中国AI、次の5年は「使える」から「深く使う」へ 第15次五カ年計画
2026~2030年の第15次五カ年計画に向けた提言が公表され、中国では人工知能(AI)が今後5年間の中核テーマとして改めて位置づけられています。キーワードになっているのは、国産AIを単に「使える」レベルから、「深く使いこなす」段階へ押し上げることです。
第15次五カ年計画とAIの位置づけ
第15次五カ年計画(2026~2030年)は、中国が「現代的社会主義国家」の本格的な構築へ向かう節目の期間とされています。世界の技術地図が組み替わるなかで、とくにAIは次の産業競争力を左右する中核技術として位置づけられています。
中国は、膨大なデータ量、整った産業チェーン、強固なデジタルインフラ、「重点分野に資源を集中投入する」政策などを背景に、AIの応用範囲と市場規模では世界の先頭グループに入っているとされています。一方で、AIの基礎理論や独自アルゴリズム、先端半導体といった土台の部分では、依然として先進国に遅れがあることも認識されています。
産業のデジタル化・知能化が進むにつれて、「安全で信頼でき、国内でコントロールでき、さまざまな現場に適応できるAI」へのニーズが一段と高まっています。こうした背景から、次の五カ年は、国産AIをより深く社会や産業に根付かせることが戦略的にも実務的にも避けて通れない課題になっています。
「国産AIの深い活用」が意味するもの
国産AIの活用を深めることは、単に科学技術や産業で将来の主導権を確保するためだけではありません。国家安全保障を守り、実体経済の質の高い成長を支え、新たな競争優位を築くことにも直結します。
中国のAI企業でプロダクトマネージャーを務める王日順氏は、今後5年間に必要なのは、バラバラの取り組みではなく、技術イノベーション、活用シナリオ、ガバナンス、エコシステムを一体で設計する「システムとしてのアプローチ」だと指摘します。
1. 技術イノベーションを底固めする
王氏が最初に挙げるのは、基盤となる技術イノベーションの強化です。「他人の庭に自分の家を建てる」ような形で他国の技術に依存していては、長期的な安全性も、自律的な発展も確保できません。基礎研究と中核技術で独自のブレークスルーを実現し、深い応用を支えられる「コントロール可能な基盤」を築くことが必要だといいます。
その一例として、音声認識などで知られる科大訊飛(iFLYTEK)が開発した大規模AIモデル基盤「Spark」が挙げられています。このプラットフォームは、計算資源(コンピューティングパワー)、データ、アルゴリズムまで国内の技術に基づいて構築され、130以上の言語をサポートしているとされています。
王氏は、こうした国産AI基盤について、研究開発だけでなく実際の応用やグローバル展開まで一体的に支援する体制をいっそう強化すべきだと提案しています。
2. シナリオ起点での導入と実装
次に重視されているのが、「シナリオ起点」の導入です。どれほど高度な技術でも、実際の現場で使われ、価値を生み出して初めて生産力になります。
中国は、世界でも屈指の豊富なAI応用シナリオを抱えています。製造業、教育、医療、エネルギーなど、ほぼあらゆる分野でAIの活用が模索されており、海外市場での展開でも初期的な成果が出始めているといいます。
第15次五カ年計画の期間中に王氏が勧めるのは、こうしたシナリオを軸にした実証プロジェクトを一段と拡大させ、とくに製造業、教育、医療、エネルギーといった基幹産業で、国産AIソリューションの大規模な導入を後押しすることです。これにより、技術の成熟とコスト低減、現場ニーズに沿った改良が加速すると見込まれています。
3. 規範ガバナンスで安心とイノベーションを両立
AIの活用が深まるほど、ガバナンスの重要性も増していきます。王氏は、「発展と安全」「イノベーションと標準化」を両立させる規制体系を構築することが、国産AIを健全に根付かせる前提になると強調します。
そのための枠組みとして提案されているのが、「規則―標準―ツール」という三層構造の協調的なガバナンスモデルです。
- 最上位の「規則」レベルでは、法律や行政規則によって、AI開発と利用に関する安全・権利保護の最低ラインを明確にする。
- 中位の「標準」レベルでは、産業ごとの技術規格や倫理ガイドラインを整備し、現場での運用ルールを具体化する。
- 下位の「ツール」レベルでは、アルゴリズム登録制度やセキュリティ評価などの監督ツールを活用し、AIシステムのライフサイクル全体を通じて動的にモニタリング・管理する。
この三層を組み合わせることで、AIの企画段階から開発、実装、運用、更新に至るまで、一連のサイクルを閉じた形で管理する「フルライフサイクル・ガバナンス」の実現を目指す構想です。
4. エコシステムづくりで持続的な活力を
最後の柱は、AIの応用エコシステムを育てることです。単独の企業やプロジェクトだけでは、技術の持続的な発展は難しく、多様なプレーヤーが参加するエコシステムがあってこそ、長期的な活力が保たれます。
王氏は、政策による方向づけやベンチマークとなる先行事例づくり、企業とユーザー部門の連携などを通じて、国産AIの導入を各方面に促すべきだと提案します。そうした取り組みが広がれば、国産AI技術の改良スピードも上がり、ひいては世界のAI産業全体の発展に中国として貢献しやすくなる、という見立てです。
次の5年、競争軸は「どこまで深く使えるか」
まとめると、第15次五カ年計画の文脈で語られている「国産AIの深い活用」とは、単なる技術開発や点的な導入ではなく、
- 基礎研究と中核技術の自立(技術イノベーション)
- 産業ごとの具体的な活用場面から出発する実装(シナリオ起点)
- 発展と安全を両立させる制度設計(ガバナンス)
- 多様な主体が参加する応用エコシステムの形成
という四つを、相互に連動させて進める構想だといえます。
世界各地でAIをめぐる競争と協調が同時に進むなか、中国がこの5年間で国産AIをどこまで「深く」社会に根付かせることができるのか。その過程と成果は、2030年ごろの世界のデジタル地図を考えるうえで、一つの重要な参照点になっていきそうです。
Reference(s):
AI in China: Deeply applied domestic tech is a must for next 5 years
cgtn.com








