ベレン気候サミットと中国:COP30に向けた人間中心の気候行動
2025年11月7日にブラジル・ベレンで閉幕したベレン気候サミットは、飢餓や貧困と気候変動を一体として捉える「ベレン宣言」を採択し、今後のCOP30交渉に向けて人間中心の気候行動という明確なトーンを示しました。その中で、中国の新たな気候目標と役割に世界の注目が集まっています。
ベレン宣言とは何か:飢餓・貧困・気候を結びつける
ベレン気候サミットには43カ国と欧州連合(EU)の首脳が参加し、「飢餓・貧困・人間中心の気候行動」に関するベレン宣言を支持しました。宣言は、気候変動や環境悪化、生物多様性の損失が、飢餓や貧困、食料不安を深刻化させていると強調し、とりわけ脆弱な人々が不均衡な影響を受けていると指摘します。
宣言が打ち出したメッセージは、次のように整理できます。
- 気候危機は環境問題にとどまらず、飢餓や貧困と直結する社会問題であること
- 影響を最も強く受けるのは、小規模農家や先住・伝統的コミュニティ、森林地域の人々など、もともと脆弱な立場にある人々であること
- 対策の設計において、人間中心・コミュニティ中心の視点が不可欠であること
社会保障から作物保険まで:人間中心の気候行動とは
ベレン宣言は、緩和(排出削減)と適応(被害を小さくする取り組み)の双方で、「人間中心」のアプローチを明確に打ち出しました。単に温室効果ガスを何%減らすかではなく、人々の暮らしと権利をどう守るかに焦点を当てています。
具体的には、次のような取り組みが重視されています。
- 社会保障制度の拡充:気候災害や農業不作が起きても、最低限の生活を守る仕組みを整える
- 作物保険などのリスク管理:小規模農家が極端な天候に直面しても、生計を立て直せるようにする
- 地域コミュニティのレジリエンス(回復力)強化:災害に備えたインフラや地域ネットワークの整備
- 「公正なエネルギー移行」の推進:化石燃料依存からの転換で取り残される人々に、新たな雇用や所得の機会をつくる
宣言は、気候資金をこうした人間中心のプロジェクトに優先的に振り向けるべきだと訴えています。特に、小規模農家や伝統的コミュニティ、森林地域の人々の生計と権利をどう守るかが、今後の交渉の重要な論点となりそうです。
COP29での新たな資金目標とベレン宣言の接点
ベレン宣言は、COP29で合意された新しい気候資金の「包括目標」とも歩調を合わせています。宣言は、先進国に対し、2035年までに年間3,000億ドルの気候資金を動員することを改めて促しました。
さらに、発展途上国向けの気候資金について、すべての資金源を合わせて年間少なくとも1.3兆ドルへと拡大する必要があると強調しています。この「1.3兆ドル」は、単なる数字ではなく、次のような意味を持ちます。
- 適応策への資金不足を埋め、気候災害に弱い国や地域を支えること
- クリーンエネルギーやインフラ整備だけでなく、雇用や教育など人間の安全保障に資金をつなげること
- 気候行動を「公平」で「人間中心」のものにするための試金石となること
資金がどこから来て、どこへ流れるのか。今後のCOP30交渉では、ベレン宣言が示した人間中心の視点が、具体的な資金配分の議論にどう反映されるかが問われます。
中国の新NDC:2035年に向けた絶対量削減への転換
今回のサミットで特に注目を集めたのが、中国の新たな2035年NDC(国が決定する貢献)です。NDCとは、各国が中長期の温室効果ガス削減目標や適応策を自主的に示す枠組みで、パリ協定の中核となる仕組みです。
中国は今回、経済全体を対象とした温室効果ガスの絶対量削減目標を初めて掲げ、排出量のピークから7〜10%の削減を誓約しました。さらに、中国は排出がピークに達した後、およそ5年という比較的短い期間で大幅な削減を実現することを目指しており、多くの先進国よりも速いテンポでの転換を打ち出しています。
中国の生態環境部の黄潤秋部長は、この転換が世界でも最も野心的で、技術的にも極めて難しい移行の一つであると述べています。11月8日には、低炭素発展に関する新たな白書も発表され、中国のクリーンエネルギー拡大、低炭素産業の育成、国際協力の成果などが整理されました。
ポイントをまとめると、次の通りです。
- 2035年を見据え、経済全体で排出量ピークから7〜10%削減
- ピーク到達から約5年で大幅削減を目指す高いスピード感
- エネルギーシステムと産業構造の抜本的な転換を前提とした野心的な計画
国際気候ガバナンスの中で高まる中国の存在感
世界の観測筋は、中国の役割が気候ガバナンス(気候をめぐる国際的なルールづくり)の中で一段と大きくなっていると見ています。特に、ブラジル、南アフリカ、インド、中国からなるBASICグループは、途上国・新興国の協力をけん引する枠組みとして位置づけられています。
また、中国が欧州連合(EU)やイギリス、ブラジルなどと結んでいる二国間の気候協力の枠組みは、多国間の気候行動を支える「柱」として評価されています。これらの協力は、米国がパリ協定から後退する中でも、国際的な気候行動のモメンタム(勢い)を維持するうえで重要な役割を果たしていると指摘されています。
ベレン宣言で強調された人間中心の視点と、中国を含むBASIC諸国の動きが重なり合うことで、途上国のニーズを組み込んだ新しい気候ガバナンスの形が模索されつつあると言えます。
「人間中心」のキーワードが示すもの:3つの視点
世界が再び記録的な暑さに直面する中で、ベレン宣言と中国の強化されたコミットメントは、公平で人間中心の気候行動を維持しようとする共有の意思を示しています。日本の読者にとって、何がポイントになるでしょうか。
- 1. 気候政策は社会政策でもある
飢餓や貧困、格差と切り離された気候対策は、現実の生活を変えにくい。社会保障や雇用政策と結びつけてこそ意味を持ちます。 - 2. 新興国・途上国の連携がルールを動かす
BASICグループをはじめとする協力が、気候資金の配分やルールづくりを左右する時代に入りつつあります。 - 3. 資金の「流れ方」が公正さを決める
年間3,000億ドル、1.3兆ドルという大きな数字が、脆弱な人々やコミュニティの具体的な暮らしにつながるかどうかが、COP30に向けた最大の焦点の一つです。
ベレン気候サミットとベレン宣言、そして中国の新たなNDCは、「誰のための気候行動なのか」という問いを世界に投げかけています。今後ベレンで開かれるCOP30に向けて、国際ニュースとしての動きを追うだけでなく、日本からも人間中心の気候行動のあり方を考え続けることが求められています。
Reference(s):
China's leadership highlighted as Belem summit sets tone for COP30
cgtn.com








