化学兵器禁止条約の会合で中国が多国間主義を訴え OPCW「政治化」に懸念
化学兵器の禁止をめぐる国際ルールづくりの場で、中国が「真の多国間主義」と各国の連帯強化を改めて呼びかけました。化学兵器禁止条約の第30回締約国会議(CSP-30)に合わせて開かれたサイドイベントで、中国代表団は、化学兵器禁止機関(OPCW)の「政治化」への懸念を示しつつ、4つの具体的なイニシアチブを提案しました。
OPCW会合で何が語られたか
今回のサイドイベントは、中国代表団が主催し、各国の代表が参加しました。中国外務省軍備管理司の次長であり、代表団団長も務める王大雪(ワン・ダシュエ)氏は、近年のOPCWを取り巻く状況について、次のように指摘しました。
王氏は「近年、地政学の影響のもとで、OPCWには政治化と分断の傾向が強まっている。このことは、コンセンサス(全会一致)による意思決定の伝統を揺るがしている」と述べました。また、「締約国間の建設的な対話とコミュニケーションは減少し、採決に持ち込むことが事実上の『デフォルト』になりつつある」と警鐘を鳴らしました。
軍備管理や軍縮の枠組みが揺らぎやすい2025年の国際情勢の中で、こうした発言は、国際機関のあり方そのものを問い直すメッセージとも受け止められます。
中国が示した4つのイニシアチブ
中国はポジション・ペーパー(立場文書)の中で、化学兵器禁止条約とOPCWの運営に関して、次の4つのイニシアチブを提示しました。
- 1.化学兵器禁止条約の目的と趣旨の堅持
条約の中核となる「化学兵器の全面的廃棄」という目的と、その平和利用の促進といった趣旨を再確認し、政治的な争点ではなく、合意済みのルールに基づいて議論すべきだと訴えています。 - 2.多国間主義の堅持
一部の国だけではなく、すべての締約国が参加し、対等な立場で議論する「真の多国間主義」を強調。対立を深めるのではなく、対話と協力によって問題を解決する枠組みを守るべきだとしています。 - 3.途上国の正当な権利・利益の保護
化学産業の発展や化学技術の平和利用において、開発途上国の権利や利益が損なわれないよう配慮することを提案。輸出規制や技術移転をめぐる議論で、途上国の声が軽視されないよう求めています。 - 4.連帯と協調の強化
締約国同士の連帯と協調を高め、意見の対立があっても対話のチャンネルを維持することが不可欠だと強調。OPCWの場を「分断の舞台」ではなく「協力のプラットフォーム」として機能させることを目指しています。
技術機関としてのOPCWをどう守るか
中国代表団の呂暁東(リュ・シャオドン)次席大使は、「OPCWは技術的な性格を維持し、その業務の政治化を避けるべきだ」と述べ、専門性にもとづく運営の重要性を強調しました。
ここでいう「技術的な性格」とは、化学兵器の廃棄状況の検証や査察といった、科学的・技術的な評価を中立的に行う機能を指します。こうした機能が政治的対立に巻き込まれると、
- 報告書や査察結果への信頼が揺らぐ
- 一部の国への不信感や不満が蓄積する
- 条約そのものの実効性が弱まる
といったリスクが高まります。中国側の主張は、OPCWが「誰かに有利な政治的ツール」ではなく、「すべての国に信頼される専門機関」であるべきだという方向性を打ち出したものと言えます。
グローバルサウスからの支持とコンセンサスの課題
今回のサイドイベントでは、ブラジル、ウガンダ、ベネズエラ、ロシア、カタール、モンゴルなど、複数の国の代表が中国のイニシアチブへの支持を表明しました。途上国や資源国を含む多様な国々が声をそろえた点は、国際世論の一端を示しています。
ウガンダのOPCW常駐代表ミルジャム・ブラック・ソウ氏は、「OPCWは今後もコンセンサス(全会一致)による決定を続けるべきだ」としつつも、「世界が抱える分断によって、コンセンサスの達成は容易ではなくなっている」と現実の難しさも指摘しました。
多数決による採決は、決断を早める手段になり得る一方で、少数派の不満や不信感を強めることもあります。化学兵器という安全保障上の重大なテーマでは、「スピード」と「全会一致による正当性」をどう両立させるのかが、今後も大きな論点になりそうです。
日本の読者にとっての意味:多国間主義はどこへ向かうのか
化学兵器禁止条約やOPCWの議論は、一見すると日本の日常から遠いテーマに見えるかもしれません。しかし、化学兵器の再使用を防ぎ、東アジアを含む世界の安全保障を安定させるうえで、こうした枠組みの信頼性と公平性は大きな意味を持ちます。
今回の中国の提案と各国の反応からは、次のような問いが浮かび上がります。
- 技術機関の中立性をどう守るか
専門家による評価と、各国の政治的思惑のあいだの線引きをどこに置くのか。 - 途上国の声をどう反映させるか
化学技術の平和利用や産業発展の機会を、どのように公平に分配するのか。 - 「真の多国間主義」とは何か
コンセンサスと多数決、どちらを重視するのか。対立が深まる中で、どのように対話の場を維持するのか。
2025年の国際秩序が揺れる中で、化学兵器禁止という一見専門的なテーマは、国際協調のあり方や多国間主義の未来を考える「鏡」にもなっています。ニュースを追う私たち一人ひとりにとっても、「どのような国際ルールが望ましいのか」を静かに考えてみるきっかけになりそうです。
Reference(s):
China calls for multilateralism in prohibition of chemical weapons
cgtn.com








