微生物で世界の課題を解決?深圳で国際シンポジウム開催
地球規模の課題を、目に見えないほど小さな微生物で解決できるとしたら――。そんなビジョンを掲げた国際ニュース級のシンポジウムが、2025年11月18日、中国広東省深圳市で開かれました。アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカから微生物学者が集まり、生命を「プログラムする」最前線について議論しました。
このシンポジウムは、アメリカの学術団体であるAmerican Society for Microbiology(ASM、米国微生物学会)と、中国科学院の研究機関・Shenzhen Institutes of Advanced Technology(SIAT、深圳先進技術研究院)が共催したものです。ASMが深圳でシンポジウムを開くのは初めてであり、SIATとの連携も今回が初の試みとなりました。微生物バイオテクノロジーの分野で、国際的な科学交流と協力を加速させることが目的とされています。
世界各地の研究者が深圳に集まった理由
今回のシンポジウムには、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカといった複数の地域から微生物学者が参加しました。背景には、微生物研究がすでに一国だけでは完結しない、グローバルな挑戦になっているという現実があります。
感染症、食料安全保障、環境汚染、エネルギー転換――。こうした課題は国境を越えて私たちの暮らしに影響を与えています。微生物を理解し、活用する技術を共有することで、各国・各地域がそれぞれ抱える問題をより早く、より安全に解決できる可能性があります。
「生命をプログラムする」とはどういうことか
シンポジウムのキーワードの一つが、生命を「プログラムする」という発想です。ここでいうプログラムとは、コンピューターのコードを書くことと同じように、微生物が持つ機能を設計し直し、狙った働きをしてもらうことを指します。
例えば、ある微生物の働きを調整して、環境中の汚染物質を分解しやすくしたり、医薬品の原料を効率よく作らせたりすることが考えられます。遺伝子や代謝経路といった生命の仕組みを理解し、それを設計していく取り組みは、しばしば「合成生物学」とも呼ばれますが、今回のような微生物バイオテクノロジーは、その中核を担う分野の一つです。
小さな微生物で、どんな課題に挑めるのか
微生物を「プログラム」することで、次のような応用が期待されています。
- 環境・気候変動への対応
汚染水や土壌中の有害物質を分解する微生物を設計し、浄化プロセスを効率化する可能性があります。 - 医療・ヘルスケア
新しい抗菌薬の開発や、腸内環境を整える微生物の設計など、健康寿命の延伸につながる応用が議論されています。 - 食料・エネルギー生産
発酵技術を高度化し、少ない資源で高品質な食品を生産したり、バイオ燃料やバイオ素材を作り出したりすることも射程に入っています。
こうしたテーマは、日本を含む多くの国々にとっても喫緊の課題です。深圳での議論は、遠い地域の話というより、私たちの日常の食卓やエネルギー選択とも静かにつながっていると言えます。
ASMとSIATの初の協力が意味するもの
今回のシンポジウムは、ASMにとって深圳での初の開催であると同時に、SIATとの初の連携プロジェクトでもあります。この事実は、微生物バイオテクノロジーをめぐる国際協力の流れが、新たな段階に入りつつあることを示しています。
異なる地域の研究者がパートナーシップを結ぶことで、次のような効果が期待できます。
- 研究データや知見の共有が進み、成果が社会に届くまでの時間が短くなる
- 若手研究者や学生の交流が増え、次世代の人材育成につながる
- 異なる規制や倫理観をすり合わせることで、安全性や透明性の高い技術開発が進む
一方で、生命を「プログラム」する技術が進むほど、倫理やリスク管理の重要性も増していきます。何をどこまで許容するのか、誰がルールを決めるのか。こうした問いに向き合う上でも、国際的な対話の場は欠かせません。
日本の私たちにとっての意味
今回の深圳でのシンポジウムは、中国の研究機関と海外の学会が連携し、微生物バイオテクノロジーの国際的なハブを築こうとする動きの一端と見ることができます。そこには、日本の研究者や企業にとっても、協力や競争を通じて関わりうる余地があります。
日々のニュースでは、目に見えやすい政治や経済の動きに注目が集まりがちです。しかし、今回のような科学技術の協力の積み重ねが、10年後、20年後の社会の姿を静かに形づくっていきます。
微生物という小さな存在を通じて、地球規模の課題にどう向き合うのか。深圳での議論は、その問いを私たち一人ひとりにも投げかけています。これからの国際ニュースを読み解くうえで、生命を「プログラムする」微生物バイオテクノロジーの動きに、静かに注目していきたいところです。
Reference(s):
Top scientists meet in China to solve big problems with tiny organisms
cgtn.com








