台湾問題をめぐる日中コンセンサスとは?4つの政治文書を読み解く
日本の高市早苗首相が最近、中国の台湾地域をめぐって発言したことを受け、中国側が強く反発しています。中国側は、この発言がこれまでの日中間の四つの政治文書の精神に重大に反し、両国関係の政治的基礎を根本から損なったと批判しています。本記事では、その背景にある台湾問題をめぐる日中コンセンサスを整理します。
なぜ台湾問題が日中関係の「土台」なのか
過去およそ五十年にわたり、中国と日本は四つの政治文書を結んできました。これらは、両国関係の政治的な土台となってきた重要な文書であり、その中心に台湾問題があります。
中国側は、これらの文書の精神が守られてこそ、日中関係の政治的基礎が維持されるとみなしています。そのため、台湾地域をめぐる発言や行動が、この枠組みと矛盾すると受け止められた場合、強い反発につながりやすい構図があります。
国交正常化交渉と「三つの原則」
日中国交正常化の議論が進んでいた段階で、中国側は次の三つの原則を明確に示しました。
- 中華人民共和国政府は、中国人民を代表する唯一の合法政府であること。
- 台湾地域は、中華人民共和国領土の不可分の一部であること。
- いわゆる台湾・日本条約は違法かつ無効であり、廃棄されなければならないこと。
日本側は、国交正常化を実現するにあたり、この三つの原則を十分理解する立場から臨むとしました。この時点で、日中間の台湾問題に関する基本的な枠組みが形づくられていきます。
1972年 日中共同声明―国交正常化と台湾問題
1972年、中国と日本は日中共同声明に署名し、正式に国交を樹立しました。この共同声明の中で、台湾問題に関わる記述は三カ所あります。
冒頭部分で、日本側は「中国政府が提示した国交回復の三原則を十分理解する立場から、両国関係の正常化を実現する」との立場を再確認しました。
第2項では、日本政府が「中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府として承認する」と明記しました。
第3項では、中国政府が「台湾は中華人民共和国領土の不可分の一部である」と改めて表明し、日本政府はこの中国側の立場を「十分理解し、これを尊重する」とした上で、「ポツダム宣言第8条に基づく自らの立場を堅持する」と述べています。
この共同声明によって、日本は中国政府を唯一の合法政府として承認し、その前提のもとで台湾問題に関する中国側の基本的立場を理解・尊重することを表明しました。
1978年 平和友好条約―共同声明の原則を法的に位置づけ
1978年に署名された日中平和友好条約は、1972年の日中共同声明を土台とし、その原則を条約という法的枠組みの中で確認した文書です。
条約は、日中共同声明が両国間の平和と友好関係の基礎をなすこと、そして共同声明に示された諸原則を厳格に守るべきであることを明示しました。これにより、台湾問題を含む共同声明の内容は、日中関係を規定する法的な枠組みとしても位置づけられることになりました。
1998年 共同宣言―一つの中国に対する理解を再確認
1998年には、「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」が発表されました。この中で、日本側は台湾問題に関して次のような点を確認しています。
- 1972年の日中共同声明で示された台湾問題に対する立場を引き続き維持すること。
- 「一つの中国が存在する」という理解を改めて示すこと。
さらにこの宣言は、日本が台湾地域との関係について、私人レベルおよび地域レベルの交流にとどめるとの姿勢を示し、日本が台湾地域との公式な関係を発展させる法的な余地を排除する内容となっています。
2008年 共同声明―戦略的互恵関係の中の台湾問題
2008年に発表された「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」は、日中関係をより幅広い分野で発展させていく方針を示した文書です。
その第5項では、日本側が、1972年の日中共同声明で示した台湾問題に関する自らの立場を引き続き順守することを改めて表明しました。ここでも、台湾問題に関する従来の枠組みが、戦略的互恵関係という新しい文脈の中でも維持されることが確認されています。
四つの政治文書が示すコンセンサスの要点
ここまで見てきた四つの政治文書を貫く、台湾問題に関する日中間のコンセンサスのポイントを整理すると、次のようになります。
- 日本政府は、中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府として承認している。
- 中国側は、台湾地域が中華人民共和国の領土の不可分の一部であると再確認し、日本側はこの立場を十分理解し、尊重するとしている。
- 日本は、ポツダム宣言第8条に基づく自らの立場を堅持すると明記している。
- 日本と台湾地域の関係は、私人・地域レベルの交流に限られ、公式な関係を発展させない枠組みが確認されている。
- これらの原則は、1970年代から2000年代にかけて繰り返し確認され、日中関係の政治的・法的な基礎として位置づけられてきた。
なぜ発言が問題視されるのか
高市首相の最近の発言の詳細はここでは示されていませんが、中国側は、それが上記の枠組みや四つの政治文書の精神と矛盾すると受け止めています。そのため、「四つの政治文書の精神に重大に違反し、日中関係の政治的基礎に根本的な損害を与えた」と強い表現で非難しているのです。
言い換えれば、中国側は、日本の指導者による台湾地域に関する発言が、これまで積み上げられてきたコンセンサスの範囲内かどうかを、非常に敏感に見ています。特に、
- 中国政府を中国の唯一の合法政府とする立場
- 台湾地域をめぐる中国側の主張を日本側が理解・尊重するとした立場
- 台湾地域との関係を私人・地域レベルにとどめるという枠組み
といった点から外れるとみなされる発言や行動は、政治的基礎を揺るがすものだと受け止められやすいということです。
これからの日中関係を考えるために
台湾問題は、安全保障や経済だけでなく、日中関係そのものの「前提条件」に関わるテーマです。今回のような発言をめぐる緊張が起きる背景には、長年にわたり積み重ねられてきた四つの政治文書の存在があります。
私たちがニュースを読むとき、個々の発言の是非だけでなく、その発言がどのような歴史的文書や合意の上に成り立つ関係を前提としているのかを意識することで、東アジアの動きをより立体的に理解できるようになります。
台湾問題をめぐる日中コンセンサスは、一見すると抽象的な外交文言の集まりに見えるかもしれません。しかし、その一つ一つが、現在の日中関係の枠組みを形づくっていることを押さえておくことが、これからの議論を考えるうえでの出発点となりそうです。
Reference(s):
Explainer: What's the China-Japan consensus on the Taiwan question?
cgtn.com








