中国のボランティア映画館「光明影院」 視覚障害者にひらくスクリーン
視覚障害のある人も「映画の感動」を共有できるようにする中国発の取り組みが、2025年の国際障害者デーにあわせて注目を集めています。北京を拠点とするボランティア組織「光明影院(Guangming Cinema)」が、音声による細かな描写を加えたバリアフリー映画を全国に届けているからです。
北京で「音で見る」映画体験
2025年12月3日(水)の朝、中国の首都・北京の西城区にあるコミュニティセンターに、視覚障害やさまざまな障害のある人およそ40人が集まりました。
彼らが「鑑賞」したのは、中国のストリートダンス映画『One and Only』。台詞や効果音の合間に、登場人物の動きや表情、背景の景色まで細かく描写する音声ガイドが差し込まれ、スクリーンの上で何が起きているのかを言葉で伝えます。
視覚障害のあるシュウ・ウェイさん(50代)は「ここにはもう4回通っています。本当に大きな意味があります。音声ガイド版のおかげで、視覚に障害がある人だけでなく、身体や認知機能に課題がある人も、映画をより深く体験できます」と話します。
この日の上映は、毎年12月3日に設けられている「国際障害者デー」に合わせた全国的な企画の一環です。今年、光明影院は中国各地の100を超えるコミュニティ文化センターと連携し、同様のバリアフリー上映会を開催しました。
ボランティア発の「光明影院」とは
音声ガイド付きの特別版を制作したのが、非営利のボランティア団体「光明影院(Guangming Cinema)」です。名前は中国語で「光と明るさ」を意味し、その名の通り、視覚障害のある人たちに文化の光を届けることを目指しています。
光明影院は2017年12月、中国伝媒大学(Communication University of China)の教員と学生ボランティアによって設立されました。この8年間で、制作やプロモーション、配布に関わってきた教職員と学生は800人を超えます。
1本に28日 バリアフリー映画が生まれるまで
見た目は「普通の上映会」に見えるかもしれませんが、その裏側にある制作プロセスは簡単ではありません。共同創設者で同大学の教員でもあるフー・ハイジェンさんによると、90分の映画1本をバリアフリー化するのに、およそ28日を要するといいます。
まずチームは作品を繰り返し鑑賞します。その回数はおよそ10回。場面転換のタイミングや登場人物の表情、カメラワークなど、視覚に頼った情報をくまなくチェックします。
そのうえで音声ガイドの原稿を作成します。文字数は2万〜3万字にも及びます。この工程には、学生ボランティア3人、指導役の教員2人、さらに視覚障害のある当事者1人が加わり、1つのチームとして作品づくりを進めていきます。
フーさんらのチームは、これまでにすでに800本以上のバリアフリー映画を制作してきました。
「赤ってどんな色?」が変えたナレーション
とはいえ、見える人が見えない世界を言葉で説明するのは、決して簡単ではありません。ボランティアのフー・ファンさんには、忘れられない出来事があります。
ある上映会で、客席にいた子どもから「赤ってどんな色?」と聞かれたのです。その問いかけで、フーさんはハッとしたと言います。見える側のナレーターが「当たり前」と思っている感覚が、視覚障害のある観客には必ずしも共有されていないことに気づいたからです。
それ以来、フーさんたちは、画面に映っているものをそのまま言い換えるだけでなく、「音や言葉を通して、どんなふうに世界を感じてもらえるか」を意識した表現を工夫するようになりました。
北京盲人協会の副会長で、映画ファンでもあるツァオ・ジュンさんは「ナレーションの質はここ数年で目に見えて向上しました。音の設計もより没入感のある立体的なものになり、作品の幅もクラシックからアニメ、スリラーまで広がっています。配信先も北京にとどまらず、全国に広がりました」と評価します。
1,700万人に届くために 全国2,244校もカバー
中国には1,700万人以上の視覚障害者がいるとされ、その規模は世界有数です。光明影院の取り組みは、こうした人々に映画体験を届けるためのインフラになりつつあります。
プロジェクトはこれまでに、全国各地で上映会を開催してきました。ボランティアたちは地域の障害者団体や学校と密接に連携し、作品を必要とする人たちのもとに確実に届ける仕組みをつくっています。
- 完成した作品を、地域のパートナー団体に提供
- コミュニティセンターや文化施設での上映会を実施
- 多くの作品を、ケーブルテレビやオンラインプラットフォームで無料配信
取り組みは、国内の特別支援学校2,244校すべてにも広がっています。フーさんによれば、毎年、各学校にバリアフリー映画を収めた専用ハードディスクを送付しているといいます。
映画は「外に出る理由」 変わる日常の会話
こうした上映会は、単に映画を見せる場にとどまりません。ツァオさんは「バリアフリー映画があることで、私たちの生活に色が加わり、外に出る理由ができます」と話します。
上映会のあと、同じ作品を見た仲間同士で感想を語り合う時間は、視覚障害のある人たちにとって貴重な交流の場にもなっています。「ここで話した内容は、見える人たちとの会話のきっかけにもなります」とツァオさんは言います。
光明影院が行った調査では、同団体の作品を「見たい」と答えた視覚障害者の割合は、わずか数年で13%から63%へと大きく伸びたといいます。映画が日常生活の選択肢として定着しつつあることがうかがえます。
視覚障害から「すべての人のアクセシビリティ」へ
フー・ハイジェンさんは、今後の目標として「映画鑑賞に限らず、展覧会や博物館など、さまざまな文化体験の場でアクセシビリティ(利用しやすさ)を高めていきたい」と語っています。
視覚障害だけでなく、聴覚や肢体、認知など多様な障害のある人が、同じ作品を同じ空間で楽しめる環境をどうつくるか。光明影院の取り組みは、その問いに対する実践的な試みといえます。
2025年の国際障害者デーに合わせて行われた今回の全国上映は、「誰一人取り残さない」文化へのアクセスを実現するうえで、静かですが確かな一歩となっています。映画館の暗闇に差し込む一筋の音声と物語が、多くの人にとっての「光」となりつつあります。
Reference(s):
A Chinese volunteer organization transforms film for visually impaired
cgtn.com








