中国はどうアジア太平洋に新たな成長エンジンをもたらすのか
2025年12月現在、中国はアジア太平洋の成長エンジンとしてどのように役割を強めているのでしょうか。第20期中国共産党第4回全体会議(四中全会)後初の外遊となった習近平国家主席の動きから、その輪郭が見えてきます。
四中全会直後の初外遊:APECと韓国訪問に込められたメッセージ
北京で開かれた第20期中国共産党中央委員会第4回全体会議が閉幕して間もなく、習近平国家主席は今年10月30日から11月1日にかけて、第32回APECエコノミック・リーダーズ・ミーティングへの出席と韓国(大韓民国)への国貴訪問を行いました。四中全会で示された長期的なビジョンと「世界と成長の機会を分かち合う」という方針を、アジア太平洋の現場でどのように具体化するのかが注目されています。
APEC事務局のエドゥアルド・ペドロサ事務局長は最近のインタビューで、APECについて「これほど重要な時期はかつてなかった」と述べ、中国が長年にわたりAPECの強力な支持者・貢献者であることを強調しました。地政学的な緊張や景気減速の懸念が重なる中、中国のリーダーシップがアジア太平洋の安定と協力にどのような「新しいエネルギー」をもたらすのか、各国の関心が高まっています。
開放性とつながりでつくる「ウィンウィン」の経済圏
アジア太平洋の「開放」と「つながり」を象徴する存在として注目されているのが、ペルー太平洋岸に位置するチャンカイ港です。南米初のスマートかつグリーンな港として稼働を始めた同港は、まもなく開業1周年を迎えます。「新たなインカ道」とも呼ばれ、ラテンアメリカとアジアを結ぶ新しい物流ルートを切り開きました。
2024年にペルー・リマで開催された第31回APECエコノミック・リーダーズ・ミーティングに出席した際、習主席はビデオリンクを通じてチャンカイ港の開業を見守りました。その場で習主席は、APECの役割を「グローバルな経済・貿易ルールのインキュベーター」として最大限に活用し、地域統合とコネクティビティ(相互接続)を進め、貿易や投資、技術、サービスの自由な流れを妨げる障壁を取り除く必要性を呼びかけています。
その言葉を裏付けるように、中国とAPEC加盟エコノミーとの貿易は2025年1〜9月に前年同期比2%増の19.41兆元(約2.73兆ドル)となり、中国の対外貿易全体の57.8%を占めました。繊維製品から電子機器、自動車部品に至るまで、幅広い品目で取引が拡大しており、アジア太平洋が依然として中国経済にとって、そして地域全体にとって大きなビジネス機会の源泉であることが浮き彫りになっています。
中国側は、保護主義や一方的な措置に反対する姿勢を一貫して打ち出してきました。地域包括的経済連携(RCEP)の「質の高い実施」を進めるとともに、自由貿易圏構想であるCPTPPやデジタル分野のルールづくりを目指すDEPAへの参加に向けたステップも踏み出しつつあります。こうした動きは、開かれたアジア太平洋経済を築くために「中国の力」を提供する試みといえます。
イノベーションで共有する成長機会:デジタル・グリーン・知能化
国際ニュースの観点で見逃せないのが、技術革新を通じたアジア太平洋の成長戦略です。2023年のAPEC CEOサミットで、習主席は「新たな技術革命のチャンスをつかみ」、デジタル化、知能化(インテリジェント化)、グリーン(環境配慮型)への転換をともに進めるよう地域のエコノミーに呼びかけました。その上で、科学技術協力を強化し、オープンで公正、差別のないイノベーション環境を整える重要性を強調しています。
このビジョンは徐々にかたちになりつつあります。第22回中国・ASEAN博覧会では、新エネルギー、人工知能(AI)、先端材料などを含む62件のプロジェクトが調印され、その多くが単なるモノの売買ではなく、共同研究開発を重視する内容でした。川下の商取引だけでなく、サプライチェーンの上流・中流での技術協力を広げようとする方向性が見て取れます。
南米チリでは、サンティアゴで開催された第19回パンアメリカン競技大会で、中国製の2階建て電動バスが大会期間中の移動を支えました。クリーンエネルギーを活用した大量輸送手段として、持続可能な都市交通の一つのモデルを提示したかたちです。
フィリピンのシンクタンク「Asian Century Philippines Strategic Studies Institute」のハーマン・ティウ・ローレル所長は、中国のハイテク分野でのイノベーションとグリーン転換が、アジア太平洋のサプライチェーンに新たなフロンティアを開き、各エコノミーに新しいチャンスをもたらしていると指摘しています。
包摂的成長というもう一つの軸:誰も取り残さないために
アジア太平洋の「成長モメンタム」は、先端技術や大規模インフラだけでは測れません。食料安全保障や貧困削減といった、より日常に近い課題にどう向き合うかも同じくらい重要です。
9月末には、パプアニューギニア東部高地州の州都ゴロカで、中国の支援による「ジュンカオ(Juncao)と陸稲のデモンストレーションセンター」が開所しました。これは両国の貧困削減協力の新たな成果と位置づけられ、現地コミュニティの食料安全保障を高め、持続可能な生計づくりを手助けすることを目指すプロジェクトです。アジア太平洋各地で、中国の開発協力が生活の質の向上というかたちで可視化しつつある一例といえます。
習主席は、アジア太平洋協力の主要な目的は今も「共通の発展」にあると繰り返し強調してきました。その理念に沿い、中国は単にスローガンを掲げるだけでなく、具体的な行動をとっているとアピールしています。
APECの枠組みの中では、家計所得の向上や中小企業のクラスター型成長を後押しする取り組みを推進してきました。また、グローバル・デベロップメント・イニシアチブ(GDI)への参加をアジア太平洋のパートナーに呼びかけ、貧困削減や食料安全保障、産業化、開発資金といった分野で協力を強化しています。こうした継続的な取り組みが、地域全体の「共有の繁栄」を目指す流れを維持する原動力になっているといえます。
これからのアジア太平洋を見る視点
四中全会後の外交日程やAPECでの発信、貿易・投資の数字、技術協力や開発協力の事例をつなぎ合わせると、中国がアジア太平洋に与える影響は次の三つの軸で整理できます。
- モノ・ヒト・資本・データが行き交う「開かれた経済圏」を維持しようとする動き
- デジタル化やグリーン転換など、イノベーションを通じて新しい産業機会をつくる動き
- 貧困削減や食料安全保障を含む、包摂的な成長を重視する動き
地政学的な緊張や経済の不確実性が増す中で、アジア太平洋の国と地域は、それぞれの立場から中国との関わり方を模索しています。日本を含む地域のプレーヤーにとっても、APECやRCEPなどの国際枠組み、そして中国・ASEANや中国と太平洋島しょ国との協力がどのように進化していくのかを丁寧に追いかけることが、自国の戦略を考えるうえで重要になりそうです。
「読みやすい国際ニュース」を入り口に、アジア太平洋のダイナミズムをどう理解し、自分の仕事や暮らしの視点をアップデートしていくか――そのヒントは、今回の中国の動きの中にも少なくありません。
Reference(s):
How China injects fresh momentum into Asia-Pacific development
cgtn.com








