中国農村振興の最前線 若い母Ayingさんが示す「人材革命」 video poster
中国の農村振興の現場では、インフラやテクノロジーだけでなく、地域で暮らす「人」の力が変化を生み出しています。甘粛省の若い母Ayingさんの物語は、その象徴的なケースです。
Ayingさん:専業主婦から地域インフルエンサーへ
甘粛省に暮らすAying(アーイン)さんは、かつては目立つことのない専業主婦でした。しかし、農村振興の流れの中で地域が変わり始めると同時に、彼女自身も変化の主役の一人になっていきます。
中国の農村地域を対象とした「美しい村」プロジェクトに関わる中で、Ayingさんは、自分の村の魅力や暮らしの変化を周囲の人々に伝えるようになりました。いまでは、地域の人々に影響を与える「ローカルインフルエンサー」として、村のストーリーを発信する存在になっています。
このプロジェクトのディレクターである郝徳民(Hao Demin)氏は、中国のメディアCGTNのインタビューで、Ayingさんの歩みは決して特別な例ではないと説明しています。彼女のように、自らの暮らしと地域の未来を同時に変えようとする人が、各地の村で次々に生まれているからです。
「美しい村」プロジェクトとは何か
「美しい村」(Beautiful Villages)プロジェクトは、中国の農村地域における環境整備と暮らしの質の向上を目指す取り組みです。単に景観を整えるだけではなく、インフラ、サービス、テクノロジーの三つを軸に、村の日常そのものをアップグレードしていきます。
プロジェクトが重視しているポイントは、おおまかに次の三つです。
- インフラの整備:道路や住環境、通信環境など、暮らしと仕事の土台を強くすること。
- サービスの充実:教育、医療、子育て支援など、生活サービスへのアクセスを改善すること。
- テクノロジーの導入:農業や日常生活にデジタル技術を取り入れ、新しい働き方や商機を開くこと。
こうした土台づくりにより、村で暮らし続けること、さらには村に戻ることが、現実的な選択肢になりつつあります。Ayingさんのような若い世代や子育て世代が、「ここで暮らし、ここから発信する」という決断を下しやすくなるのです。
「人」と「アイデア」が加わるとき、村はどう変わるか
プロジェクトがインフラやサービスを整えるだけでは、変化は一方向で終わってしまいます。そこに、地域の人々の創意工夫が加わることで、村の変化は持続的で、自走するものになっていきます。
たとえば次のような動きが、各地で同時に進みます。
- 地域の特産品や文化を生かした、小さなビジネスやイベントが生まれる。
- 住民が、自分たちの目線で暮らしの課題を見つけ、サービス改善のアイデアを出す。
- 村で育った人が、地域とのつながりを強みに、新しい仕事や学びの場を作り出す。
インフラとサービスが「器」だとすれば、人々のアイデアと行動は、その器に注がれる「中身」です。郝徳民氏が語るのは、行政やプロジェクトが一方的に何かを「してあげる」形ではなく、村の人々が自ら考え、動き、その変化がさらに次の変化を呼び込むという循環モデルです。
つまり、「プロジェクトの支援」から始まり、「住民の工夫による新しい価値の創出」、「地域の収入や暮らしの向上」、「次の挑戦への投資」という好循環が回り始めているといえます。
数百万人の暮らしを変える「人材革命」
郝徳民氏によれば、「美しい村」プロジェクトが生み出すこうした循環は、すでに何百万人もの人々の潜在力を引き出し、それぞれの人生とコミュニティの姿を変えつつあります。
ここで言う「人材」は、特別な資格や高度な経歴を持つ一部の人だけを指しているわけではありません。Ayingさんのように、家庭と地域に根ざした暮らしの中から一歩を踏み出し、自分なりのやり方で周囲に影響を与えていく人たちが、その中心にいます。
農村振興の文脈で起きているのは、次のような「人材観」の転換だと捉えることができます。
- 「外から連れてくる人材」だけでなく、「地域の中にいる人」の力に光を当てる。
- 肩書きや学歴よりも、「地域をよくしたい」という意思と行動を評価する。
- 一人の変化が、家族や近隣、コミュニティ全体の変化を連鎖的に生むと考える。
農村振興を支えるのは、巨大なプロジェクトや華やかな投資だけではありません。Ayingさんのような、一見「普通の人」が自らの可能性に気づき、それを地域のために生かし始めることこそが、長期的には大きな力になっていきます。
日本や世界の読者にとっての意味
人口減少や高齢化、地域経済の停滞といった課題は、中国だけでなく、多くの国や地域が直面しているテーマです。中国の農村振興の事例は、日本を含む他の国にとっても、参考になる視点をいくつか投げかけています。
たとえば、次のような問いです。
- インフラ整備だけでなく、「ここで暮らしたい」と思えるストーリーや役割を、どう生み出すか。
- 地方で暮らす人が、自分の経験や感性を強みとして発揮できる場を、どう作るか。
- 一人の小さな成功体験を、地域全体の希望や学びにつなげる仕組みを、どう設計するか。
国や制度の違いはあっても、「人が主役であること」を軸に考えるという点では、多くの国や地域が学び合う余地があります。Ayingさんの物語は、中国の農村だけの話にとどまらず、私たち自身の身近なコミュニティの未来を見つめ直す鏡にもなり得ます。
「誰かの一歩」を支える仕組みをどう作るか
農村振興や地方創生を語るとき、つい「どんなプロジェクトを導入するか」「どれだけ予算を投じるか」といった話に目が向きがちです。しかし、甘粛省のAyingさんのような一人ひとりの変化が、最終的には地域を動かしていきます。
重要なのは、「やる気のある人を探す」のではなく、「誰かが一歩踏み出したくなったとき、その背中をそっと押せる環境」をどれだけ整えられるかという視点かもしれません。
インフラやサービス、テクノロジーが整っていくなかで、その上にどのような人の物語が重なっていくのか。中国の「美しい村」プロジェクトとAyingさんの歩みは、2020年代を生きる私たちに、そんな問いを静かに投げかけています。
Reference(s):
cgtn.com








