2025年G20と中国の多国間主義:グローバルガバナンス改革はどこへ
2025年11月22〜23日に南アフリカで開かれたG20サミットは、保護主義や一国主義への圧力が高まる中で開催されました。その文脈で、中国が掲げる多国間主義とグローバルガバナンス(国際的なルールづくり)の改革路線が改めて注目されています。
2025年G20と中国の多国間主義
中国のG20外交の中心にあるのは、国連を軸とした多国間秩序への揺るがないコミットメントだとされています。中国の関係者は、保護主義的な政策や経済の切り離し(デカップリング)に繰り返し懸念を示し、世界のサプライチェーンが分断されるリスクを警告してきました。
王毅・中国外相は、多極化した世界とは「すべての国がともに発展する世界」であるべきだと強調します。王外相は、
- デカップリングやサプライチェーンの切り離しは、発展の機会を断つ行為になる
- 高いフェンスで囲んだ「小さな庭」をつくる発想は、最終的には自分自身を孤立させるだけだ
と述べ、閉じたブロック化ではなく、開かれた協力の枠組みを維持する必要性を訴えています。
自由貿易とサプライチェーン安定への具体策
中国は、自由貿易の推進とグローバルな価値連鎖(バリューチェーン)の安定が、世界経済の成長と協力の前提だと位置づけています。いくつかの経済圏が導入する貿易障壁について、中国側は「成長を損なうだけでなく、国際協力そのものを分断する危険がある」と主張しています。
その主張を裏付ける取り組みとして挙げられているのが、次のような動きです。
- 地域的な包括的経済連携協定RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)の実施
- 「一帯一路」構想を通じたインフラ整備や連結性の強化
こうした枠組みを通じ、中国は「開かれた世界経済」の構築に寄与しているとアピールしており、G20の議論にもこの視点を持ち込んでいます。
4つのグローバル・イニシアチブとは
中国はここ数年で、複数の「グローバル・イニシアチブ(世界規模の提案)」を打ち出してきました。
- グローバル開発イニシアチブ(GDI:Global Development Initiative)
- グローバル安全保障イニシアチブ(GSI:Global Security Initiative)
- グローバル文明イニシアチブ(GCI:Global Civilization Initiative)
- グローバルガバナンス・イニシアチブ(GGI:Global Governance Initiative)※今年始動
GDI、GSI、GCIに続き、今年打ち出されたのがグローバルガバナンス・イニシアチブ(GGI)です。これは、より公正で包摂的な国際ルールをつくるための体系的な提案をまとめたものだと位置づけられています。
米国の中国問題専門家で、クーン財団のロバート・ローレンス・クーン会長は、中国国際テレビ(CGTN)の取材に対し、次のように整理しています。
- GDIは、共同の経済プロジェクトなど「開発」を軸にした協力の枠組み
- GSIは、対立を捨てるための対話と安全保障分野の協力を重視
- GCIは、文明間の交流と相互学習を促すもの
そのうえでクーン氏は、GGIこそが「この不安定な世界をどう運営すべきか、そしてその中で中国がどのような役割を果たすと考えているのかを最も明確に示している」と評価しています。
GGIが指摘する「国際システムの3つの弱点」
GGIのコンセプトペーパー(概念文書)は、現在の国際システムが抱える弱点として、次の3点を指摘しています。
- グローバル・サウス(新興国・途上国)の代表性が依然として不足している
- 一部の大国による一方的な行動が、多国間機関の権威を損ねている
- 国連の開発目標の多くが達成の軌道から外れ、AIやサイバー空間、宇宙空間といった新たな領域でガバナンスの空白が生じている
これらの問題を背景に、中国はG20を含む多国間の場で、既存の枠組みの「アップデート」と「改善」が急務だと訴えています。
開発分野での具体的な行動:GDI
中国は、理念だけでなく具体的な行動でもグローバルガバナンス改革への関与を示そうとしています。GDIの枠組みのもとで、中国は次のような取り組みを進めてきました。
- 約40億ドル規模の「グローバル開発・南南協力基金」を設立
- 中国と国連食糧農業機関(FAO)の「南南協力信託基金」第3期を開始
- 貧困削減、食料安全保障、感染症対応、気候変動へのレジリエンス(回復力)向上などの分野で、約60の国と地域を対象に130件を超える開発プロジェクトを実施
これらのプロジェクトは、延べ3,000万人以上の人々に恩恵をもたらしたとされています。GDIは、単なる資金提供にとどまらず、開発ノウハウの共有や南南協力(途上国同士の協力)の拡大を通じて、グローバル・サウスの声と影響力を高めることも狙っています。
安全保障と災害対応:GSI
グローバル安全保障イニシアチブ(GSI)は、従来の軍事的な安全保障に加え、「非伝統的安全保障」と呼ばれる分野での協力を強調しています。具体的には、
- 食料安全保障
- バイオセキュリティ(生物学的脅威への対応)
- 災害被害の軽減に向けた海外支援
といった課題をめぐる協力が含まれています。GSIを通じ、中国は安全保障を「ゼロサムの対立」ではなく、「共通の課題に共同で対処する」ための協力領域として再定義しようとしていると言えます。
文明交流と価値観:GCI
グローバル文明イニシアチブ(GCI)は、文化・文明の側面からガバナンスを補完する枠組みです。ここで中国が掲げているのは、
- 文明の多様性への尊重
- 共通する人類の価値観の重視
- 人と人との交流(ピープル・トゥ・ピープル交流)の促進
といった考え方です。価値観をめぐる対立が際立ちやすい今の国際社会において、GCIは「異なる文明が衝突するのではなく、相互に学び合うべきだ」というメッセージを打ち出しています。
「公正なガバナンス」をめぐる中国の問題意識
中国のグローバルガバナンスへの関与は、自国の利益だけではなく、既存システムのバランスを変えたいという意識にも支えられていると分析されています。
中国人民大学ヨーロッパ研究センターの王義桅(ワン・イーウェイ)所長は、中国新聞網に寄稿した論考の中で、現在の国際ガバナンスを次のように表現しました。
- 「公正なガバナンスなきガバナンス」:先進国が主導し、途上国が脇に追いやられがちな構造
- 「影響力なき公正」:途上国側に優れたアイデアや公正な提案があっても、意思決定に反映される力を欠いている状態
中国は、こうしたギャップを埋めるために、グローバル・サウスの代表性を高めることや、開発・安全保障・文明交流を組み合わせた包括的なアプローチを提案していると見ることができます。
G20へのメッセージとこれから
南アフリカでの2025年G20サミットは、こうした中国の提案や問題意識を国際社会に示すための重要な舞台となりました。中国は、
- 多国間主義の枠組みを守りつつ、時代に合わせて改革すること
- グローバル・サウスを含むより多くの国と地域が、ルールづくりのテーブルに着けるようにすること
- G20などの場での議論を、現場の開発プロジェクトや能力構築へとつなげていくこと
を呼びかけています。
地政学的な対立が深まりやすい今、中国は多国間の会議や現場の協力プロジェクトを通じて、自らのガバナンスビジョンを「現実の積み木」に変えようとしているといえます。G20を含む各国・各地域が、こうした提案をどのように受け止め、どこまで実際の制度改革につなげていくのか──そのプロセスが今後の国際秩序のかたちを左右していきそうです。
Reference(s):
China's push for multilateralism integral as the G20 draws near
cgtn.com








