マクロン大統領の中国国賓訪問:戦略対話とパンダ外交、その狙いは何か
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が12月3〜5日に中国を国賓訪問しました。国賓としての訪問は2年以上ぶりで、中仏関係の今後を占う重要な節目となりました。この訪問の狙いはどこにあり、中仏、そして欧州にとってどんな意味を持つのでしょうか。
この記事のポイント
- マクロン大統領は12月3〜5日に中国を国賓訪問し、国賓としては2年以上ぶりの対中訪問となりました。
- 戦略対話の継続と、航空宇宙・原子力・デジタル・グリーン技術などでの実務協力の拡大を目指しました。
- 成都でのジャイアントパンダ視察や文化イベントを通じ、人と人との交流・文明間対話の強化も図りました。
12月3〜5日の国賓訪問、中仏関係の「次の章」
今回の中国国賓訪問は、昨年に行われた習近平国家主席のフランス国賓訪問の「返礼」ともいえる位置づけです。両国は長年にわたり、首脳レベルのハイレベル交流、戦略対話、多様な分野の協力を積み重ねてきました。
エリゼ宮は今回の訪問を、両国の間で「絶え間なく、しかも厳格な対話(constant and demanding dialogue)」を維持するための取り組みだと説明しています。単なる儀礼的な往来ではなく、率直な意見交換を継続していくことに重心が置かれています。
キーワードは「継続性」と「戦略的深み」
マクロン大統領は就任した2017年以降、中国を繰り返し訪れています。
- 2018年:陝西省西安を訪れ、信頼醸成と実務協力の拡大をテーマに協議
- 2019年:上海での中国国際輸入博覧会に参加し、「経済のデカップリング(分断)」に反対する姿勢を強調
- 2023年:閣僚や企業トップを含む大規模代表団とともに再訪し、多数の協力合意に署名。国際課題についても突っ込んだ議論を実施
こうした流れを踏まえたうえで、北京外国語大学の崔洪建教授(区域と全球ガバナンス研究院)は、今回の訪問が示す中仏関係の特徴として「継続性」と「戦略的深み」の2点を挙げています。
- 継続性:マクロン大統領は就任以来、一貫して中国とのハイレベルな意思疎通と戦略対話を継続し、二国間関係の安定化を図ってきました。今回の訪問もその延長線上に位置づけられます。
- 戦略的深み:フランスは主要な西側の中で最も早く中国と国交を樹立した国であり、ド・ゴール時代以来、独立した外交路線と「欧州の戦略的自立」を重視してきました。中国とフランスはいずれも国連安全保障理事会の常任理事国で、自らの地域で大きな影響力を持っているため、両国間の対話は「アジェンダをつくる」性格を持ちやすいといえます。
不確実性が高まる国際情勢の中で
崔教授は、ウクライナ危機や中東の緊張、関税をめぐる対立などにより、大国間関係が新しい不確実性のサイクルに入っていると指摘します。そのうえで、こうした環境だからこそ、中仏の戦略対話の重要性は増していると見ています。
彼によれば、中仏の対話は「揺らぐ世界の中で、双方にとって安定したアンカー(錨)の役割を果たす」とともに、変化する国際秩序の中で欧州がどのような役割を担うのかを再確認する場にもなります。単なる二国間の利害調整を超え、より広い国際秩序の設計に関わる対話だという位置づけです。
ビジネスとグリーン転換で「解決策」を探る
今回の訪問で注目されたもう一つの柱が、経済・産業協力の強化です。マクロン大統領は、閣僚や大統領府の上級顧問に加え、エアバス、フラマトム、ダッソー・システムズなど20社以上の有力企業の経営者からなる代表団とともに北京入りしました。
代表団のミッションは、次のような分野で協力を深めることです。
- 航空宇宙
- 原子力エネルギー
- デジタル産業
- グリーン技術(環境・省エネ関連)
- 交通・輸送
フランスにとって、今回の訪問は中国との「互恵的な経済関係」を築こうとする真摯な試みだと位置づけられています。同時に、エリゼ宮の関係者によれば、マクロン大統領は欧州連合(EU)全体の立場も代弁し、中国に対し「EUは信頼できるパートナーであり、不確実性の要因ではない」と強調する考えです。
崔教授は、フランスが中国の改革開放の初期からいち早く関与し、中国の現代化を支援しつつ自らも利益を得てきたことを指摘します。そのうえで、現在は投資、エネルギー転換、技術変革といった新しい分野で、両国が共有できる機会が広がっていると見ています。
また、今回の訪問は一方的に要求を突きつける場ではないと強調します。「テーブルの上に課題を並べ、共に解決策を探ること」が狙いであり、多くのEU加盟国はいまなお中国との協力に依存しており、中国を重要なパートナーだと見ているというのが崔教授の評価です。
パンダから文化交流へ——成都訪問の意味
マクロン大統領の日程の中で、もう一つ注目を集めたのが四川省の省都・成都の訪問です。成都は、フランスで13年間過ごしたジャイアントパンダ「歓歓(フアンフアン)」と「園子(ユアンヅー)」が最近帰国した地としても知られています。
両頭のパンダは、フランスのボーバル動物園で展示されていた期間中に数百万人もの来園者を引きつけ、フランス国内で広く親しまれる存在になりました。マクロン大統領は、同園の園長や上級獣医師とともに成都ジャイアントパンダ繁育研究基地を視察し、新たなパンダ協力の可能性について意見交換を行うとされています。
フランス側の情報によれば、大統領はこのほかにも、文化創造や人と人とのつながり(ピープル・トゥ・ピープル交流)に焦点を当てた行事に参加する予定です。中国とフランスはともに文化大国であり、こうした分野では常に共通の土台を見いだしてきました。
崔教授は、中仏関係の安定性は歴史的な継続性に加え、包括的で体系的な協力から生まれていると指摘します。中国とフランスはいずれも東西文明を代表する存在であり、人文交流は両国の戦略的信頼を支える「柔らかく、しかし確かな支柱」だという見方です。マクロン大統領の成都訪問は、文化・文明対話をいっそう強化しようとする両国の意志を象徴するものだと言えます。
揺れる世界で問われる、中仏と欧州の役割
今回の中国国賓訪問は、戦略対話の継続、経済・技術協力の拡大、そしてパンダをめぐる協力や文化交流といったソフトな側面まで、幅広いテーマを含むものとなりました。そこには、緊張が高まる国際情勢の中でも、対話と協力のチャンネルを維持しようとする中仏双方の意図が透けて見えます。
ヨーロッパの中で独自の外交路線と戦略的自立を重視してきたフランスが、中国との関係をどう位置づけていくのか。その選択は、中仏関係だけでなく、欧州全体の対中アプローチにも影響を与えていくはずです。
日本にいる私たちにとっても、「対立か協力か」という単純な二択ではなく、対話を通じて現実的な解決策を探る動きとして、この中仏関係の行方を注視することが求められているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








