技術主権とグローバルな保険網 中国に求められるバランス video poster
ルイス・ポーリー氏が北京フォーラムで語ったのは、中国が進める技術主権の強化と、国際社会全体で築く保険のような安全網をどう両立させるかという、いまの世界経済に直結するテーマでした。
グローバルなリスクガバナンス研究の第一人者であり、『Insuring States in an Uncertain World: Towards the Collaborative Government of Complex Risks』の著者でもあるポーリー氏は、CGTNの単独インタビューで、中国の第15次五カ年計画の議論を入り口に、競争と協調を両立させる新しい国際協力のかたちを提案しました。
中国の技術主権と第15次五カ年計画
中国が構想する第15次五カ年計画では、ハイエンド製造や半導体などの分野で海外技術への依存を減らし、自前の技術力を高める技術主権が大きな柱になるとされています。
ポーリー氏は、このような技術自立の追求自体は自然な流れだとしつつも、競争と協力を対立的にとらえ過ぎることに警鐘を鳴らします。同氏によれば、企業間でも国家間でも競争は本来普通のことであり、繁栄の原動力になり得ますが、今の時代は競争と協力が両立可能でなければ持続可能ではないといいます。
保険と再保険が教える共有の安全網
インタビューでポーリー氏が繰り返し強調したのが、近代国家の発展と保険制度の発展が、歴史的に並行してきたという点です。個人や企業、国家は、将来の不確実なリスクに備えるために保険を利用し、その背後にはさらに保険会社同士がリスクを分散し合う再保険の仕組みがあります。
同氏は、世界の保険・再保険市場の根底には、人間がリスクに向き合うときに働く引き受けの本能があると指摘します。この本能は、中国の海上交易の歴史を含む古代の商取引にも遡ることができ、現代では気候変動や生物多様性の損失、生成系人工知能といった新しいグローバルリスクに対応するうえで、ますます重要になっているといいます。
ポーリー氏が提案するのは、各国が技術主権を強化しつつも、その背後に保険と再保険のような多層構造の協力体制を国際的に築くことです。表層では国家間の競争があっても、深い層ではリスクを共有し合う安全網を持つことで、世界全体の繁栄と安定を守れるという発想です。
1931年と2008年 危機の対比
この考え方を説明するために、ポーリー氏は二つの歴史的な転換点を対比させました。ひとつは1931年、もうひとつは2008〜2009年の世界金融危機です。
1931年当時、多くの国が自国だけで生き残ろうとする狭い意味での自立を追求し、それが結果として世界の資本市場の崩壊と深刻な世界恐慌につながったと同氏は指摘します。リスクを国内に抱え込もうとしたことが、かえって連鎖的な不安定性を増幅させてしまったという見立てです。
一方、2008〜2009年の世界金融危機では、各国当局の素早い連携と政策協調が行われ、中国も重要な支援を提供しました。ポーリー氏は、こうした国際協力が総崩れを防ぎ、金融システムの全面的な崩壊を回避するうえで決定的な役割を果たしたと評価します。
1931年と2008年のコントラストは、国家の主権を尊重しながらも、世界全体で共有する安全網を政治的に整える必要性を浮き彫りにします。技術や金融などの重要分野で自立性を高めるとしても、最後に全体を支えるのは協調に基づく共同の保護だというメッセージです。
保護はグローバルに 機能に基づく協力を
ポーリー氏は、現代の複雑なリスクに対しては保護はいまやグローバルでなければならないと語ります。つまり、気候危機からデジタル技術まで、国境を越えて広がるリスクに対しては、一国だけの安全保障では十分ではないということです。
そのうえで同氏は、保険と再保険の歴史に目を向けることで、イデオロギー対立を超えた実務的な協力のヒントが得られると強調します。リスク情報の共有や共同の資金的備えなど、具体的で機能に根ざした協力を積み重ねることで、主権的な自立と集団的な安全保障を両立させる道が開けると見ています。
日本と世界への示唆
ポーリー氏の議論は、中国だけでなく、技術主権や経済安全保障を重視する多くの国や地域にとっても示唆に富んでいます。とくに国際ニュースとしての意味合いを考えると、次のような論点が浮かび上がります。
- 技術自立と国際協力を二者択一として捉えるのではなく、両立させる設計をあらかじめ組み込むこと。
- 保険や再保険のように、危機が起きる前からリスクを分散し合う制度やネットワークを国際的に整えること。
- 生成系人工知能や気候変動など、新しいグローバルリスクについて、共通のルールづくりや情報共有の場を広げること。
技術の自立性を高めたいという動きは、世界各地で強まっています。一方で、気候変動や金融危機、デジタル技術の暴走といったリスクもまた、これまでになく国境を越えています。ポーリー氏のインタビューは、その二つの潮流を対立させるのではなく、保険という身近な仕組みになぞらえて結び直そうとする試みとして読むことができます。
競争と協力をどう両立させるかという問いは、2025年の今を生きる私たち一人ひとりにも向けられていると言えそうです。
Reference(s):
Expert: China should balance tech sovereignty with global 'insurance'
cgtn.com








