中国・青島ビール博物館で感じる麦と海の記憶
麦と海の匂いで始まる、青島の最終日
青島で迎えた最後の朝、筆者はかすかな大麦と潮の香りで目を覚ましました。それは想像だったのかもしれませんが、この街がビールと海という二つの愛情を静かに吐き出しているようにも感じられます。前の朝には丘を歩き、寺院を訪ねましたが、この日は中国の都市・青島を象徴するビールと海の物語をたどる一日になりました。本稿は、その歩みを通じて中国の今をゆっくり見つめる国際ニュースのルポです。
青島ビールが生まれた場所を歩く
向かった先は、登州路にある青島ビール博物館です。ここは、一九〇三年八月に英独合弁の企業「Anglo-German Brewery Co., Ltd.」が設立した工場の跡地に建てられています。当初は「Germania-Brauerei Tsingtao Co., Ltd.」という名前で、青島の清らかな湧き水とドイツ系の酵母、輸入されたホップを組み合わせ、本場ドイツ風のラガービールを醸造しました。このビールはやがて、中国を代表するビールの一つとして知られる存在になっていきます。
外国資本の工場から、中国のビールへ
工場の歴史は、そのまま青島という都市の歴史を映し出しています。海外からの影響を受けながらも、激しい変化の時代をくぐり抜け、最終的にははっきりとした中国の顔を持つようになった街の歩みです。
第一次世界大戦での青島攻防戦ののち、一九一六年にはこの工場は日本の管理下に移ります。第二次世界大戦の終結と日本の降伏を経て、工場は中国側の管理となり、やがて国営企業としての道を歩みました。
その後の一世紀にわたり、改革と近代化の波が押し寄せるなかでも、ビールづくりは止まることなく続きます。ただ変わらないのではなく、時代に合わせて姿を変えながら、周囲の街と同じように進化していきました。
赤レンガに刻まれた百年の時間
博物館としての青島ビール博物館が誕生したのは、工場創設からちょうど百年の節目を迎えた二〇〇三年八月です。場所は当時の工場そのもの。赤レンガ造りの建物が連なる敷地で、百年以上にわたってビールがつくられてきた空間が、そのまま記憶の器として残されています。
ここでは、工場を単なる産業遺産としてではなく、街の歴史と人びとの暮らしを語る舞台として捉え直しているように感じられます。
QRコードから始まる時間旅行
入口では、木製のボードに掲げられたQRコードをスマートフォンで読み取り、入場券を購入することができます。スマートフォンの画面をかざすだけで博物館の中へと招き入れられる体験は、百年以上の歴史を持つ工場が、現在の生活と地続きであることをさりげなく示しているようです。
一歩足を踏み入れると、館内は「生きた年表」のように時間が流れていきます。見学ルートは、おおまかに三つの展示ゾーンに分かれています。
三つの展示ゾーンをめぐる
- 歴史・文化ゾーン
青島ビールの誕生から現在に至るまでの歩みと、その背景にある社会や文化の変化が紹介されます。外国資本の工場として始まり、戦争や政変を経て中国のビールとして根付いていく過程を、資料や展示でたどることができます。 - 生産ゾーン
かつて使われていた醸造設備と、現在の装置が同じ空間に並びます。古いタンクや機械と、現代的な装置が対比されることで、技術がどのように変化してきたのかが視覚的に伝わってきます。 - マルチメディア・体験ゾーン
映像やインタラクティブな展示を通じて、ビールづくりの工程と来館者の体験が重なり合います。製造現場の雰囲気や音、動きを、別の角度から感じ取ることができます。
青島の過去と現在をつなぐ視点
もともと外国から持ち込まれた技術と資本によって始まったビール工場が、激動の二十世紀を通じて中国の都市と深く結びついた存在になっていく。その変化は、青島という街がたどってきた道のりとも重なります。
展示を歩きながら見えてくるのは、次のような問いかけかもしれません。
- 外から来たものが、どのようにして地域の文化として根づいていくのか。
- 戦争や政治の変化の背後で、人びとの日常と仕事はどのように続いていくのか。
- 工場や博物館という空間が、都市の記憶をどのように保存し、次の世代へ渡していくのか。
二〇二五年の今、数字や経済指標だけでは見えにくい中国の姿を知りたいとき、こうしたスローペースの視点は一つの手がかりになります。青島ビール博物館を歩いていると、麦と海の匂い、長い時間を生きてきた建物、そこで働いてきた人びとの思いが重なり合い、静かな物語として立ち上がってきます。
青島で過ごした最後の日の終わりに、ふと振り返ると、心に残っているのはガラス越しの展示だけではありません。館内や街角ですれ違った人びとの笑顔、そしてゆっくりと流れる時間の感触が、いつまでも余韻として残り続けます。それは、変化の只中にある中国の都市を、少し違う角度から見つめるための小さなヒントにもなってくれそうです。
Reference(s):
Last day in Qingdao: From barley to the sea, and smiles that linger
cgtn.com








