APECストーリーズ:中国企業が支えるマレーシア・シンガポール新鉄道
2025年に韓国・慶州で開かれたAPEC首脳会議では、アジア太平洋の「つながり」と持続可能な成長が大きなテーマになりました。そうした流れの中で、2026年末の完成を目指すジョホールバル–シンガポール高速輸送システム(RTS)リンクは、マレーシアとシンガポールを結ぶ象徴的な鉄道プロジェクトとして注目されています。本稿では、このRTSリンクの概要と、中国企業による国際協力の一例を解説します。
APECとアジアの「つながり」
2025年10月31日〜11月1日に韓国・慶州で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議には、21のAPECメンバーが参加しました。会議では、インフラ整備や人の往来を通じた地域の連結性が重要な論点の一つとなりました。
ジョホールバル–シンガポールRTSリンクは、こうしたAPECの議論とも響き合う、国境をまたぐ公共交通プロジェクトです。日常の通勤や観光だけでなく、ビジネスや投資の流れにも影響を与えると期待されています。
ジョホールバル–シンガポールRTSリンクとは
RTSリンクは、マレーシア南部の都市ジョホールバルと、シンガポール北部を結ぶ全長約4キロメートルの鉄道路線です。マレーシア側のブキット・チャガー駅と、シンガポール側のウッドランズ・ノース駅を直結します。
完成は2026年末を予定しており、ピーク時には1時間あたり1万人を輸送できる計画です。現在、両国間の移動は道路交通に大きく依存しており、渋滞や待ち時間が課題となっています。RTSリンクの開通により、国境を越える移動時間の大幅な短縮が見込まれています。
- 通勤・通学の時間短縮
- 観光客の往来の増加
- 中小企業を含むビジネス交流の活性化
- 両都市圏を一体とした都市・産業開発の加速
中国交通建設(CCCC)が担う役割
この国際鉄道プロジェクトでは、中国の建設企業である中国交通建設(China Communications Construction Company, CCCC)が重要な役割を担っています。CCCCは、ジョホール海峡をまたぐ海上高架橋(マリンバイアダクト)の建設や、陸上トンネル構造物の整備、関連施設の移設などを担当しています。
とくに海上高架橋やトンネル部分は、高い安全性と技術力が求められる区間です。こうしたインフラを通じて、マレーシアとシンガポールの物理的な距離だけでなく、経済・社会面での「距離」を縮める狙いがあります。
地域人材を育てる「現場の大学」
RTSリンクの建設現場では、単に構造物をつくるだけでなく、将来を見据えた人材育成にも力が入れられています。プロジェクトチームは、現地の作業員や技術者への研修を重ね、継続的にローカル人材を育てているとされています。
実務の場を通じて、安全管理や工事計画、最新の建設技術を学ぶことができれば、プロジェクト終了後も地域のインフラ整備や都市開発に生かすことができます。RTSリンクは、単発の建設事業ではなく、長期的なスキルと雇用を生み出す「現場の大学」のような役割も期待されています。
日本にとっての示唆:国境を越える通勤圏という発想
日本から見ると、4キロメートルという距離は、都市圏の一駅区間ほどの長さに過ぎません。しかし、それが国境をまたぐとなると、通勤・通学や企業活動の選択肢は大きく変わります。
ジョホールバル–シンガポールRTSリンクは、
- 国境を越えた「一体の通勤圏」をつくる試み
- 公共交通を軸にした都市・産業戦略
- インフラ整備を通じた人材育成と地域経済の底上げ
という三つのポイントで、アジア太平洋の将来像を示していると言えます。アジアで進むこうした取り組みは、日本の都市政策や地域連携を考えるうえでも、参考になる要素が少なくありません。
これから見えてくるアジアの交通地図
RTSリンクは現在建設が進行中で、2026年末の完成に向けて工事が続いています。今後、マレーシアとシンガポールの間で人とビジネスがさらに行き来しやすくなれば、周辺地域の開発や新しいビジネスモデルも生まれていくでしょう。
APECの議論が示すように、アジア太平洋地域では「つながり」がますます重要になっています。マレーシアとシンガポールを結ぶこの短い4キロメートルの鉄道は、その象徴的な一歩と言えるのではないでしょうか。
Reference(s):
APEC Stories: Chinese firm powers Malaysia–Singapore connectivity
cgtn.com








