動物の複雑な行動、起源はさらに1000万年前 中国の化石研究
動物の複雑な行動はいつ始まったのか
国際ニュースとしても注目される古生物学の最新研究で、私たちが知る動物の進化の時間軸が静かに書き換えられつつあります。中国湖北省の長江上流で見つかった約5億5,000万年前の巣穴化石から、複雑な動物行動の起源が、従来よりおよそ1,000万年早くさかのぼる可能性が示されました。
長江上流に残された「古代のトンネル」
研究チームは、中国科学院南京地質古生物研究所の研究者たちです。彼らは湖北省にあるシバンタン生物群と呼ばれる化石産地を詳しく調べました。この場所は、約5億5,000万〜5億4,300万年前に生きていた生物の化石が豊富に見つかる「化石の宝庫」とされています。
今回注目されたのは、海底の堆積物の中に残されたトンネル状の巣穴化石です。これらは、ミミズのような体を持つ動物が海底の砂や泥を掘り進んだ痕跡だと考えられています。
- 産地:長江上流域に位置する中国湖北省のシバンタン生物群
- 年代:約5億5,000万〜5億4,300万年前
- 研究機関:中国科学院南京地質古生物研究所
- 掲載誌:学術誌 Science Advances
2次元から3次元へ:海底を造り変えた行動
従来の研究では、およそ5億3,900万年前のエディアカラ紀からカンブリア紀への転換期に、動物が海底表面をはい回るだけの「平面的な動き」から、堆積物の内部に潜り込む「立体的な掘削行動」へと移行したと考えられてきました。
この行動の変化により、海底は単調な一枚板のような環境から、動物たちが自ら掘り、混ぜ、作り変えた複雑な空間へと変わっていったとされています。海の底そのものが、動物たちの活動によって再設計された、というイメージです。
新たに見つかったジグザグ状の巣穴
今回の論文で研究チームが報告したのが、トレプティクヌス・ストレプトススという新しいタイプの巣穴化石です。ジグザグ状に連なる細長いトンネルが特徴で、古代のワーム状動物が一定のリズムで掘り進み、周囲を探索していたことを示していると解釈されています。
この規則的で反復的な動きは、神経系や筋肉の制御がすでによく発達していたことの証拠だと研究者たちは見ています。単純に砂の中を突き進むだけではなく、方向を変えながら効率よくエサを探していた可能性があるのです。
多様で複雑だった当時の動物たちの暮らし
シバンタン生物群からは、このジグザグ状の巣穴以外にも、オタマジャクシのような形をした巣穴や、複数のトンネルが組み合わさった複雑な構造の跡が見つかっています。そこには、歩き回り、エサを探し、ときには一時的なすみかとして海底を利用していた動物たちの生活が刻まれています。
こうした痕跡は、カンブリア紀の「生命の大爆発」と呼ばれる急激な多様化よりも前に、すでに動物の行動がかなり多様で複雑になっていたことを示しています。今回の研究は、動物の行動の洗練度が時間軸の上でさらにさかのぼることを示し、進化の物語に新しい一章を付け加えました。
海底環境を大きく変えた掘削行動
研究者たちは、これらの巣穴を残した掘削行動が、海底の堆積物を大きくかき乱していた点も重要だと指摘しています。動物が掘り進むことで、海底の表面と内部が混ざり合い、そこにすむ生物や化学環境も変化していったと考えられます。
言い換えれば、動物たちは自分たちの生活の場である海底環境を、行動によって積極的に作り変え始めていたということになります。このような「環境をつくる生き物」の振る舞いは、現在の海洋生態系にも通じる重要な特徴です。
何を考えさせてくれる発見か
約5億年という気の遠くなるような時間のスケールの中で、今回の研究が明らかにしたのは、人間から見れば小さなワーム状動物の、しかし決して小さくはない影響力です。わずかな掘る行動の積み重ねが、海底全体の構造を変え、生態系の歴史に大きな転換点をもたらしていった可能性があります。
私たちの社会でも、一人ひとりの行動が、時間をかけて環境や仕組みそのものを変えていくことがあります。古代の海底で起きていた変化を知ることは、現在の地球環境や人間社会の変化をどう受け止めるかを考えるヒントにもなりそうです。
Reference(s):
Study pushes back origin of complex animal behavior by 10 mln years
cgtn.com








