting:1億超のパラメーターを持つ地震波モデル
中国の応急管理部は9月下旬の記者会見で、防災に関する改革と技術革新の成果を公表しました。その中でも象徴的なのが、世界で初めてとされる大規模な地震波モデルDitingです。
Ditingは、1億を超えるパラメーター(計算のための変数)を持つ高度なシミュレーションモデルで、地震の揺れ方や波の伝わり方をより現実に近い形で再現することを目指しています。これにより、次のような効果が期待されています。
- 地震発生時の揺れの分布や強さを高精度に予測
- 建物やインフラが受ける影響の事前評価
- 早期警報システムの性能向上と、避難判断の迅速化
こうしたシミュレーション技術は、災害が起きてから対応する事後型から、被害を事前に減らす予防型への転換を支える土台になりつつあります。
陸・海・空・宇宙をつなぐ巨大気象観測ネットワーク
中国気象局(China Meteorological Administration, CMA)は、最近北京で開かれた記者会見で、陸・海・空・宇宙をカバーする世界最大かつ最も包括的な連携気象観測システムを構築したと説明しました。
このシステムは、次のような観測網から成り立っています。
- 9基の風雲(Fengyun)気象衛星
- 842基の気象レーダー
- 9万カ所を超える地上観測ステーション
衛星とレーダー、地上観測のデータを組み合わせることで、豪雨や雹(ひょう)、竜巻、雷雨など、これまで捉えるのが難しかった局地的な現象も含めて、災害性の高い気象を立体的に監視できる体制が整いつつあります。
BeiDouが切り開く新しい気象観測
CMAの担当者によると、中国が独自に開発した衛星測位システム北斗(BeiDou)は、気象用の高層観測分野で、これまで事実上独占的だったGPSへの依存を終わらせたといいます。気球などを使った高層の気象観測でも、BeiDouによる位置情報が活用されるようになりました。
過去5年間で、中国のレーダー監視ネットワークは国際的にも先進的な水準に達し、人口密集地域の90%超をカバーするまでになっています。現在は、災害性の高い気象現象のおよそ8割以上を検知できるとされ、特に次のような中小規模の現象への対応力が高まっています。
- 局地的な集中豪雨
- 雹(ひょう)を伴う雷雨
- 竜巻や突風といった急激な現象
小型商業衛星も参加する多層観測
CMAのBi Baogui副局長は、気象衛星とレーダーがこの広大なシステムの中核をなし、地上観測所や高層観測、リモートセンシング(遠隔探査)による鉛直観測、温室効果ガスの監視ネットワークなどがそれを補完していると述べました。
さらに今回初めて、35基の小型商業気象衛星が運用に組み込まれました。これらの衛星は、風雲シリーズの衛星を補完しながらデータを提供し、観測の空白を埋める役割を果たしています。国家のインフラと民間企業の技術を組み合わせることで、よりきめ細かな観測が可能になってきています。
アジア・アフリカ・中南米へ:データを通じた国際協力
中国は、こうした科学技術の成果を国内だけにとどめず、国際社会とも共有しています。風雲シリーズの衛星データは、複数の国と地域に提供されており、アジア、アフリカ、中南米の国々における災害監視や早期警報に役立てられています。
また、CMAは各国の気象機関などと連携し、気候レジリエンスの向上を目的とした国際協力プログラムも展開しています。観測データや解析技術の共有、人材育成などを通じて、気候変動の影響を受けやすい地域の防災力を高めることが狙いです。
テクノロジー主導の防災がもたらすもの
高度な地震シミュレーションから宇宙を使った気象観測まで、中国の取り組みは、見えなかったリスクを見える化することに重心を置いています。これにより、被害が出てから復旧に巨額のコストをかけるのではなく、被害を小さく抑えるための投資へと資金の流れを変えていくことが期待されています。
災害は国境を越えて影響を及ぼします。特にアジアでは、台風や大気循環、黄砂など、広域の現象が複数の国と地域にまたがって発生します。観測網やデータが共有されれば、周辺地域の早期警戒やリスク評価にも役立つ可能性があります。
第36回国際防災の日が掲げたレジリエンスに資金をというメッセージは、データとテクノロジーに支えられた防災への投資をどう進めるか、そしてその成果をどう国際的に分かち合うかという問いでもあります。中国の最新の動きは、その問いに対する一つの具体的な応答といえそうです。
Reference(s):
China strengthens disaster prevention and mitigation with technology
cgtn.com








