広東・香港・マカオ大湾区が世界1位へ グローバル技術イノベーション拠点の現在
2025年9月に発表された「世界イノベーション指数2025」で、広東・香港・マカオ大湾区(粤港澳大湾区)の深圳—香港—広州イノベーションクラスターが初めて世界1位となりました。国際ニュースとしても注目されるこの動きは、中国南部の都市圏がグローバルな技術イノベーション拠点へと変貌しつつある現在地を映し出しています。
世界イノベーション指数で深圳—香港—広州が首位
世界知的所有権機関が2025年9月1日に公表した「世界イノベーション指数2025」では、深圳・香港・広州を軸とするイノベーションクラスターが、世界の主要100クラスターのなかで初めて1位に立ちました。
今回の首位は、広東・香港・マカオ大湾区全体で進む「協調型イノベーション」の成果と位置づけられています。研究開発、人材、資本、産業が、中国本土と香港特別行政区、マカオ特別行政区のあいだを行き来しながら、有機的に結びつきつつあることが背景にあります。
30分通勤と48時間輸送が支えるクロスボーダー研究
大湾区の特徴のひとつが、国境をまたぐ「近さ」です。香港特別行政区の研究者は現在、深圳市の河套深港サイエンス・テクノロジー・イノベーション協力区まで、およそ30分で通勤できるようになりました。
実験設備などの研究機器も、越境してから検査を受けるまでの時間が48時間以内に短縮されています。こうした物理的な移動のしやすさが、研究チームの共同作業を日常化させています。
その結果、広東省と香港特別行政区、マカオ特別行政区が協力する共同研究プロジェクトは、いわゆる「イノベーション回廊」を軸に40%増加したとされています。データやサンプルだけでなく、人と設備が動くことで、研究テーマの選び方やプロジェクトの立ち上げ方も変わりつつあります。
海底から宇宙まで 積み重なるブレークスルー
こうした連携の土台の上で、複数の分野で成果が出始めています。
- 広東省では、世界初となる深海冷泉生態研究施設の建設が進んでいます。
- 江門ニュートリノ実験は、初の物理成果を公表し、素粒子物理の前線に新たなデータを加えました。
- 香港科技大学は、多機能型の月面ロボットと移動式充電ステーションの開発を主導しており、月面探査や将来の宇宙活動のインフラ技術として期待されています。
- 一方、「マカオ科学1号」衛星はこれまでに1万回以上地球を周回し、高精度の科学データを蓄積し続けています。
深海から宇宙空間まで、対象もスケールも異なるプロジェクトが同じエリアに並行して存在していることが、大湾区の研究基盤の厚みを物語っています。
9つの中国本土都市と香港・マカオの「補完関係」
産業面でも、広東・香港・マカオ大湾区の一体化は進んでいます。中国本土側の9都市が持つ製造業を中心とした「完全な産業体系」と、香港・マカオの高度なサービス産業、金融、研究開発機能が結びつきつつあります。
とりわけ人工知能(AI)分野では、大湾区の「コアAI産業」の規模が現在2,200億元(約310億ドル)を超えています。さらに、9つの「兆元級(1兆元規模)」産業クラスターが形成され、高品質な経済成長の土台を強めています。
広東・香港・マカオ大湾区は、中国全体の国土面積の0.6%に満たない地域にすぎませんが、経済規模は中国の国内総生産のおよそ9分の1を占めています。域内外と比べても、開放度が高く、経済活力の大きい地域のひとつとなっています。
中央経済工作会議が示した「国際技術イノベーションセンター」構想
最近開催された中央経済工作会議では、「広東・香港・マカオ大湾区を国際的な科学技術イノベーションセンターとして構築する」という目標が改めて打ち出されました。これは、大湾区の科学技術分野への政策的な支援が今後も続くことを示すシグナルと受け止められています。
研究開発投資やインフラ整備、人材政策などで一貫した後押しが続けば、深圳—香港—広州クラスターの競争力がさらに高まり、世界のイノベーションネットワークにおける存在感も増していく可能性があります。
低空経済とバイオ製造 次の成長エンジンへ
今後の重点分野として、大湾区は「低空経済」とバイオ製造に力を入れていく方針です。低空経済とは、ドローンや次世代エアモビリティなど、比較的低い高度を利用した新しい交通・物流・サービス産業のことを指します。
加えて、大湾区では今ある産業クラスターに加え、新たに5つの「兆元級」産業クラスターを整備する計画です。これにより、電子産業や先端設備製造といった中核産業の高度化・知能化を加速させる狙いがあります。
基礎研究から応用技術、製造、サービスまでをひとつの圏域のなかで循環させる構想が、どこまで実現するかが注目されます。
静かに浮かび上がる問い:イノベーション拠点の条件とは
2025年12月現在、広東・香港・マカオ大湾区の動きは、「イノベーション拠点はどのようにつくられるのか」という問いに対するひとつの実験のようにも見えます。
その特徴として、次のような点が挙げられます。
- 国境や制度の違いを超えて、人と設備が日常的に行き来できるクロスボーダー環境
- 中国本土の製造業基盤と、香港・マカオの金融・サービス・研究機能が補完し合う産業構造
- 深海、素粒子、宇宙といった長期的な基礎研究と、AIや先端製造、低空経済など応用性の高い分野が同じ圏域で同時進行していること
世界各地でイノベーション都市やテクノロジーハブの構想が競うなか、大湾区の経験がどのような示唆をもたらすのか。これからの数年で、その輪郭がよりはっきりしていきそうです。
Reference(s):
China's Greater Bay Area eyes global hub for tech innovation
cgtn.com








