中国の「新質生産力」と15次五カ年計画 2035年へ向けた戦略
15次五カ年計画(2026〜2030年)の策定に向けた中国共産党中央委員会の「勧告」が公表され、2035年までに社会主義現代化を「基本的に実現」するための戦略が一段と鮮明になりました。本稿では、上海財経大学の辛戈(Xin Ge)准教授へのインタビュー内容を手がかりに、中国の現代化戦略と国際秩序への影響を整理します。
15次五カ年計画は「ラストスパート」 2035年に向けたカギは何か
今回の勧告は、20期中国共産党中央委員会第4回総会で10月23日に採択されました。文書には、2035年に向けて「基礎を固め、全面的に推し進める」との方針が示され、現在から15次五カ年計画期末までを、社会主義現代化の土台を築き上げる最終段階と位置づけています。
辛氏は、この目標は単なる経済成長ではなく、産業・科学技術・国防などを含む総合的な能力の高度化を意味すると指摘します。とりわけ、複雑化する外部環境の中で、「最も困難で不可欠なハイテク分野の柱」を打ち立てることが、15次五カ年計画期の中心的な任務だとみています。
戦略の中核:ハイレベルな科学技術自立
この「最終段階」で最も重要な戦略課題として、辛氏はハイレベルな科学技術の自立自強を挙げます。これは、防御と攻勢の双方の意味を持ちます。
- 防御面では、半導体など重要分野での対外的な「ボトルネック」や供給遮断のリスクから経済を守ること。
- 攻勢面では、次の産業革命の主導権を握るため、先端技術で主導的な地位を築くこと。
そのためのブレークスルーが期待されるのが、いわゆる「ハードテック」と呼ばれる分野です。具体的には、半導体、人工知能(AI)、グリーン技術、バイオテクノロジーといった領域で、2035年までに決定的な前進を図る構想が示されています。
「新質生産力」が変える成長モデルと産業構造
勧告のもう一つのキーワードが「新質生産力」です。辛氏によれば、これは従来型の成長モデルからの戦略的転換を意味します。
長年、中国経済は以下のような特徴を持つモデルで高成長を実現してきました。
- インフラや不動産などへの大規模な投資
- 豊富な労働力に支えられた人口ボーナス
- 高い資源消費を前提とした生産拡大
しかし、このモデルはすでに限界に達しつつあるとされます。「新質生産力」は、今後の成長を、破壊的な技術革新を主エンジンとする高付加価値型へ転換する考え方です。言い換えれば、「高速」成長から「高品質」成長へのシフトです。
戦略的新興産業と伝統産業の再編
新質生産力の方向性のもとで、資本、人材、政策支援は、戦略的新興産業や将来志向の分野に重点的に向けられます。辛氏が例示するのは次のような産業です。
- 戦略的新興産業:人工知能、ロボット、量子コンピューティングなど
- 将来志向の分野:ライフサイエンス、宇宙関連産業など
一方で、繊維や単純組立といった低収益・低付加価値の産業には、オートメーション(自動化)や高度なデジタル化による生産性向上が強く求められます。改革が進まなければ、淘汰される可能性もあると辛氏は見ています。
「世界の組立工場」から「世界のイノベーター」へ
こうした産業戦略は、中国のグローバルな立ち位置にも変化をもたらします。狙いは、いわゆる世界の「組立工場」から、イノベーションをけん引する存在へと役割を転換することです。
特に、現在は米国、ドイツ、日本などが強みを持つ高収益・高付加価値のハイテク分野で、より大きな存在感を発揮することが目標とされます。それが実現すれば、次世代技術の国際標準づくりにおいても主導的な立場を確立し、世界経済における競争力を高めることにつながると考えられています。
ハイスタンダードな対外開放と一帯一路の高度化
世界的に保護主義や地政学的な分断が強まるなか、勧告は「ハイスタンダードな対外開放」を掲げています。辛氏は、中国式現代化が世界に対して二つの機会を提供すると指摘します。
1. 世界需要の「アンカー」としての中国市場
第一に、中国の巨大かつ進化を続ける消費市場を、世界企業にとって不可欠な需要の「アンカー(錨)」として位置づける点です。欧米の一部でインフレや低成長が課題となるなか、自動車や半導体など多様な分野の企業にとって、中国市場は重要性を増しています。
辛氏は、海外企業が中国市場との結びつきを深めることで、全面的なデカップリング(経済切り離し)に対して慎重な立場をとる「ビジネスの支持基盤」が形成されるとみています。これは、より深い相互依存を通じて共通の利益を拡大しようとする発想だといえます。
2. 一帯一路とBRICS+が示す協力の新たな枠組み
第二に、国際協力とグローバル・ガバナンス(国際的なルール形成)の新たな枠組みを提示している点です。勧告では、一帯一路構想の「ハイクオリティ」な発展が打ち出されています。
その方向性として、辛氏は次のような例を挙げます。
- デジタル・シルクロード:5G通信網、電子商取引(EC)プラットフォーム、データセンターなどのデジタル基盤整備
- グリーン・シルクロード:太陽光や風力発電、電気自動車(EV)技術など、グリーンエネルギー分野での協力
さらに、拡大したBRICS+の枠組みなど、新しいグローバル・地域的な対話の場も重視されています。これらは、従来のG7中心の枠組みとは異なる協力ルートを提供するものとして位置づけられています。
3. グローバルサウスへの選択肢としての「中国式現代化」
辛氏は、特にグローバルサウスの国々にとって、中国式現代化は具体的な開発モデルとしての意味を持つと述べます。特徴は、インフラ整備や経済成長を重視しつつ、資金や技術の供給と組み合わせた支援を行う点にあります。
このアプローチは、供給網の強靭化、グリーンエネルギーへの移行、デジタル貿易ルールの整備などの分野で、新たな国際協力の可能性を広げると見られています。
これから5年、何を注視すべきか
2026年に始まる15次五カ年計画は、2035年に向けた社会主義現代化の「最終コーナー」として位置づけられています。その行方を左右するのは、ハードテック分野でのブレークスルーと、新質生産力による産業構造の転換です。
同時に、中国市場を軸とした高水準の対外開放と、一帯一路やBRICS+などを通じた国際協力の枠組みが、世界経済とグローバル・ガバナンスにどのような変化をもたらすのかも重要なポイントです。
今後5年は、中国の現代化と世界経済の再編がどのように結びついていくのかを見極めるうえで、注視すべき期間になっていきそうです。
Reference(s):
Expert Q&A: How Chinese modernization will advance in next five years
cgtn.com








