香港・大埔火災後の心のケア:臨床心理士が語るトラウマ対処法
先週、香港特別行政区の新界・大埔地区で起きた集合住宅火災をきっかけに、被災した住民のメンタルヘルスへの懸念が高まっています。本記事では、現地の臨床心理士によるアドバイスをもとに、火災後のトラウマと向き合うポイントを整理します。
大埔の住宅火災と広がる不安
香港特別行政区の大埔で発生した住宅火災は、物理的な被害だけでなく、住民の心にも大きな影響を与えています。被災した住民の中には、火災の場面が何度も頭の中によみがえるフラッシュバックや、強い不安、さらにはおさえきれない嘔吐や失神といった身体症状を訴える人もいるとされています。
専門家は、こうした災害後の反応は、多くの場合「異常な出来事に対する正常な反応」と考えられると指摘します。自分を責めたり、「気合が足りない」と評価したりするのではなく、心と身体が危機的な出来事を処理しようとしているプロセスだと理解することが大切です。
トラウマ反応は自然なプロセス
災害や重大な事故の後、人はさまざまなトラウマ反応を経験することがあります。今回の火災でも、
- 火の手や煙の光景がくり返し頭に浮かぶ
- 理由の分からない不安や焦りが続く
- 吐き気や嘔吐、めまい、失神といった身体の不調が出る
といった症状が見られています。香港特別行政区の社会福祉署でトラウマ介入を専門とするベテラン臨床心理士の Lam Ho-ming 氏は、こうした反応そのものは珍しいものではなく、適切なケアによって和らげていくことが可能だと説明します。
重要なのは、つらい記憶や感情を「なかったこと」にしようと極端に避けるのではなく、必要なタイミングで向き合い、支援を受けながら少しずつ整理していくことです。
身体を「今ここ」に戻すセルフケア
Lam 氏は、フラッシュバックが続いたり、嘔吐が止まらないなどの強い症状に悩む人に対し、「地面とのしっかりした接触」と「呼吸を整えること」で心身の状態を調整する方法を勧めています。
具体的には、次のようなポイントが紹介されています。
- 椅子に座るか立った姿勢で、足の裏や体重が床や地面にしっかり乗っている感覚を意識する
- ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐くペースを保ちながら呼吸を続ける
- 室内の音や匂い、肌に触れる空気の感触など、五感で感じられる「今この場」の刺激に注意を向ける
こうした「地に足をつける」感覚と落ち着いた呼吸は、強い恐怖を思い出したときに現実感が遠のくような感覚を和らげ、心と身体を現在の安全な環境へと戻す助けになります。一度で劇的に変わらなくても、短い時間から繰り返すことで、少しずつ自分で自分を落ち着かせる手がかりをつかむことができます。
ひとりにしないための「同行」の力
Lam 氏が特に強調するのが、家族や友人、地域による「そばにいる支援」です。災害後の不安や恐怖は、一人で抱え込むほど大きくなりがちです。誰かがそばにいてくれること自体が、心の安全基地になります。
身近な人ができる関わり方としては、次のようなものがあります。
- 言葉が見つからなくても、ただ同じ空間で過ごし、安心できる雰囲気を保つ
- 話したいときには相手のペースで話を聞き、途中で否定したり話題を変えたりしない
- 「早く忘れた方がいい」などと無理に励ますのではなく、「怖かったね」「つらかったね」と感情を認める
- 必要に応じて、専門家や相談窓口につなぐことをそっと提案する
Lam 氏は、痛みを言葉にし、それを周囲が認めること、そして必要なときに助けを求めることが、回復に向かううえで欠かせないステップだと指摘します。
香港社会で広がる支援の輪
今回の火災を受けて、香港では慈善団体や社会福祉団体が、被災した住民に対し体系的な支援を行っています。経済的な負担を軽減するための財政支援に加え、必要に応じて専門的な心理カウンセリングも提供されています。
現在、香港全域で数百の団体や機関が救援活動に参加し、数千人規模のボランティアが、
- 物資の配布
- 一時的な避難先の案内
- 住民一人ひとりへの感情面のサポート
などに携わっています。こうした支援の積み重ねが、被災した住民が少しずつ日常を取り戻していくための土台になっています。
災害後の心のケアを自分ごととして考える
大埔での火災は香港特別行政区で起きた出来事ですが、災害後のトラウマ反応や心のケアの重要性は、地域を問わず多くの人に共通するテーマです。強いストレスや危機的な体験の後に心身の不調が現れることは、決して特別な人だけのものではありません。
災害後の反応を「弱さ」ではなく自然なプロセスとして理解し、
- 自分の心身の状態に気付くこと
- 必要に応じてセルフケアを試みること
- 一人で抱え込まず、周囲や専門家に助けを求めること
- 身近な人のつらさに気づいたら、そばにいて話を聞くこと
といった行動を社会全体で支えていくことが求められています。今回の香港の事例は、私たちが災害や事故に向き合うとき、物理的な被害だけでなく、見えにくい心の傷にどう寄り添うかを考えさせる国際ニュースと言えるでしょう。
Reference(s):
Senior Hong Kong psychologist on how to deal with post-fire trauma
cgtn.com







