世界で広がる腰痛問題 背骨の健康と手術が必要なサインを整理 video poster
2020年だけで世界約6億1,900万人が腰痛に悩まされ、2050年には約8億4,300万人に増えると世界保健機関(WHO)は予測しています。現代の働き方やスマートフォン習慣が背骨にどんな負担をかけているのか、そしてどんなときに医療機関を受診し、手術を考えるべきなのかを整理します。
世界で増える腰痛、その背景
WHOによると、腰痛(下腰痛・LBP)は年齢を問わず多くの人を悩ませ、一生のうち一度は経験する人が大半だとされています。2020年には世界で6億1,900万人が腰痛の影響を受け、2050年には8億4,300万人に達する見通しです。
その中心にあるのが、背骨(脊椎)の健康です。背骨は体を支える柱であり、ここに負担が集中することで、腰痛や首の痛みなどさまざまな不調が表れやすくなります。
デスクワークとスマホが背骨に与える負担
長時間のデスクワークや、スマートフォン・タブレットを覗き込む姿勢は、首から腰までの背骨に大きなストレスを与えます。頸椎症(首の骨や椎間板の変化による症状)や腰椎椎間板ヘルニアといった病気が広がっている背景には、こうした生活スタイルの変化があります。
Peking University Health Science Centerの副学長であり、Peking University International Hospitalの院長を務める脊椎外科医のLiu Xiaoguang(リウ・シャオグアン)氏は、通勤中の車内でも多くの人がスマホをのぞき込むように前かがみになっている点を指摘し、「バスや地下鉄では、ほとんどの人が背中を丸めてスマートフォンを見ているが、これは背骨にとって最悪の姿勢の一つだ」と話します。
背骨を支える筋肉と、理想的なトレーニング
人間が直立して歩き、姿勢を保てるのは、背骨の両側を走る強力な筋肉群「脊柱起立筋」が支えているからです。この筋肉が弱くなると、背骨にかかる負担が増え、腰痛や首の痛みにつながりやすくなります。
Liu氏は、脊柱起立筋を鍛えつつ、背骨そのものには過度な負担をかけない運動として水泳を勧めています。特に、平泳ぎや背泳ぎは、体を水平に保ちながら背中の筋肉を使うため、背骨を「休ませつつ鍛える」ことができる理想的な方法だといいます。
若い世代にも広がる腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、これまで中高年に多い病気とみられてきましたが、今では若い世代でも一般的になりつつあります。Liu氏が診療した中で最も若い腰椎椎間板ヘルニアの患者は、わずか9歳だったといいます。
長時間の座位姿勢や不自然な前かがみ姿勢、運動不足などにより、腰の椎間板に負担がかかることで、若い年代でも症状が現れることがあると考えられます。
痛みの広がりで見分ける 簡単セルフチェック
自分の腰痛が単なる筋肉の張りなのか、それとも椎間板ヘルニアが関わっているのかを見分ける一つの手がかりが、「痛みがどこまで広がるか」です。
- 痛みが膝より下まで広がらない場合:椎間板が膨らんで周囲を刺激しているものの、神経根までは強く圧迫していない「関連痛」である可能性が高いとされます。
- 痛みが膝を越えて、ふくらはぎや足先まで走る場合:対応する神経根が実際に圧迫されていることが多く、この段階で腰椎椎間板ヘルニアと判断されるケースが一般的です。
Liu氏は、痛みが膝より下にまで及ぶ場合には、できるだけ早く体を横にして安静にし、そのまま体をまっすぐに保った姿勢で病院を受診するよう呼びかけています。
7割は保存的治療で対応可能
腰椎椎間板ヘルニアと聞くと、「すぐに手術が必要なのでは」と不安になる人も少なくありません。しかしLiu氏によれば、腰椎椎間板ヘルニアのおよそ70%は保存的治療(手術以外の治療)で対応できるといいます。
保存的治療には、安静、生活習慣の調整、薬物療法、理学療法などが含まれます。こうした方法で痛みやしびれが改善するケースも多く、必ずしもすべての患者が手術を受ける必要があるわけではありません。
手術を検討すべき4つのケース
それでは、どのような場合に手術が勧められるのでしょうか。Liu氏は、腰椎椎間板ヘルニアで手術を検討すべき状況として、次の4つを挙げています。
- 保存的治療で改善しない場合
急性の腰椎椎間板ヘルニアでは、通常は約1か月ほど保存的治療を行ったうえで経過をみます。それでも症状が改善しない場合には、手術を検討する選択肢が出てきます。 - 保存的治療が現実的でない場合
安静のために横になっていること自体が難しいなど、保存的治療を続ける条件が整わない場合も、手術が選択肢になります。 - 脚の筋力低下が見られる場合
片脚が上がりにくい、踏ん張れないといった筋力低下は、運動をつかさどる神経が障害されているサインです。この場合、神経への圧迫を早めに取り除く必要が出てきます。 - 馬尾症候群が疑われる場合
排尿・排便のコントロールが難しくなる、足首が垂れたまま上げにくくなる(いわゆるフットドロップ)といった症状は、脊髄の末端部にある神経の束「馬尾」が障害されている可能性を示します。この状態は緊急性が高く、速やかな手術が推奨されます。
手術の安全性と、その限界
腰椎椎間板ヘルニアの手術について、Liu氏は「一般的に安全性は高い」としつつも、「それでもすべてのケースで完全な結果が保証されるわけではない」と強調します。
外科医は、ヘルニアによって圧迫されている神経の周囲の組織を取り除くことで「圧迫を解除する」ことはできます。しかし、その後の神経の回復には個人差があり、必ずしも手術直後からすべての症状が消えるとは限りません。
一方で、条件の整った病院で、経験豊富な外科医が手術を行う場合、合併症などのリスクは非常に低い水準にまで抑えられており、その安全性は国際的な標準と同程度にまで高まっているといいます。
日常でできる「背骨をいたわる」意識づけ
腰痛や背骨のトラブルを完全にゼロにすることは難しくても、日常の小さな心がけでリスクを減らすことはできます。
- 長時間同じ姿勢で座り続けない
- スマートフォンを見るときは、顔を近づけすぎず、目線の高さを意識する
- 疲れを感じたら背中を伸ばすなど、こまめに体を動かす
- 水泳など、背骨への負担が比較的少ない運動を取り入れてみる
腰痛は、世界中で増え続けている「身近な国際的健康課題」です。痛みのサインを見逃さず、自分の生活スタイルと向き合いながら、必要なときには医療機関に相談することが、背骨の健康を守る第一歩になります。
Reference(s):
Health Talk: Unveiling the secrets of the spine – our body's pillar
cgtn.com








