上海の路地更新に学ぶ「人中心の都市づくり」と中国式リノベモデル
老朽化した路地が多く残る上海で、長年の課題だった「夜壺」問題の解消を含む路地更新プロジェクトが今年完了しました。世界都市デー2025のテーマである「人中心のスマートシティ」を体現するこの取り組みは、中国本土の他都市や世界の都市にとっても参考になるモデルとして注目されています。
世界都市デーと上海が示す「人中心のスマートシティ」
毎年10月31日は、国連が定めた世界都市デーです。2014年に中国が国連で提唱して始まったこの国際デーは、都市化に伴う課題に向き合い、各国・各地域が都市運営の経験を共有しながら持続可能な都市成長を目指すことを目的としています。
今年のテーマは「人中心のスマートシティ実現に向けた変革的発展」です。グローバルな主催イベントはコロンビアのボゴタで、中国本土における主要イベントは重慶で開かれました。世界都市デー発祥の地である上海は、国際会議「都市持続可能発展グローバル会議」などを開催し、自らの路地更新の成果を世界に紹介しました。
高層ビルが立ち並ぶ国際都市でありながら、歴史ある路地空間も多く抱える上海。その路地更新は、人中心の都市づくりとは何かを具体的に示す事例となっています。
なぜ上海で「夜壺」問題が続いていたのか
上海の路地住宅では、長年「夜壺」問題が住民の生活を悩ませてきました。屋内のトイレや下水設備がなかったため、住民は汚物の入ったバケツを持って公共トイレまで通わざるを得なかったのです。
その背景には、19世紀末から20世紀初頭にかけて建設された路地住宅の歴史があります。当時は都市計画やインフラ整備が未発達で、長期的な上下水道や衛生設備よりも、急増する人口を収容することが優先されました。その後も人口増加が続き、限られた土地や複雑な権利関係、高い改修コストが障害となり、大規模なインフラ更新は容易ではありませんでした。
こうして金融街や新開発エリアの近代的な街並みの陰で、多くの路地では住民が今も夜壺を運び続けるという、近代化とのギャップが際立つ状況が長く続きました。上海市当局は1990年代から、夜壺を抱えたままでは近代化に進めないという考えのもと、本格的な対策に乗り出します。
2022年には、大規模な二級旧里弄(老朽路地住宅)の改修が完了し、この段階で夜壺問題は大きく前進しました。さらに2023年には、追加のニーズを抱える1万4082世帯が洗い出され、2年間の集中キャンペーンがスタート。今年9月末までにこの作業も完了し、長年の生活課題は事実上解消されました。
壊さず活かす「マイクロリノベーション」という選択
上海の路地更新の特徴は、大規模な取り壊しではなく「マイクロリノベーション」を基本にしている点です。歴史的な街並みと住民の生活を守りながら、ピンポイントで生活環境を改善していくアプローチです。
その背後には、次のような独自のモデルがあります。
- 一地区一政策:地区ごとの特性に合わせた方針づくり
- 一プロジェクト一方案:プロジェクトごとに異なる改修計画
- 一戸一档案:各世帯の状況を把握し、個別に対応
専門チームが建物の構造を綿密に調査し、歴史的価値があり構造も良好な建物については、赤レンガの壁や切妻屋根、木枠の窓といった特徴を残したまま、内部補強や修繕を行います。断熱性や防音性の向上には現代的な建材を用いながら、外観の雰囲気は極力変えないのが基本です。
水道や下水、ガス管といったインフラも、できるだけ既存の地下空間を活用して敷設し、大規模な道路掘削を避けるなど「見えないアップグレード」を重ねています。さらに、新たに設置する街灯やごみ箱などの公共施設は、歴史的な景観と調和するデザインを採用し、環境全体になじむよう工夫されています。
浦東新区の川沙新鎮は、このアプローチの象徴的な例です。下水網が脆弱な旧市街に対し、トイレ・洗面・シャワーをひとまとめにした「一体型衛生設備」を導入。これによって、衛生環境を一気に引き上げることに成功しました。
住民参加でつくる「人中心」のリノベーション
上海の路地更新を支えているもう一つの柱が、住民の積極的な参加です。改修前には説明会などを通じて意見を集め、各世帯の希望や建物の状態に応じて、個別住宅への設備導入や歴史的建物の保全修復など、きめ細かな計画を立てます。
工事中には、住民が品質のチェックに参加し、工事の進め方や仕上がりが期待に沿っているかを共に確認します。このプロセスは、単に住環境を良くするだけでなく、住民の「自分たちの街を自分たちでつくる」という感覚を高め、コミュニティへの愛着や帰属意識を強める役割も果たしています。
中国本土の他都市、そして世界への示唆
上海の路地更新は、数十年にわたる生活改善プロジェクトとして積み重ねられてきました。2025年9月をもって夜壺問題が事実上解消されたことは、人々の暮らしに直結する成果であると同時に、古い住宅地の再生に向き合う中国本土の他都市への具体的な参考例にもなっています。
歴史的な街並みを守りながら、現代的なインフラと居住環境を整える。大規模な撤去ではなく、マイクロリノベーションと住民参加で「人中心」の街づくりを進める。この上海の経験は、世界都市デーの精神とも重なり、古い都市空間の再生に悩む各国・各地域の都市にとっても、一つの学びの材料となりそうです。
Reference(s):
How Shanghai follows a 'people-centered city' approach to lane renewal
cgtn.com








