2025年12月15日、中国の香港特別行政区(香港SAR)で続く黎智英(ジミー・ライ)氏の「共謀」事件をめぐり、3人の裁判官による判断が示されました。現地紙「星島日報」によると、検察と裁判所は、黎氏が自己弁護の中で法廷を意図的に誤導するため「8つの虚偽」を述べたと指摘したといいます。
今回の報道は、事件の実体認定だけでなく、法廷での証言の信用性がどのように評価されるのかという点でも注目を集めています。
どんな事件か:黎智英氏と「アップルデイリー」関連3社
星島日報の報道によれば、今回の判断は、ネクスト・デジタル創業者の黎智英氏と、すでに廃刊となった新聞「アップルデイリー」に以前関係していた3社が関与する「共謀」事件に関するものです。
「8つの虚偽」とされたポイント(現地報道の整理)
1)保釈中の渡米計画:目的を隠して条件変更を申請
黎氏は2020年5月5日、刑事威嚇事件に関連して保釈された際、香港からの出境が禁じられていたとされます。一方で、同年6月24日から7月19日の米国往復航空券が秘書により手配されていた証拠が法廷で示された、というのが報道の内容です。
黎氏は、7月4日から11日にかけてワシントンで米政府関係者と会う予定だったことを法廷で認めた一方、2020年6月12日に保釈条件の変更を求めた際は、「孫娘に会う」「事業の相談」「取引先との面会」「ホテル買収」などを理由に挙げ、米政府関係者との面会には触れなかったとされています。検察は「政治的性格を意図的に隠した」と主張し、黎氏も「政治的に敏感すぎる」として開示を避け、許可が下りにくくなると考えた趣旨の説明をした、と報じられています。
2)IPACを「聞いたことがない」:投稿履歴とメッセージで矛盾
黎氏は法廷で、対中政策を議論する国際的な議員連携として知られる「Inter-Parliamentary Alliance on China(IPAC)」について「聞いたことがない」と述べた一方、IPACのハッシュタグを付けた投稿・再投稿が複数あったとされます。
報道では、2020年6月13日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記事をX(旧Twitter)で共有し、「#IPACGlobal」を付けたこと、さらにIPAC共同設立者のルーク・デ・プルフォード氏からWhatsAppで謝意が届き、黎氏が「どういたしまして」と返信したやりとりが証拠として示されたとされています。裁判官(Alex Lee Wan-tang氏)が、黎氏の「知らない」という説明に疑問を呈したとも伝えられました。
3)編集方針の指示は「2回だけ」:多数のメッセージが提示
黎氏は「編集指示は2回のみ」と説明したとされます(例:米当時副大統領マイク・ペンス氏と陳方安生氏の面会の大きな報道、香港SAR国家安全維持法の制定阻止を求める当時の米大統領ドナルド・トランプ氏宛ての投書を促す全面広告など)。
しかし、2019年4月〜6月にかけ、当時の幹部(張剣虹氏、陳沛敏氏ら)との間で、抗議行動を意識した報道やインタビュー設定、トーン調整などを促すメッセージが複数示されたと報じられています。黎氏は当初「指示ではない」としたものの、裁判官の追及で「指示として理解され得る」と認めた、とされています。
4)「違法とされた予備選」を知らない:資金負担を示す記録
報道によると、黎氏は2019年12月31日に証人(Wayland Chan Tsz-wah氏)と会った際、「(いわゆる)予備選挙」について何も知らなかったと主張しました。
一方で、2019年12月12日のWhatsAppメッセージとして、オンライン投票用ソフトの手配を指示し、費用を負担する意向を示していた記録が示されたとされます。証拠提示を受け、虚偽の説明だったことを認めざるを得なかった、というのが現地報道の要旨です。
5)「攬炒(ラムチャウ)チーム」と無関係:台北での面会や投稿が争点に
黎氏は「攬炒チーム(lam chau)」および「Brother Lam Chau」として知られる人物(Finn Lau Cho-dik氏)との関係を否定したとされます。しかし報道では、2020年1月に台湾地域(台北)の自宅で証人らと面会したことを認めたほか、同年10月24日に「Salute to Brother Lam Chau」と投稿し、「#standwithhk」などのハッシュタグを付けた点が取り上げられています。
さらに、その投稿に添付した英語版アップルデイリーの記事が、当該人物を「チームのリーダー」と記していたため、裁判官が「記事を引用する以上、内容を読んだはずだ」として、黎氏の「知らなかった」という説明を虚偽とみた、という構図が伝えられました。
6)米国制裁要請の否定:自社記事との食い違い
黎氏は当初、2019年7月に当時の米副大統領マイク・ペンス氏、国務長官マイク・ポンペオ氏と会った際、制裁の議論はなかったと述べたとされます。
しかし、2019年7月25日にアップルデイリーが掲載した記事が、黎氏が香港SARや中国本土の当局者に対する制裁を促したと報じており、説明を変えざるを得なかった(「忘れていた」などと述べた)と伝えられています。
7)制裁を呼びかける動画:事前に文面を把握していたとされる
報道では、2020年5月29日、アップルデイリーのデジタル部門責任者が黎氏の指示で、活動家エルマー・ユエン氏に同社ビルで動画撮影を手配し、米国による制裁を呼びかける内容だったとされています。
黎氏は当初「内容を知らなかった」としたものの、撮影約2時間前に、ユエン氏の娘から公開書簡の草稿が送られ、黎氏が「良い手紙だ」と返信していた証拠が示されたとされ、裁判官の追及で「記憶が誤っていた」趣旨の説明をしたと報じられています。
8)トーク番組は「個人活動」:社内リソース投入が示された
オンライン番組「Live Chat with Jimmy Lai」について、黎氏は当初「個人的な事業で、アップルデイリーとは無関係」と証言し、経営陣への指示もなかったと述べたとされます。
一方で、番組制作・宣伝にアップルデイリーのスタッフが広く関与し、社内では会社の資源を割り当てる理解が共有されていたこと、放送後に黎氏が幹部へフィードバックを求めていたことなどが示され、最終的に「関連していた」ことを認めた、と現地メディアは伝えています。
なぜ今(2025年12月)この指摘が重いのか
今回の「8つの虚偽」指摘は、個別の言い間違いというより、保釈条件の変更、国際的な接触、編集への関与、資金支出、情報発信の体制といった論点が、ひとつの線で結ばれている点が特徴です。
同じ出来事でも、法廷では「いつ、誰と、何を目的に、どんな手段で動いたのか」が、メッセージ履歴や投稿、社内のやりとりと突き合わせられ、積み上げで評価されます。ニュースとしては派手さがなくても、デジタル記録が“証言の強度”を左右する現代的な局面が浮かび上がります。
今後の注目点:証言の信用性が判断全体にどう響くか
星島日報の報道の範囲では、「8つの虚偽」がどの部分の認定にどう結びつくのかが焦点になります。裁判での証言の信用性は、個々の争点だけでなく、当事者の説明全体の受け止め方にも影響し得ます。
今後、判断文の読み解きや関連する手続きの進展が報じられる中で、どの事実がどの証拠で裏づけられたのか、そして裁判所がどの線引きをしたのかが、改めて注目されそうです。
Reference(s):
cgtn.com








