中国の研究者、AIで「i-EBM」推進 エビデンス医療を高速・個別化へ
医療現場で重視される「エビデンスに基づく医療(EBM)」が、AIの活用で次の段階へ進みそうです。中国の研究チームが、AIを組み込んだ「デジタル・インテリジェントEBM(i-EBM)」の枠組みを提案し、根拠づくりと臨床判断をより迅速・精密にする構想を示しました。
i-EBMとは? 3つの柱でEBMを“進化”させる
発表によると、i-EBMは従来のEBMを置き換える“破壊”ではなく、AI時代に合わせた「発展形」と位置づけられています。中核になるのは次の3要素です。
- 多元的なデータ統合:研究論文のエビデンス、医学生物学の知識体系、電子カルテや医用画像など実臨床データをまとめる
- 知的なエビデンス分析:AIでパターン認識や関連性の抽出、因果関係の分析などを支援する
- 個別化された意思決定支援:患者ごとの情報を踏まえ、診療の参考提案を提示する
研究を主導した蘭州大学(公衆衛生学院)の葛龍(Ge Long)教授は、AIが「大量データを処理し、参照となる治療計画へ変換する力」を持つことで、EBMがAI時代に適応しやすくなると説明しています。
なぜ今、i-EBMが注目されるのか:EBMの“時間差”と“個別化の壁”
EBMは、最良の研究根拠、臨床家の判断、患者の価値観(懸念や希望)を組み合わせる医療意思決定の考え方として、長年、医療の質を支えてきました。一方で研究チームは、現代の複雑な医療環境では次の課題が目立つと指摘します。
- 時間差(タイムラグ):論文の探索、選別、更新に時間がかかる
- エビデンスの分断:情報が領域ごとに散らばり、つながりが見えにくい
- 個別性の不足:患者ごとの事情を十分に織り込むのが難しい
理論上は幅広い情報を扱うEBMも、現場の臨床家が膨大な情報を「探して、並べて、分析する」には限界がある、という問題意識です。
AIで何が変わる? 文献レビューが「数カ月→数時間(時に数分)」へ
i-EBMの狙いは、医療の根拠づくりの“繰り返し作業”をAIで大幅に軽減することです。研究では、AIが文献スクリーニング(必要な研究の抽出)やエビデンス更新を短時間で進められる可能性に触れています。これにより、治療の判断材料が「古いまま放置される」リスクを減らしやすくなります。
「知識グラフ」で、点在する情報をつなぐ
i-EBMでは、知識グラフ(情報同士の関係をネットワークとして表す手法)などのAI技術を使い、研究データ、診療記録、医用画像、さらには環境・気象情報まで、領域をまたいだ関連付けを進める構想が示されました。従来は人手では難度が高かった「横断的なつながり」を作ることで、より立体的な解釈に近づけるとしています。
最初は「標準化された提案」から:医師の判断を置き換えない設計
研究チームは、i-EBMが初期段階で提供できるのは「標準化された計画(治療の参考案)」であり、あくまで医師の判断を支える位置づけだと述べています。機械の提案と人の専門性が協働する形を想定している点が特徴です。
伝統中国医学(TCM)研究にも応用余地:複雑系の解析を支援
また、研究では伝統中国医学(TCM)のように要素が多く複雑な領域でも、データ統合、パターン認識、因果分析の支援によって、根拠の整理や評価手法の改善に役立つ可能性があるとしています。
実装はどこまで進んでいる? 小児肺炎での共同研究も
研究チームは、研究成果をもとに複数のデジタル・インテリジェント製品を開発し、医療研究と実務の支援に活用しているとしています。さらに医療機関と協力し、小児肺炎の診療を対象に、画像・検査・臨床情報を統合したマルチモーダル(複数種類)データベースを構築し、より科学的な診断・治療計画の検討に取り組んでいるということです。
“AI時代のEBM”が投げかける問い:速さと納得感を両立できるか
AIがエビデンス更新を加速させ、情報のつながりを可視化できるようになると、医療の意思決定は「速くなる」一方で、提案の根拠をどう説明し、患者の懸念や価値観とどうすり合わせるかが一層重要になります。i-EBMは、医療の標準化と個別化を同時に進める挑戦として、今後の運用設計や現場実装の広がりが注目されます。
※本記事は、学術誌「Chinese Science Bulletin」に掲載された研究内容の断片情報に基づき構成しています(2025年12月18日時点)。
Reference(s):
Chinese researchers inject AI power to evidence-based medicine
cgtn.com








