国際観客を惹きつける展覧会とは?元美術館長が語る物語の力 video poster
国際的な観客の心をつかむ展覧会には、共通する秘密があります。サンフランシスコのアジア美術館ディレクター・エメリタス(名誉館長)であるジェイ・シュー氏は、その鍵は展示の物語にあると明かしています。本記事では、その視点を手がかりに、2025年の私たちがどのような展覧会をつくり、楽しめるのかを考えます。
国際観客を惹きつけるのは情報量ではなくストーリー
展覧会というと、どれだけ多くの作品が並ぶか、どれだけ貴重な資料が来日するかに注目が集まりがちです。しかし国際的な観客の注意を本当に引きつけるのは、作品の数や珍しさだけではありません。シュー氏が示すように、展示全体を貫く物語こそが、来館者の心をつかむカギになります。
作品を並べるから語らせるへ
同じ作品でも、単に年代順に並べられているだけの場合と、一つの物語の登場人物として配置されている場合とでは、観客の体験は大きく変わります。作品同士のつながりや、そこに込められた人々の思いが見えてくると、観客は展示空間の中で自分なりの発見をしやすくなります。
展覧会の物語とは何か
では、シュー氏が強調する展覧会の物語とは何でしょうか。ここでいう物語とは、作品解説の文章そのものではなく、展示全体を通じて観客に伝えたい視点や問いのことだと考えられます。
- この展覧会は、何についての話なのかという明確な入口
- 作品の背後にいる人々の視点や感情
- 観客の予想を少しだけ裏切る意外な発見
- 見終わった後に心に残る一つのメッセージ
こうした要素が組み合わさることで、展覧会は単なる情報の集積ではなく、一つのストーリーとして記憶に残る体験になります。
物語をデザインする三つの視点
シュー氏が語る物語の重要性を手がかりに、展覧会づくりを考えると、次の三つの視点が見えてきます。
1. 観客の最初の30秒をデザインする
人は展示室に入ってから最初のわずかな時間で、「これは自分に関係があるかどうか」を直感的に判断すると言われます。入口のビジュアルや一文のキャッチコピーで、物語のテーマをシンプルに伝えることが大切です。
2. 国際観客の多様な背景を想像する
国際ニュースに日ごろ触れている人であっても、日本の歴史やアジアの文化に同じ前提知識を持っているとは限りません。専門用語をできるだけ避け、背景となる出来事や地理を短く補足するだけで、海外からの観客や若い世代にも物語が届きやすくなります。
3. 展示空間全体を旅として設計する
良い物語には、始まり、転換点、クライマックス、余韻があります。展示でも、入口で投げかけられた問いが、途中で別の視点から掘り下げられ、最後に観客自身への問いかけとして返ってくるような構成にすると、国際的な観客も自然と展示の流れに引き込まれます。
デジタル世代が求める展覧会体験
2025年のいま、美術館や博物館の主要な来館者には、オンラインとオフラインを行き来するデジタルネイティブ世代が増えています。この世代は、写真映えする展示を楽しみつつも、「なぜそれが自分にとって意味があるのか」という物語性も求めています。
- 展示の核心となるストーリーを、短いテキストや図解で示す
- オンラインで予習・復習できるよう、物語のポイントを要約して発信する
- SNSでシェアしたくなる一言メッセージやキービジュアルを用意する
こうした工夫が、展覧会の物語を会場の外にも広げ、国際的な観客との新しい接点を生み出します。
SNS時代のシェアしたくなる展示とは
「写真を撮りたくなる展示」と「誰かに語りたくなる展示」は、似ているようで少し違います。後者には、その場にいなかった人にも伝えたくなる物語があります。来館者が「この展示は、こういう話だった」と一文で要約できるかどうかが、SNS時代の展覧会づくりの重要なポイントと言えそうです。
日本の美術館・展示へのヒント
サンフランシスコのアジア美術館で培われた経験から語られる物語の重要性は、日本の美術館やギャラリーにもそのまま当てはまりそうです。
- 地域の歴史やアジア・世界とのつながりを、一つの物語として編み直す
- 小さなスペースでも、必ず「この展示は何の話か」を一文で定義する
- 日本語話者だけでなく、さまざまな背景を持つ観客を想定して構成を考える
作品点数を増やすことよりも、物語を磨き込むことに時間をかけることで、限られた予算や空間でも、記憶に残る展覧会を生み出すことができます。
シュー氏が明かす「展覧会の物語」という視点は、展示をつくる側だけでなく、鑑賞する側にとってもヒントになります。次に美術館や博物館を訪れるときは、そこにどんな物語が隠れているのかを意識して歩いてみると、見慣れた作品の印象も少し変わって見えてくるかもしれません。
Reference(s):
Former museum director on what makes an exhibition truly engaging
cgtn.com








