世界初の遺伝子編集ブタ肝臓を人に移植 中国チームが171日生存を報告
世界初となる遺伝子編集ブタ肝臓の生体移植で、中国の医療チームが患者を171日間、生存させたことが今月(2025年12月)発表されました。深刻な臓器不足への新たな一手として、国際的に大きな注目を集めています。
世界初の遺伝子編集ブタ肝臓移植とは
この国際ニュースは、肝臓の専門誌 Journal of Hepatology に掲載された論文で報告されました。中国の安徽医科大学第一附属病院の外科チームが中心となり、遺伝子編集されたブタ肝臓は雲南農業大学の研究者によって開発されました。
移植を受けたのは、腫瘍のために肝臓切除が困難だった71歳の患者です。手術は2024年5月17日に行われ、ブタ肝臓は患者自身の肝臓を完全に置き換えるのではなく、補助的に機能する「補助肝」として移植されました。つまり、患者の元々の肝臓を支える追加の臓器として使われたかたちです。
10カ所の遺伝子編集 拒絶反応と血栓リスクに対処
今回の豚肝臓は、合計10カ所の遺伝子改変が施された高度に設計された臓器でした。論文によると、その内容は次のように整理できます。
- ブタ側の3つの遺伝子を削除:人の体内で起こりやすい、抗体による急速な拒絶反応を抑えることを目的
- ヒト由来の7つの遺伝子を導入:免疫的な受け入れやすさを高めるとともに、血栓(血の塊)ができやすくなる合併症を防ぐ狙い
異なる動物種からの臓器を移植する異種移植は、免疫反応や血液の相性など、多くのバリアが知られています。今回の遺伝子編集は、そのハードルを下げるために設計されたものだといえます。
術後の経過 31日間は順調、171日目に死亡
手術後の経過は、少なくとも初期段階では非常に良好でした。論文によると、
- 術後31日間:急性拒絶反応の兆候は見られず、ブタ肝臓は有効に機能
- 38日目:移植された補助肝の細い血管に血栓が生じる重い状態に
- そのため、医療チームはブタの補助肝を摘出
その後、患者は上部消化管出血(胃や食道などからの出血)を繰り返し、最終的に術後171日目に亡くなりました。
生存期間は限られたものの、遺伝子編集ブタ肝臓が人間の体内で数カ月にわたり臨床的に意味のある機能を発揮した点は、大きな成果とされています。
先行研究から生体移植へ 中国で進む肝臓の異種移植
今回のケースの前段階として、2024年4月には、中国・西安市の空軍軍医大学西京病院のチームが、脳死状態の患者に遺伝子改変ブタ肝臓を移植する試みを行っていました。
こうした段階的な臨床研究を経て、今回、初めて生存している患者への移植が実施され、171日間の生存が確認されたことになります。中国の医療現場では、異種移植を慎重に進めながら、臨床応用の可能性を探っていることがうかがえます。
異種移植は「橋渡し療法」の選択肢になりうるか
論文では、今回の成果が「臓器不足への一つの道」を示すものとして位置づけられています。人のドナー肝臓が圧倒的に不足するなかで、ブタ肝臓のような異種移植は、患者が人の肝臓移植を待つあいだの橋渡し役となる「ブリッジ療法」として期待されています。
異種移植(xenotransplantation)は、動物種の異なる生物間で臓器や組織を移植する手法です。今回のケースは、その異種移植が人の体内で実際に機能し得ることを、具体的な症例として示した点に意味があります。
まだ「普及段階」ではないが、概念実証として一歩前進
同じ誌に掲載されたレビュー論文は、今回の成果を次のように評価しています。
「この手術は、ブタ肝臓の臨床での広範な利用への道を直ちに開くものではない。しかし、このような移植片が人間で機能し得るという概念実証を与えた」としています。
つまり、まだ一般的な医療として広く使える段階ではないものの、臨床的に意味を持つ期間、ブタ肝臓が人の体を支えたという事実は、今後の研究と議論の出発点になります。臓器不足に直面する多くの患者にとって、新しい選択肢となる可能性を示した今回の報告は、医療イノベーションの流れを捉えるうえで、今押さえておきたい国際ニュースだといえるでしょう。
Reference(s):
World's first human with gene-edited pig liver survived for months
cgtn.com








