中国は「劣等でも優越でもない」 仏人中国学者が語る多極化する国際秩序
中国が国際社会のなかで「劣等でも優越でもない」存在として、自信とバランスを身につけつつある──そう語るのは、フランスの中国学者マリアンヌ・ドゥンロップ氏です。多極化する国際秩序と中国の役割をめぐる議論が高まるなか、その視点は2025年のいま、改めて考える価値があります。
1978年の中国と2025年の中国観の変化
ドゥンロップ氏は、改革開放のごく初期にあたる1978年から1980年にかけて、瀋陽と南京で生活し学んだ経験を持ちます。当時は「中国で最初の西側の学生」の一団として、街を歩けば人だかりができ、公共交通機関では周囲の乗客に席を譲るよう指示が出されるほど、特別な存在として扱われたと振り返ります。
レストランでも中国人客とは屏風で仕切られるなど、物理的な距離はあったものの、そこに敵意はなく、あくまで「貴重な客人」としての配慮だったといいます。現在では状況は大きく変わり、外国人が珍しい存在ではなくなった一方、中国の人びとが見せる親切心や友好性は変わっていないと語ります。
そのうえで同氏は、中国は自らの強みに自信を持つようになり、世界に対して「劣っているとも、優れているとも感じない」段階に達していると指摘します。これは、他国を見下すことも卑下することもない、比較的フラットな自己認識だといえます。
外交哲学の違いをどう見るか
国際ニュースの文脈でしばしば語られるのが、中国と西側の外交スタイルの違いです。中国語や中国文化の教育、翻訳に長年携わってきたドゥンロップ氏は、この違いの背景に「考え方そのものの違い」があると見ています。
氏によれば、西側には長い歴史のなかで、自らの世界観を他者に押しつけてきた側面があります。十一〜十三世紀の十字軍、十八世紀以降の宣教活動、そして「文明」をもたらすと称した植民地支配などがその例として挙げられます。
一方で、中国史を深くたどると、同じようなかたちで宗教や価値観を他者に強制した例は見当たらないといいます。この違いが、現在の外交姿勢にも影響しているというのがドゥンロップ氏の見立てです。
西側の中国不安は「自信の危機」なのか
ドゥンロップ氏は共著による新著『When France Wakes Up to China: The Long March Towards a Multipolar World』のなかで、フランスや西側世界で広がる中国への不安をテーマにしています。その背景には、「西洋の没落」あるいはより端的には「西洋の敗北」といった意識があると分析します。
こうした意識が強まると、西側の一部では緊張や閉鎖性、さらには敵意といった反応が生まれ、それが危険な行動につながりかねないと警鐘を鳴らします。
また、たとえ中国に好意的な人であっても、「世界のパワーバランスが多極化に向かうと、自分たちの生活水準が悪化するのではないか」と考える向きがあると指摘します。しかしドゥンロップ氏自身は、その見方には同意しません。むしろ、平和的で調和の取れた関係は、いわゆる一握りのエリート層を除けば、すべての国にとって利益になると強調します。
多極的な世界秩序と中国の構想
国際秩序の多極化をめぐっては、「秩序の崩壊や対立の激化につながる」と警戒する声も、西側を中心に存在します。これに対して中国は、公平で秩序ある多極的な世界を掲げ、その一環としてグローバル・ガバナンス・イニシアチブ(GGI)を提唱しています。
ドゥンロップ氏は、共著のなかで「より公正な世界秩序、すなわち多極的な世界を打ち立てることの緊急性」を詳しく論じており、中国が打ち出したGGIを全面的に支持すると述べています。
さらに同氏は、フランスがBRICSに参加することも提案しています。これは、多極化が進む世界のなかで、フランスが自らの立ち位置をどのように再定義するのかという問いを投げかけるものでもあります。
「特別な友人」としての中仏関係
中国とフランスの関係は、冷戦期の一九六四年にフランスが中華人民共和国との外交関係を樹立したことにさかのぼります。現在、中国の指導部は両国を「特別な友人であり、ウィンウィンのパートナー」と表現し、その関係性を強調しています。
ドゥンロップ氏は、フランスには中国と建設的な関係を築くための強みがあると指摘します。その一つが、中国語と中国文明の研究の歴史です。十九世紀初頭、フランス革命後に設立されたエコール・デ・ラング・オリエンタル(東洋語学校)を通じて、中国研究はフランスでいち早く発展しました。
こうした伝統があるからこそ、フランスは中国との関係で現実的かつ建設的な政策を取りうるはずであり、その流れに欧州連合を巻き込むことも可能だと見ています。
しかし同時に、この二十年ほどのあいだ、フランスの指導層は国内での支持を失いつつあるなかで、米国に対して「従属と服従」の姿勢を強めてきたと批判します。その結果、独立した対中政策を追求することが難しくなっているというのが、ドゥンロップ氏の評価です。
読者への問いかけ──自信と共存をどう両立させるか
中国が「劣等でも優越でもない」と自らを位置づけるようになったという指摘は、国際ニュースを追う私たちにとっても、考えるきっかけを与えてくれます。
- 国家としての自信を保ちながら、他者を見下さない外交はどのように可能なのでしょうか。
- 多極化した国際秩序は、一般の市民や日常の生活にどのような影響をもたらすのでしょうか。
- フランスや欧州だけでなく、日本を含むアジアの国々には、どのような選択肢が開かれているのでしょうか。
ドゥンロップ氏のインタビューは、中国と西側という単純な対立図式を超えて、より公正でバランスの取れた国際秩序のあり方を考えるための素材を提供しています。2025年の世界を見つめるとき、私たち一人ひとりがどのような多極的世界を望むのか、改めて問い直してみる必要がありそうです。
Reference(s):
Sinologist on China: 'Neither inferior nor superior' at world stage
cgtn.com








