APEC首脳会議:習主席の5つの提案が示すアジア太平洋経済の行方
2025年10月31日に韓国・慶州で開かれた第32回APEC Economic Leaders' Meeting(APEC首脳会議)の第1セッションで、習近平国家主席が「包摂的で開かれたアジア太平洋経済」を掲げて演説し、経済グローバル化の新たな方向性として5つの提案を示しました。
本記事では、その演説の内容を日本語でかみ砕きながら、アジア太平洋経済と日本にとっての意味を整理します。
激動の国際環境と「アジア太平洋共同体」構想
習主席は冒頭、現在の国際情勢について「100年に一度の大きな変化」が加速し、世界が流動的で不安定な局面にあると指摘しました。そうした中で、アジア太平洋地域にも不確実性や不安定要因が高まっていると強調しました。
そのうえで、APECは30年以上にわたり、自由貿易圏構想(FTAAP)の青写真づくりや「アジア太平洋共同体」ビジョンの推進を通じて、世界の開かれた発展を先導してきたと評価。荒波の中だからこそ各国が「ともに舟をこぐ」ことが重要だとして、すべての国が機会を共有し、共に利益を得る「包摂的な経済グローバル化」を進めるべきだと訴えました。
習主席が示した「5つの提案」
1. 多国間貿易体制を共に守る
第一の提案は、世界貿易機関(WTO)を中核とする多国間貿易体制の擁護です。習主席は「真の多国間主義」を実践し、最恵国待遇(MFN)や無差別原則といった基本理念を維持しつつ、時代の変化を反映した形で国際ルールを更新する必要があると述べました。
とくに、途上国の正当な権利と利益をよりよく保護する方向でWTO改革を進めるべきだと強調しています。
2. 地域の「開かれた経済環境」をつくる
第二に、アジア太平洋地域で貿易・投資の自由化と円滑化を一層進め、財政・金融協力を深めることで、地域経済統合を着実に推し進めるべきだと提案しました。
具体的には、高い水準で運用が進む地域的な包括的経済連携(RCEP)と、参加国・地域が拡大する包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)の連携を図り、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築に向けた原動力とする構想が示されています。
3. 産業・サプライチェーンの安定と円滑化
第三の提案は、産業・サプライチェーン(供給網)の安定確保です。習主席は「手を取り合うのか、分断するのか」という選択では連携強化を選ぶべきだと述べ、開かれた供給網づくりを支持しました。
今年は「APECコネクティビティ・ブループリント」策定から10周年にあたります。これを契機に、
- インフラなどの「ハード面」のつながり(物理的コネクティビティ)
- 制度やルールの調和といった「制度面」のつながり
- 人材交流や人的往来といった「人と人のつながり」
を進めることで、地域の開かれた発展の基盤を一段と固めるべきだと呼びかけました。
4. 貿易のデジタル化とグリーン化を加速
第四に、デジタル技術と環境対応をテコに貿易の質を高める方針が示されました。習主席は、電子文書による取引(ペーパーレストレード)やスマート通関などでの実務協力を進め、デジタル技術を越境取引の「触媒」とする必要性を強調しました。
同時に、各種の「グリーン障壁」を取り除き、グリーン産業、クリーンエネルギー、グリーン鉱物といった分野で協力を広げるべきだと提案。中国がAPECの枠組みの中で主導してきた「アジア太平洋電子港モデルネットワーク」や「グリーンサプライチェーン協力ネットワーク」が、こうしたデジタル・グリーン化を支える重要な協力プラットフォームになっていると説明しました。
5. 「すべての人に利益をもたらす」包摂的な発展
第五の提案は、誰一人取り残さない包摂的な発展です。習主席は「人を中心とした発展理念」に立ち、地域内の格差や不均衡に目を向け、より包摂的で持続可能な経済グローバル化を構築すべきだと述べました。
その一例として、中国が提唱する「一帯一路」構想の高品質な発展を各国とともに進め、より多くの途上国の近代化を支えることで、世界の発展の新たな空間を切り開いていくと説明。また、中国と外交関係を有する最も開発の遅れた国からの輸入品については、全品目に対して無税措置(ゼロ関税)を付与したことを紹介し、今後は中国と外交関係を持つアフリカ諸国にも、経済パートナーシップ協定を通じて同様の措置を広げていく考えを示しました。
こうした取り組みを通じて、「共通の発展と共同繁栄」を各国とともに追求していくと結びました。
中国の「さらなる開放」アピール
演説の後半では、中国の対外開放の現状と今後の方針にも触れました。習主席によると、この5年間で中国は、
- 貨物貿易では世界最大の貿易国
- サービス貿易では世界第2位の規模
- 累計7,000億米ドル超の外資を受け入れ
- 対外投資も年平均5%超のペースで拡大
してきたといいます。
そのうえで、外資導入を制限する「ネガティブリスト」の短縮や、査証免除(ビザなし渡航)の対象国拡大など、自主的な開放措置を継続していると説明。22カ所の自由貿易試験区を通じて、高水準の国際経済貿易ルールとの整合も進めているとしました。
さらに、演説の数日前に中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議で「第15次五カ年計画の策定に関する勧告」が採択されたことに言及し、今後は改革の一層の深化と高水準の対外開放によって、アジア太平洋と世界に新たな機会を提供していくと述べました。
日本とアジア太平洋にとっての意味
今回の演説は、中国の政策方針の表明であると同時に、アジア太平洋全体に対する呼びかけでもあります。日本にとっても、次のような点が中長期的な論点になりそうです。
- WTO改革や多国間貿易体制の行方が、日本企業のビジネス環境にどう影響するか
- RCEPとCPTPPの「連携」が進んだ場合、域内のサプライチェーンや投資戦略をどう見直すべきか
- デジタル貿易やグリーン産業分野で、どのような国際ルール作りと協力の枠組みに関与していくのか
- 途上国の発展支援や包摂的成長に向けて、日本と中国、そしてアジア太平洋の国・地域がどう役割を分担していくのか
アジア太平洋は、これからも世界経済の成長エンジンであり続けると見込まれています。今回のAPEC首脳会議で示された中国の提案は、そのエンジンをどのような仕組みで動かしていくのかという一つのビジョンと言えます。
これから注視したいポイント
慶州での演説を踏まえ、今後のアジア太平洋経済を考えるうえで注目したいのは、次のような動きです。
- WTO改革や多国間ルール見直しの具体的な議論の進展
- RCEP・CPTPPとFTAAP構想との関係づけに向けた各国・地域の動き
- サプライチェーンの「分断」ではなく「連結」を重視する協力プロジェクトの実現度
- デジタル・グリーン分野でのAPEC内の新しい共同イニシアチブ
- 第15次五カ年計画を通じて、中国の改革・開放がどのように具体化していくか
アジア太平洋の枠組みやルールは、日本の企業・生活者にとっても中長期的に大きな影響を持ちます。ニュースを追う際には、各国首脳の発言を「単発のコメント」としてではなく、長期的なビジョンと政策の流れの中で位置づけて見ていく視点が求められそうです。
Reference(s):
Full text: Xi's speech at Session I of APEC Economic Leaders' Meeting
cgtn.com








