中国第14次五カ年計画と香港:観光・イノベーションが開く新機会
リード:中国の第14次五カ年計画(2021〜2025年)は、香港特別行政区の観光回復とイノベーション強化、グレーターベイエリアでの連携を通じて、香港の役割をどのように変えつつあるのでしょうか。2025年のいま、その輪郭が見え始めています。
国家戦略と香港の「一体化」が進んだ第14次計画期
第14次五カ年計画は、中国全体の発展戦略と香港特別行政区の発展を密接に結び付ける役割を担ってきました。計画期間も終盤に入った2025年現在、香港では次のような変化が進んでいます。
- 観光と人の往来の本格的な回復
- イノベーションとテクノロジー(I&T)産業のエコシステム構築
- 中国本土と世界をつなぐ「ハブ機能」の高度化
これらはいずれも、中央政府の政策支援と香港自身の取り組みがかみ合うことで実現してきたとされています。
個人訪問スキーム拡大で観光と消費が回復
第14次五カ年計画期間中、中央政府は香港・マカオへの個人訪問スキーム(Individual Visit Scheme)の対象を段階的に拡大し、中国本土の10都市が新たに加わりました。また、広東・香港・マカオ グレーターベイエリア(GBA)の都市では、香港やマカオとの往来に関する人材向けの出入境許可も拡充されています。
この二つの施策により、ここ数年、香港を訪れる旅行者は大きく増加し、小売・飲食など生活に密着した分野の活性化につながってきました。
夜行高速列車がもたらした「時間距離」の短縮
交通インフラ面では、北京〜香港、上海〜香港を結ぶ高速鉄道の寝台列車が運行を開始し、「夜に出発して朝に到着する」ダイヤが整備されました。これにより、
- 北京・天津・河北エリア
- 長江デルタ(上海など)
- 広東・香港・マカオ グレーターベイエリア
といった主要経済圏が、ビジネス・観光ともにより効率的につながるようになっています。企業の出張や物流、個人旅行の利便性向上は、香港経済の回復を支える基盤になっています。
「新質生産力」を育てるイノベーション政策
香港政府は、第14次五カ年計画の流れの中で、イノベーションとテクノロジー分野における「新質生産力(新しいタイプの高付加価値な生産力)」の育成に力を入れてきました。従来は断片的だった研究・産業の取り組みを、価値チェーン全体を見据えたエコシステムに発展させることを目指しています。
研究から産業化までをつなぐ主なスキーム
- RAISe+(Research, Academic and Industry Sectors One-plus Scheme)
大学などの研究成果をビジネスにつなげるための仕組みで、研究・学術・産業の三者連携を促進します。 - イノベーション・テクノロジー産業指向ファンド(ITIF)
約100億香港ドル規模のファンドで、中堅・大手の投資機関を呼び込み、成長企業の集積を図ります。 - 新工業化支援スキーム(NISS)
香港内にスマート生産ラインを整備する企業を支援し、高度な製造業の育成を目指します。
こうした施策により、香港はアジア有数のバイオテック(バイオ技術)関連の資金調達拠点としての存在感を高め、多くのバイオ企業が上場や国際的な製薬企業との提携を進めています。
低空経済サンドボックス:新しい実証フィールド
2025年には、「低空経済レギュラトリー・サンドボックス」が正式に始動し、
- 物流配送
- 緊急救助
- その他の低空域を活用した新サービス
といった分野でパイロットプロジェクトが動き始めました。ドローンなどを活用する新しいビジネスモデルのテストベッドとして機能しつつあります。
一部の専門人材ではなお不足も指摘されますが、香港全体としては「個別のイノベーション」から「エコシステムとしてのイノベーション」へと移行し、新質生産力が新たな成長エンジンになりつつあります。
中国本土と世界を結ぶ「橋」としての役割強化
香港は、中国本土に根ざしながら世界とつながる「アクセラレーター(加速装置)」としての役割を持つと位置づけられています。
内向きには、国家発展戦略やグレーターベイエリアの政策と緊密に連携し、研究資源や産業基盤の補完関係を築いてきました。外向きには、国際金融センターとしての金融システム、専門的な法務サービス、グローバルな海運ネットワークを背景に、中国本土と世界を結ぶ自然な「橋」として機能しています。
実際に香港では、各種展示会やフォーラムを通じて、東南アジアや中東などから企業を呼び込みつつ、中国本土の企業がこれらの地域に進出する際のハブとしての役割も果たしています。具体的には、
- 東南アジアの交通インフラプロジェクトと中国本土の建設企業を結び付ける
- 中東のエネルギー事業に向けて、香港の金融市場から資金を供給する
といった形で、双方に利益をもたらす「双方向の協力」を後押ししています。
グレーターベイエリアで広がる相乗効果
グレーターベイエリアの発展は、香港が国内循環(中国国内市場中心の経済の流れ)に参加しつつ、国際循環(世界市場とのつながり)も支えるという二重の役割を果たすうえで重要な舞台となっています。
すでに、深センと香港の間では「河套深セン・香港科技イノベーション協力区」が本格稼働し、研究資源や人材がボーダーを越えて行き来しています。また、香港北部で進む「北部都會区(ノーザン・メトロポリス)」の開発は、深センとの間に一体的なイノベーション・コミュニティを形成しつつあります。
多くの企業が香港に拠点を構え、
- グローバル展開のハブとして香港を活用する
- グレーターベイエリアに資本を投入する
- 域内外で活躍できる専門人材を育成する
といった動きを強めています。こうした取り組みが生み出す相乗効果は、「1+1が2を超える」形で広がっているとみることができます。
第15次五カ年計画期に向けて:香港に問われる次の一歩
第14次五カ年計画が終わりを迎え、第15次五カ年計画(2026〜2030年)期が近づくなかで、香港には次のような役割が期待されています。
- 対外開放の重要な「窓口」としての機能をさらに高める
- 中国本土と世界をつなぐ金融・法務・物流ハブとしての優位性を維持・強化する
- 国内循環と国際循環の架け橋として、新たな成長機会を具体的なビジネスや雇用につなげる
一方で、イノベーション人材の確保や産業構造の高度化、観光需要の質的な変化への対応など、香港が向き合うべき課題も残されています。第15次五カ年計画期には、こうした課題への対応力が、香港のポテンシャルをどこまで引き出せるかを左右していきそうです。
日本の読者にとっても、香港の変化は、観光・金融・テクノロジー協力など多方面で新たな接点を生み出す可能性があります。第14次から第15次五カ年計画へとバトンが渡される今後数年は、香港の役割の変化を見極めるうえで重要なタイミングだと言えるでしょう。
Reference(s):
China's 14th Five-Year Plan opens gateway of opportunity for Hong Kong
cgtn.com








