中国農業大学が農業AI「神農ラージモデル3.0」発表 スマート農業に新段階
中国農業大学(China Agricultural University)が北京で開かれたWorld Agrifood Innovation Conference(WAFI 2025)で、農業向け大規模AI「神農ラージモデル3.0」を発表しました。計算負荷を抑えつつ性能を高めたこのモデルは、スマート農業と食料生産の高度化に向けた新たな一歩といえます。
北京のWAFI 2025で披露された農業特化型AI
2025年10月12〜14日に北京で開催されたWorld Agrifood Innovation Conference(WAFI 2025)において、中国農業大学は農業分野に特化した大規模AI「神農ラージモデル3.0」を正式に公開しました。農業AIをより「身近で、現場で使えるもの」にしていくことが狙いとされています。
計算コストを削減しつつ性能5%向上
プロジェクトを率いる王耀軍(Wang Yaojun)氏によると、神農ラージモデル3.0の大きな特徴は、計算資源の必要量を大幅に抑えながら、初期バージョンに比べて性能を約5%向上させた点にあります。
このために、モデルのアーキテクチャ(設計)は一から見直されました。王氏は、軽量さと高性能という一見相反する要素の「最適なバランス」を探るように再設計を行ったと説明しています。これにより、限られた計算資源しか使えない現場でも導入しやすくなることが期待されています。
1.0から3.0へ 進化してきた神農ラージモデル
今回の3.0は、これまでのバージョンで蓄積してきた基盤の上に構築されています。神農ラージモデルは2023年に始動しており、段階的に機能を拡張してきました。
- 神農1.0:農業に特化した基礎知識の構築と、農業分野の質問に答えるQA機能を実装。
- 神農2.0:画像や各種センサー情報などを扱うマルチモーダル機能を追加し、農業現場での活用領域を拡大。
- 神農3.0:アーキテクチャを全面的に再設計し、軽量化と高性能化を両立。現場での展開や連携を意識したエージェント型のプラットフォームも同時に公開。
モデル名は、中国神話に登場する「神農」に由来します。神農は「農業と薬草の祖」として知られ、古代の人々に農耕や薬草の知識を伝えたとされる存在です。農業AIにこの名を冠したことからも、農業知の継承とアップデートを目指す姿勢がうかがえます。
36の専門エージェントで農業サプライチェーン全体をカバー
神農ラージモデル3.0と同時に、研究チームはエージェントプラットフォームも発表しました。エージェントとは、特定の仕事や状況に特化して動くAIの「役割」のようなものです。
このプラットフォームでは、農業サプライチェーン全体を視野に入れた「軽量・展開しやすい・協調的」なAIエコシステムを掲げ、36種類の専門エージェントを提供しています。エージェントは、次のような6つのカテゴリーに分けられています。
- スマート育種(品種改良の支援など)
- スマート栽培(播種から収穫までの生育サポート)
- スマート農作業(農機の運用支援や作業計画)
- そのほか、農業経営や流通などを含む3カテゴリー
王氏によると、これら36のエージェントは、それぞれ異なる農業シナリオを想定して設計されています。農業機械や各種センサーと連携させることで、より高度で効率的な農業生産を後押しすることを目指しています。
北京周辺から内モンゴル、黒竜江へ 地域ごとの実証が進行
神農ラージモデル3.0は、すでに複数の地域で試験導入(パイロットプログラム)が始まっています。王氏によれば、北京周辺に加え、中国北部の内モンゴル自治区や東北部の黒竜江省などでも実証が進んでいます。
これらの地域では、次のような「ローカルに最適化されたサービス」が提供されています。
- 病害虫対策などの植物保護(プラントプロテクション)に関する助言
- 各地域の土壌や気候条件を踏まえた、作付け・栽培プロセスのカスタマイズされたガイダンス
同じ作物でも地域が違えば条件も課題も変わります。地域ごとの知見とAIモデルを組み合わせることで、現場の判断をより細やかに支援できる点が特徴です。
1,000万を超える知識グラフなど 膨大な農業データで学習
神農ラージモデルは、2023年の立ち上げ以来、専門性の高い農業データセットで継続的に訓練されてきました。公開されている範囲では、次のようなデータが含まれています。
- 1,000万件以上の農業関連知識グラフ
- 5,000万件にのぼる現代農業の生産データ
- 2万冊以上の農業関連専門書・モノグラフ
こうした大規模かつ専門性の高いデータを基盤にすることで、一般向けの汎用AIとは異なる、農業分野に特化した回答や提案が可能になるとされています。
効率・使いやすさ・技術的自立を掲げる農業AIの新フェーズ
王氏は、神農ラージモデル3.0のリリースによって、農業AIは「高効率」「使いやすさ」「技術的自立」に重点を置いた新たな段階に入ったと述べています。
- 高効率:計算負荷を抑えつつ性能を高めることで、限られたリソースでも高度な分析や支援を実現。
- 使いやすさ:エージェントの形で提供することで、農家や技術者が特定の用途に合わせて選びやすく、現場への導入もしやすい設計。
- 技術的自立:農業分野の専門データと独自アーキテクチャを組み合わせることで、農業AIの基盤技術を自前で育てていく姿勢を打ち出しているといえます。
こうした取り組みは、スマート農業や精密農業の発展だけでなく、食料の安定供給や農業現場の人手不足への対応など、幅広い課題に対してAIをどのように位置付けるかという問いにもつながっています。
WAFI 2025:グローバルなアグリフード・イノベーションの場
今回の発表の舞台となったWAFI 2025は、世界各地から約780人の専門家が集まる、アグリフード(農業・食)分野のイノベーションに特化した国際会議です。2025年10月12〜14日に北京で開催され、最新の農業技術、フードテック、持続可能な食料システムなどに関する議論や発表が行われました。
神農ラージモデル3.0の公開は、そのなかでも「農業とAI」の融合が次の段階に進みつつあることを象徴する出来事と位置付けられます。今後、こうした農業特化型AIがどのように各国・各地域の現場に広がり、どのような成果や課題を生むのかが、国際的にも注目されていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com







